バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者と反対派が衝突した8月12日の土曜、ホテルチェーンのハイアット(Hyatt)はジレンマに陥った。同社は米オピニオン誌『アトランティック(The Atlantic)』と提携し、社会的包含、理解、連帯の重要性をテーマにした、ブランデッドコンテンツを展開する直前だったのだ。
バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者と反対派が衝突した8月12日の土曜、ホテルチェーンのハイアット(Hyatt)はある種のジレンマに陥った。同社は米オピニオン誌『アトランティック(The Atlantic)』と提携し、社会的包含、理解、連帯の重要性をテーマにした、1カ月にわたるブランデッドコンテンツ展開を開始する直前だったのだ。緊張が高まるなか、ハイアットは制作に1年以上を費やしたこのパートナーシップを進めるべき否か、判断に悩んだ。事件に便乗しているとみなされることは、絶対に避けたかった。
「あの週末の出来事は国中を揺るがした」と、ハイアットのグローバルCMO、マリアム・バニカリム氏は振り返る。「我々は週末のあいだ判断を保留し、予定通り進めるか、何か別のことをするのか、翌月曜に最終決定することにした」。
実施をためらった理由
ハイアットに限らず、ブランドは政治的意図があると判断されかねないキャンペーンの実施をためらうものだ。たとえば今年3月、YouTube、マイクロソフト、シボレー(Chevrolet)、カバーガール(CoverGirl)などのブランドは、政治的主張を掲げることなく、広告を通じてイスラム教徒の社会への包含をアピールした。ハイアットもそういったブランドのひとつで、アカデミー賞授賞式の「理解する世界のために(For a World of Understanding)」と題した広告では、ヒジャブ(スカーフ)をかぶった女性を起用した。ブランドには、時代精神をくんで顧客とのつながりを築くことが必要だ。
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その反面、対立が先鋭化するなかで、どちらかの側についたとみなされることにも気をつけなくてはならない。ドナルド・トランプ大統領が就任して以来、アンダーアーマー(Under Armour)、ケロッグ(Kellogg’s)、ニューバランス(New Balance)、チョバニ(Chobani)、LLビーン(L. L. Bean)など、政治思想の表出に反発をうけ、ボイコットに直面したブランドは枚挙にいとまがない。
ハイアットがもっとも心配したのは、アトランティックとの提携のハイライト部分だった。それは「ともに歩もう(Come Together)」と題する動画で、人種・民族の異なる人々が抱きしめあい、笑いあう映像をバックに、スポークンワード・アーティストのタリオナ・ボール氏が詩を朗読するというものだ。動画では、あらゆる立場の人々がともに歩み、他者を理解することの重要性が強調されている。
「誰かの靴をはいて1マイル歩くには、まず靴を借りられるくらい相手に近寄らなくてはいけない」と、ボール氏は動画のなかで語る。「理解する新しい世界に一歩踏み出すためには、この場所で50年前に人々が気づいたように、分断ではなく団結によってのみ新たな世界の扉は開くのだと、我々全員が理解しなくてはいけない」。
50年の時を越えて
この動画のコンセプトは、50年前、公民権運動指導者ゼルノナ・クレイトン氏が、マーティン・ルーサー・キング牧師とともに南部キリスト教指導者会議の開催場所を探しまわった逸話に基づく。ほかのどの会場も受け入れを拒んだなかで、ハイアット・リージェンシーで会議が開催されてから、今年の8月16日でちょうど50年になるのだ。
全米に混乱と憎悪が広がり続けたときでさえ、ハイアットが発信するメッセージを政治的配慮でゆがめることはなかったと、バニカリム氏は語る。
前述の動画に加え、このキャンペーンではアトランティックのウェブサイト上にブランデッドコンテンツの特設ページが設けられ、クレイトン氏の詳しいプロフィールや、彼女の指導者としての功績を紹介する動画が公開されている。アトランティックにはオンラインバナーも掲載され、SNSを通じた動画のプロモーションも行われる。
パブリッシャーの理解
アトランティックも、ブランデッドコンテンツ継続というハイアットの決定を支持している。「アトランティックは、重要な問題に関して、包括的なアイデアや多様な見解を取り上げることを目指している」と、アトランティックのシニアバイスプレジデント兼発行人、ヘイリー・ローマー氏は語る。「そうした理由から、このパートナーシップは我々にとって間違いなくやりがいのある選択だった。『理解』の形成は、我々がまさに最善を尽くして達成しようとしていることだ」。
バニカリム氏は、オーディエンスが今回のメッセージを対一方に味方するものだと誤解することはないと考えている。「理解することは、敵味方の話ではなく、人々を結束させるものだ」と、同氏は語る。「この国はいま、かつてないほど理解を必要としていると言ってもいい」。
Ilyse Liffreing (原文 / 訳:ガリレオ)