アスラグジュアリー(athluxury)は新たなアスレジャーだ。2020年は多くのD2Cやマスブランドが、2021年にはハイエンドなファッションブランドがアクティブウェアやアスレジャーを展開した。顧客のマインドセットや進化を遂げたスタイルにパンデミックの影響も重なり、新たな消費者を獲得する機会にもなっている。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
今回は、アスレジャーのトレンドがファッション業界全体にどのような影響を及ぼしているかを紹介する。
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ハイエンドなブランドが続々とアスレジャーに参入
アスラグジュアリー(athluxury)は新たなアスレジャーだ。
2020年は多くのD2Cやマスブランドがアクティブウェアやアスレジャーのカテゴリーへと拡大したが、2021年にはハイエンドなファッションブランドがそれに続いた。現在の顧客のマインドセットや進化を遂げたスタイルがそうしたブランドの動向を刺激し、パンデミックによる不安定な時期が長期化する中で、新たな消費者を獲得する機会にもなっている。
アニーン・ビン(Anine Bing)は、1月からアニーンスポーツ(Anine Sport)をローンチしており、レギンス、スポーツブラ、サイクルショーツなどを59ドル(約6750円)から149ドル(約1万7000円)の価格で販売している。セルフポートレイト(Self-Portrait)の創業者ハン・チョン氏が12月中旬に買収したばかりのローランムレ(Roland Mouret)は、10月にワークアウトに最適なボディ(Body)コレクションをリリース、また同じく10月、現在上場しているゼニア(Zegna)が「テクニカルトラウザー」とキャップ、スキーで構成されたアウトドアカプセル(Outdoor Capsule)コレクションを発表している。そして12月中旬、ニューヨークのデザイナーのアダム・リップス氏は、ジョガー、トラックスーツ、テニスに完璧なアイテムからなる新しいアクティブライン、フランジャー(Franger)を発表した。
最高級のラグジュアリーブランドでさえも、例のごとく遅ればせながらではあるが、アクティブウェアの世界に足を踏み入れようとしている。11月、エルメス(Hermès)はブルックリンでエルメスフィット(HermèsFit)というポップアップを展開、ブランドのシグネチャーであるスカーフを取り入れたヨガクラスや、バングルをウェイトに見立てた「ブレスレットでキックボクシング」などを主催した。その場ではブランドロゴ入りのケトルベルやボクシングバッグなどもフィーチャーされたが、これらの器具は購入できない。一方、ディオール(Dior)は2022年1月にスポーツブラ、ボクサーショーツ、ジム用具などの新しいコレクションとなるディオールバイブ(Dior Vibe)のポップアップやポップインを、上海やビバリーヒルズなど各都市で展開する予定である。
低価格のアクティブウェアで新規顧客を開拓
新たにアクティブウェアを作っているブランドは、その製品を「アスラグジュアリー(athluxury)」や「リュクスレジャー(luxe-leisure)」と表現している。しかし、その多くはそうしたスタイルを自ブランドのプレタポルテよりも意図的に低価格で販売している。
ブラジルのファッションブランド、パットボー(PatBo)の創業者でクリエイティブディレクターのパトリシア・ボナルディ氏いわく、2021年12月初めに彼女のブランドが初のアクティブウェアコレクションを発表したとき、その目的は「より幅広いデモグラフィックにリーチし、新しいオーディエンスにブランドを紹介すること」だった。そこに含まれるスタイルの価格は128ドル(約1万4600円)から178ドル(約2万円)だ。パットボーのワンピースは550ドル(約6万2900円)からである。
この戦略はアニーン・ビンでも機能している。同ブランドの最高戦略責任者アンニカ・メラー氏によると「ABスポーツは、アニーン・ビンの魅力と露出を拡大した」とのこと。
「私たちのデータは、このカテゴリーにおいて新規顧客が指標を上回ったことを示している」と彼女は言う。
アクティブウェアのカテゴリーに早くから取り組んでいるブランドにアダム・セルマン(Adam Selman)がある。同ブランドはニューヨーク・ファッションで発表したプレタポルテコレクションを中心したラインから、アダム・セルマン・スポーツ(Adam Selman Sport)というレーベルでパフォーマンススタイルのみを販売する方向へと2019年にビジネス全体の方向転換を図った。「大きな成長」を目にしたという同ブランドは、2022年1月4日にシームレスなアクティブウェアカテゴリーのローンチを予定していると昨年発表した。
「より多様な種類の製品、よりシャープな価格設定、幅広いサイズ展開によって、さらに多くのオーディエンスにリーチすることができるようになった」とセルマン氏は言う。新しいシームレスコレクションのスタイルは、100ドル(約1万1400円)以下の価格で、XSからXLまでのサイズ展開となっている。
アクティブウェアは見た目のデザインだけでなく、機能性が重要なカギ
とくに消費者の行動様式の変化に対応することを意図しているこれらのブランドにとって、単に流行しているルックだけでなく、機能性を提供することが重要な鍵となる。
「フィットネスと健康は、多くの人にとって最重要事項だ」とボナルディ氏は言う。「だから、パフォーマンスウェアの技術的な側面をマスターすることは、私にとって重要だった」。
パットボーのアクティブウェアコレクションの20着は、どれもリサイクル生地で作られており、汗を逃がすようにデザインされている。これらは「業界で先端を行くアクティブウェア工場」のひとつで生産されているという。
リップス氏はプレス声明で、フランジャーは「テニスコートからブランチまで、進化し続ける現代女性のライフスタイルを凝縮することを意図した」と述べている。
これと似たようなメッセージを伝えるため、アニーン・ビンは、レギンスなどABスポーツのスタイルとブランドの主力となる製品ライン(たとえばメンズウェアにインスパイアされたブレザーなどのアイテム)をミックスしたアウトフィットを定期的にeコマースサイトで紹介している。
同様にセルマン氏も「我々はジムのために機能的でありながら、生活のためにもデザインされたスタイルを作ることについて常に話している」と述べている。
さらに彼はこう付け加えた。「人生はスポーツだ。そうだろ?」。
おそらく信頼性を得るための策として、これらのブランドのあいだには有名アスリートの名前を新しいアクティブウェアのスタイルに利用するという傾向がみられる。アダム・リップス氏はフランジャーで、大坂なおみ氏、シモーネ・バイルズ氏、ミア・ハム氏などにオマージュを捧げている。ローランムレのスタイルには、フロージョー(Flo-Jo、フローレンス・ジョイナーの愛称)というボディスーツがある。
ラグジュアリーなアクティブウェアの流行はまだ続く
いずれにせよ、アスラグジュアリーのトレンドは衰える気配がない。先週、フィリップ・プレイン(Philipp Plein)は、「ラグジュアリーなアクティブウェア製品の需要に応えるため」、プレイン・スポーツ(Plein Sport)のブランドを復活させると発表した。同ブランドはもともと2016年にデビューしたが、2018年に「戦略的な決定により」一時休止していた。今年4月には「メタバース指向のeコマース」サイトを通じて購入できるようになる予定だ。
一方、「リュクスレジャー」という言葉を生み出したと主張するリッチフレッシュ(Richfresh)のパトリック・ヘンリー氏は、2022年には完全なプレタポルテラインをリリースする予定だ。また、マージュ(Maje)とバーリー(Varley)のように、現在コラボレーションでアクティブウェアを試みているブランドも注目に値する。
パットボーでも、リミテッドエディションのコレクションから得た教訓を活かして、近いうちにアクティブウェアに本格的に取り組むことは間違いなさそうだ。
「(まずはパットボーのアクティブウェアに)顧客がどのような反応を示すかを理解することが重要だった」とボナルディ氏は言う。「顧客はデザインも着心地も気に入っている」。
アニーン・ビンでもアクティブウェアのデビューに大きな反響があった。チーフオペレーティングオフィサーのオリビア・ゲンティン氏によると、ABスポーツの売上は毎シーズン着実に伸びており、同ブランドでは品揃えの拡充に伴って、2022年を通して同じような成長が続くだろうと見込んでいる。アレックス・トート(Alex tote)と呼ばれるABスポーツのバッグを、1月に発売した。
[原文:Fashion Briefing: Inside the rise of ‘athluxury’]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)