美容整形外科医として開業を続けているアレクサンドリデス医師と妻、エヴァ・アレキサンドリディス氏によるブランド、111スキン。トレンドに飛びつかない極めて科学的なブランドとしてビジネスを推進している。ブランド創設の方法論と今後の事業展開についてきいた。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ヤニス・アレクサンドリデス医師は、ロンドンにある自分の美容整形外科クリニックの患者のために初めて美容セラムを処方したとき、それをビューティ業界でもっとも人気のラグジュアリーブランドのひとつに成長させる意図はなかった。
アレクサンドリデス医師のブランドは、美容整形外科医として開業を続けている同医師が傷跡などの治癒に使える術後治療を追求するなかで生まれた。しかし、患者のひとりがハロッズ(Harrods)のパーソナルショッパーに同医師のセラムを愛用していることを話したとき、この老舗高級デパートはその製品を取り扱おうとした。これがすべての始まりだった。ロンドンのハーレー・ストリート111番地にあるアレクサンドリデス医師のクリニックの所在地がブランド名の由来となった。
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2012年にハロッズの棚ひとつからスタートし、以来、同ブランドは、バーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)、ネッタポルテ(Net-a-Porter)、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)、ハーヴェイ・ニコルズ(Harvey Nichols)、メッカ(Mecca)などのグローバル流通ネットワークをゆっくりと静かに成長させてきた。事業設立の際、111スキン(111Skin)は、小売拡大を支援する共同創設者として、アレクサンドリデス医師の妻、エヴァ・アレキサンドリディス氏を迎え入れた。アレクサンドリディス氏は、現在同ブランドのクリエイティブディレクションと新製品開発も監督している。
アレクサンドリデス医師は、米Glossyビューティポッドキャストで、「取締役会やトレンドに基づいて決断を下したことはない」と、ホストのプリヤ・ラオ氏に語った。「我々はクリニックで診察した患者によって製品の意思決定をする。実際の皮膚に生じている問題と実際の解決策に基づいており、優れた結果が出ている。これが我が社が他社とは異なっている点、つまり、トレンドに飛びつかない極めて科学的なブランドであるということだ」。
この戦略は111スキンに大いなる利益をもたらしている。2020年の卸売売上高は2000万ドル(23億円)、小売売上高は約5000万ドル(約57億円)だ。製品の価格範囲は15ドル(約1700円)〜995ドル(約11.4万円)。2020年2月、111スキンは、ヴォルティエ7(Vaultier7)からの外部資金調達を行った(金額は非公開)。ヴォルティエ7は、これまでにヘアケアブランドのギソウ(Gisou)とファッション再販プラットフォームのヴェスティエール・コレクティブ(Vestiaire Collective)に投資している。
以下、ポッドキャストでの対談のハイライトを紹介する。なお、読みやすさを考慮して若干の編集を加えている。
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ブランドにふさわしい小売パートナーを見つけること
アレクサンドリデス医師:「(ハロッズで取り扱ってもらえたことは)すばらしい経験だった。自分は診療の経験しかないので、商品のローンチについては無知なのだが、ハロッズのチームとの(協働)経験は類を見ないものだ。2011年に初めて会ったとき、ハロッズは、ビューティ部門でのローンチ要請を(さまざまなブランドから)月に50件ほど受けていたのだが、実際のローンチに選ばれるのは年に2ブランドだけ。ハロッズは(ブランドの)メッセージを理解するために、(たとえば)消費者がどのように製品を認識しているか、消費者は何を求めているのかなど、(小売という)反対側からの洞察を与えてくれた。医師として、私には、適切なパッケージや色、そして消費者とのつながりを策定するためにこの支援が必要だった」。
2020年のオンライン販売への移行
エヴァ・アレクサンドリディス氏:「我々は小売から始めたし、現在、コロナの状況でも小売業をサポートしている。しかし、幸運なことに、我々は多くの営業担当者をオンラインコンサルタントに変えることができた。彼らはしっかりトレーニングを受けており、ブランドを愛してくれているので、これはある種儀式的な経験だった。コンサルタントは全顧客と綿密に協働して、製品を一緒に使い、(スキンケアの)スケジュールを立てた。どの製品も、(コロナ禍で促進された傾向の)自宅でスキンケアを行う習慣にそっている。我々は単なるスキンケアブランドではない。体験型ブランドであり、世界の50カ所を超える5つ星スパで使われている。顧客にもっと楽しい方法で自宅でビューティ体験をしてもらえるように移行するのは簡単だった。だが、小売店は力強く復活しており、現在ではコロナ以前の売り上げを目にしている」。
外部の投資家を受け入れることについて
アレクサンドリデス医師:「むずかしい決断だった。ほとんど毎週、我が社に関心を持つ企業からメールや電話を受けていた。デパートで我が社の製品を見たとか、我が社についての話を聞いたことがあるという企業で、相手も我々が投資のアプローチを多く受けていることを知るようになった。会社の最初の9年間に見られた有機的な成長こそが我々が大切にしてきたことであり、この科学的ブランドの基盤を我々が好きなように築くのに役立ったと、長い間考えていた。しかし、我々がチームとして、また、多数の顧客を持つ会社として成長するにつれて、課題は変化し、規模も変化している。適切な投資家はブランドにとって素晴らしい味方になりうる。我々は多くの投資家の中から、戦略的投資家としても、1対1で対応する相手としても、適切な相手を選ぶことができて幸運だった。(ヴォルティエ7は)ブランドを理解して、その価値を尊重してくれており、我々が正しいと信じることに干渉せずに、我が社が進んできた道のりを歩み続けさせてくれる」。
[原文:111Skin founders on building an expert-led brand: ‘We make product decisions based on patients’]
EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:小玉明依)