2020年には装飾的なニキビ用シールが誕生したが、2021年はメイクアップとしてのシールが急増した。この1年で新たなローンチの波が押し寄せ、いまではネイル、アイメイク、ボディ用などのシールを含むあらゆるステッカーが存在する。自己表現と大胆なルックを可能にする、ビューティ業界に新たなフェーズの到来だ。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
オリヴィア・ロドリゴ氏のアルバム・ジャケットからメットガラのレッドカーペットにいたるまで、2021年はシール感覚のビューティアイテムをあちこちで目にするようになった。
2020年には装飾的なニキビ用シールが誕生したが、2021年はメイクアップとしてのシールが急増した。この1年で新たなローンチの波が押し寄せ、いまではネイル、アイメイク、ボディ用などのシールを含むあらゆるステッカーが存在する。ポップカルチャー、セレブリティ、インフルエンサー、ソーシャルメディアなどに後押しされて貼るタイプのメイクアップが台頭、これは美容における自己表現と大胆なルックを幅広く受け入れるという姿勢の一環であり、もっと簡単にそれをやりたいという世間一般の人々の要求に対する答えでもある。
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ドラマの影響で、ますます拡大するアイメイク用シールのトレンド
「シールはとても利用しやすく、誰にでも簡単に使えて満足した結果が得られるので、未来のメイクアップになり得る」。そう話すのは、HBOのドラマ『ユーフォリア(EUPHORIA)』のメイクアップアーティスト、ドニ・デイヴィ氏だ。彼女はドラマの登場人物ジュールズのルックをリサーチしている際に、インスタグラムでアイステッカーを発見した。そして2019年に放送された同番組の第1シーズンでアイステッカーブランドのフェイスレース(Face Lace)のルックをいくつか使用し、このトレンドをメインストリームに押し上げることに貢献している。
「人は楽しいメイクアップをしたがっている。メイクがいわば“得意”ではない人も、あるいは超経験者ではない人も、そしてメイク道具が揃っていない人でさえも、クールなメイクをすることに興味がある。自分自身を表現するために、または単に楽しみとして飾るために、自分を顔を使いたいのだ」と彼女は言う。
『ユーフォリア(EUPHORIA)』の放送開始以降、アイメイク用シールのトレンドは広がる一方だ。2021年年2月、デイヴィ氏はフェイスレースとコラボレーションを行い、『ユーフォリア(EUPHORIA)』をテーマにしたアイ用のアートシールを発売、その後、この市場にはいくつもの企業が新規参入している。8月にはロサンゼルスを拠点に活動する双子DJシミ&ヘイズとして活動しているカドラ姉妹が、ビューティブランドのシミヘイズ(Simihaze)を立ち上げた。同ブランドの大胆なアイライナーシールはセレブリティから注目を集めており、ヘイリー・ビーバー氏が同ブランドのホログラフィックのアイライナーシールをつけたセルフィーをインスタグラムに投稿、またブラックピンク(Blackpink)のメンバーは、共同のインスタグラムアカウントで同ブランドのネオンルックを披露している。またペイントラボ(PaintLab)も2021年夏にカラフルなアイライナーシールを発売し、即座にアーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)に取り上げられている。
Z世代が牽引し、顔に貼るラインストーンのブームも復活の兆し
とくにアイステッカーのトレンドを大きく牽引しているのは20代である。
ペイントラボの創業者であるカリーナ・サルザー氏は「当社のデモグラフィックはZ世代、さらにはジレニアル世代にフォーカスしている」と語る。「この世代がトレンドを作っている。そして私たちはそれについていきたい。インスタグラムやTikTokをスクロールしていると、明るい色やクールな模様を身につけ、さまざまなスタイルを組み合わせている人たちを目にする。私たちのブランドでもそれを見習いたい」。
また、『ユーフォリア(EUPHORIA)』が大きく影響したものに、顔に貼るラインストーンのシールの復活がある。このルックは、今年のメットガラのレッドカーペットでアマンダ・ゴーマン氏、リル・ナズ・X氏、ジュリア・ガーナー氏、グライムス氏、エラ・エムホフ氏、そしてもちろん『ユーフォリア(EUPHORIA)』の女優ストーム・リード氏といったゲストが採用していた。
「インスタグラムやTikTokではラインストーンばかり目にした気がする。あれは『ユーフォリア』のシーズン1のあとに本当に爆発的な人気となった」とデイヴィ氏は言う。「もっと洗練された方法でラインストーンを使うのが次の大きなトレンドになる」と彼女は予想している。これを後押しするのはおそらく1月に放映されるシーズン2かもしれないし、メイクアップルックに“本当に小さな”ラインストーンがフィーチャーされることになるだろう。「ラインストーンへのアプローチとしてとても楽しい方法だ。なぜなら、本当に宝石のように見せるというよりも、このやり方だともっと繊細な輝きを放つことができるから」とデイヴィ氏は述べている。
シールなら誰にでも簡単に自己表現ができる
オリヴィア・ロドリゴ氏の大胆なアルバムジャケットのルックにも表れているように、シールはアイライナーに限定されるものではない。各ブランドは顔用やボディ用のシールも発売している。ビューティインフルエンサーのポニー氏とモルフィー(Morphe)との最近のコラボレーションでは、コレクションの一部にフェイスシールが含まれている。
フェイスシールのトレンドは、たしかに「新しい」ものではない。実際に何世紀にもわたって、天然痘などの病気の後遺症である顔の病斑を隠すために装飾的な形のシールが使用されてきた。現在、Z世代とミレニアル世代の消費者によって再発見されたシールは、すべて自己表現のためのものだ。
「アートのひとつの形態としてのメイクアップによって、“従来の”メイクアップ製品とは異なる製品やアイテムを使って、さまざまな方法で自分自身を表現することができるようになる」とポニー氏は言う。「装飾的なジェムやパールなどのアイテムを取り入れてルックを生み出すトレンドが高まっているのを目にしている。シールもまた、メイクアップにポップな感じをちょっとプラスするのにすばらしい方法で、簡単に貼れるので誰にでも使える」。コーチェラ(Coachella)の復活も予定されているため、フェスティバルシーズンに向けて多くのシールの購入が見込まれるだろうと彼女は予想している。
ネイルシールがブランドにとって成長の原動力に
このシールブームはネイルにも波及しており、デコマイアミ(Deco Miami)、オリーブ&ジューン(Olive & June)、ジンスーン(Jinsoon)、グッチビューティ(Gucci Beauty)、セフォラコレクション(Sephora Collection)、コーチ(Coach)、シアテロンドン(Ciaté London)など、さまざまなブランドがネイルシールを展開している。
ネイルシールはブランドにとって成長の原動力となっている。ジュリアンナ・ダーブラ氏が2015年にネイルのスタートアップであるデコマイアミを立ち上げた当初は、ネイルポリッシュに注力していた。2018年、彼女はコレクションの楽しい追加アイテムになると考えて、ネイルシールのセットに取り組み始めた。彼女がスタイラスで手描きで描いたイラストを使用して作成されたシールは、パンデミックの最中に需要が急増した。
「2020年のオーディエンスと顧客層から、このシールには何かとても特別なものがあることがすぐに判明した」とダーブラ氏は言う。現在、これらのシールは彼女のベストセラー商品のカテゴリーであり、約30ものテーマ別ネイルアートシートが揃っている。いまでは、ほかのネイル製品はブランドにとって「二次的な」アイテムだと彼女は考えている。ペイントラボのアイステッカーと同様に、彼女のネイルシールもアーバンアウトフィッターズに採用され、同ブランドの「邪視」のコレクションはベストセラーとなっている。
また、シアテロンドンも2020年にネイルステッカーを発売している。TikTokスターのアディソン・レイ氏が同ブランドのスマイリーフェイスのシールをネイルに貼ってTikTokに投稿したことで、その製品の知名度が上がった。
ネイルシールの主要消費者はZ世代とミレニアル世代
シアテロンドンはシール以外にも、マニミー(ManiMe)、オーリー(Orly)、グラムネティック(Glamnetic)、アーティップス(Artips)などのブランドと並んで、ネイルラップのブームに参入している。硬いプレスオンネイルに代わる粘着性のあるネイルラップは、爪にぴったりと瞬時にフィットしてネイルアートの「マニキュア」となる。
ネイルフルエンサーやセレブリティが牽引するソーシャルメディアでのネイルアートの台頭に触発され、Z世代とミレニアル世代がネイルシールのカテゴリーの主要消費者となっている。
シアテロンドンの創業者でCEOのシャーロット・ナイト氏は、メールを通じて次のように述べた。「私たちのタイダイ・ネイルラップ(Tie Dye Nails Wraps)やガーデンパーティ・チートシート(Garden Party Cheat Sheets)など、より遊び心のあるデザイン(の製品)は、たとえばTikTokなど、やや若いオーディエンスに向けたプラットフォームで愛されていることを間違いなく目にしてきた。そして、メタリックな装飾などのよりエレガントなデザインは、ミレニアル世代のインスタグラムやYouTubeの動画内で多くフィーチャーされるだろう」。
Z世代のセレブリティやインフルエンサーは、ネイルシールアートのトレンドを大きく牽引してきた。2021年12月初めには、グッチがロゴ入りのネイルシールをフィーチャーしたビリー・アイリッシュ氏とのコラボレーションを発表し、8月にはリル・ハディ氏がグラムネティックとのネイルラップのコラボレーションを発売している。
パンデミックもネイルシールの人気上昇を後押し
ナイト氏によると、パンデミックもこのデザインの人気が上昇した要因のひとつだという。
「私たちのシールがまだ開発段階にあったとき、当時はネイルサロンが閉店することも、(製品が)これほどまでにヒットすることも予見していなかった」と彼女は振り返る。この発想が生まれたきっかけは「自宅で消費者が簡単に使える製品を作ることだった。私たちは消費者がクリエイティブに(なることができて)インスタグラムなどのソーシャルプラットフォームで目にしたり、インスピレーションを得たりしたネイルアートを再現してほしかった」。
しかしながら美容に関していえば、シールの台頭は必ずしもミニマリズムが潰えたことを意味するものではない。
「何らかの装飾品を取り入れて、本当にクールでエレガントでミニマルなルックになれる」とデイヴィ氏は言う。「それこそ私が気に入っている類のルックに近い。私はまぶたにさまざまなテクスチャーの色を重ねたゴージャスなメイクをするのも好きだ。でも本当に美しいのは、何らかの装飾品を使いながらもミニマルで気取らない、ほとんどヌードのようなルックなのだ」。
[原文:The beauty sticker era is officially upon us]
LIZ FLORA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)