いま、マイクロインフルエンサーたちが、実際より高い信頼を得ているように見せかけるために、ボットを利用していることがよくある。ブランドがエンゲージメントへの関心を高めていることが、エンゲージメントの拡大にフォーカスしたボットソフトウェアが増える一因だ。しかし、こうした行為は、ある種の危険が伴う。
2017年にフィフスティー(Fifthtee)という名の衣料品店をオープンしたジェーソン・ウォン氏は、その収益の5分の1を非営利の動物愛護団体ベスト・フレンズ・アニマル・ソサイエティ(Best Friends Animal Society)に寄付することにした。そこでウォン氏は、この店のインスタグラムアカウント「@fifthtee」でボットサービスを利用し、犬に関係のあるハッシュタグを含んだ投稿に「いいね!」やコメントを残したりする作業を24時間自動化した。その結果、期待していた数のフォロワーは得られなかったものの(現在のフォロワー数は6000ちょっとだ)、1投稿あたりの「いいね!」の数はいつもより100以上増えたという。
いま、多くのエージェンシーやマーケティングプラットフォームが「マイクロインフルエンサー」の活用を奨励している。マイクロインフルエンサーの方が、数百万のフォロワーを抱えるインフルエンサーより高い信頼を得ていると考えられているからだ。だが、こうしたマイクロインフルエンサーたち(フォロワー数はたいてい1万~10万程度だ)が、実際より高い信頼を得ているように見せかけるために、ボットを利用していることがよくある。実のところ、多くのマイクロインフルエンサーが、ウォン氏のようにボットプロバイダーを利用し(利用コストは月額9ドル~40ドル程度)、一定のルールに基づいて「いいね!」やコメントを自動的に量産している。ボットに依頼すれば自動的に、旅行に関する投稿へ「私も大好き!」とコメントしたり、ニューヨークから投稿された画像に「いいね!」を付けたりできるのだ。
「私は自動化ソフトウェアに賛成でもあり、反対でもある」と、かつて動画共有サービス「Vine(ヴァイン)」のインフルエンサーであったウォン氏はいう。「こうした取り組みには、長い目で見ればエンゲージメントが低下するなど、負の面が多い。だが、会社の規模が小さく、マーケティングチームを抱える余裕がない場合は、ボットサービスが役立つ可能性がある。安価なコストですべてを任せられるからだ」。
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「グレーゾーン」的な詐欺行為
このようなトリックを使っているインスタグラムアカウントがどれくらい存在するのか、確実なデータはない。だが、マーケティング企業の幹部やタレントエージェントによれば、こうした例はよく見られるという。たとえば、ソーシャルインフルエンサーのタレントエージェンシーであるバイラルネーション(Viral Nation)には、1日に50~100人のインフルエンサーから応募が寄せられるが、そのうち20~30%の人がインスタグラムでボットを使っていると、同エージェンシーの共同創設者でマネージングディレクターを務めるジョー・ギャグリース氏は述べる。
「特にブロガーやマイクロインフルエンサーのあいだで、ボットを使って互いに『いいね!』やコメントを付け合う行為が広まっている」とギャグリース氏はいう。
インフルエンサーマーケティングプラットフォーム、ハイパー(Hypr)の創業者で、同社のCEOでもあるギル・エーヤル氏も、ボットを主に利用しているのはインスタグラムで活動をはじめようとしている小規模なブランドやインフルエンサーだと考えている。百万単位のフォロワーを抱えるアカウントだと、ボットを使って何らかの影響を及ぼそうとすればエンゲージメントに大きな変化が生じてしまい、インスタグラムにバレる可能性が高いからだ。ボットユーザーは本物のエンゲージメントを獲得しているとしても、それは必ずしも人々がそのコンテンツを気に入ったうえでのエンゲージメントなのか分からないため、エーヤル氏はボットの利用は「グレーゾーン」的な詐欺行為だと考えている。
ボットを利用しているのは、インフルエンサーとブランドだけではない。エージェンシーもこのトリックを利用している。エージェンシーのスウィフト(Swfit)でブランドおよびパートナーシップ担当バイスプレジデントを務めるバック・ワイズ氏によれば、大手エージェンシーのなかには、「ユーザーファーム(ソーシャルアカウントをフォローするために格安の料金で雇われた大勢のユーザーグループ)」を購入しているところがあると見ている。10万人を超えるフォロワーを持っていても、インスタグラムでエンゲージメントをまったく獲得できていないからだ。「嘆かわしいことに、彼らはメッセージやコンテンツの信頼性よりも見栄が大事だと考えている」とワイズ氏は述べ、「これは大きな誤りであり、失敗だ」と指摘した。
インスタグラムは認識している
インスタグラムはボットの問題を認識している。同社はガイドラインで、ユーザーが同じコメントを繰り返し投稿したり、人為的に「いいね!」やフォロワーを集めたりすることを禁じている。また、インスタグラムの広報担当者によると、ボットがハッシュタグを大量に作り出すため、ひとりのユーザーが利用できるハッシュタグの数を制限しているという。ただし、この制度が悪用されないようにするため、具体的な数を明かすことは拒否した。
この広報担当者によれば、「スパムアカウントがインスタグラムの月間アクティブユーザー数に占める割合はごくわずか」だという。だが、ボットはますます賢くなっている。エージェンシーのアーノルド・ワールドワイド(Arnold Worldwide)でソーシャルおよびコンテンツシステム担当ディレクターを務めるマット・ダン氏は、現在のインフルエンサーの価格モデルを考えると、ブランドがエンゲージメントへの関心を高めていることが、エンゲージメントの拡大にフォーカスしたボットソフトウェアが増える一因になっていると話す。
エージェンシー、スウィフト(Swfit)のワイズ氏もこの意見に同意している。ただし、フォーチュン500企業がこのような戦術を用いることは「ご法度」だと付け加えた。同氏によれば、「マーケティング予算が数百万ドルにもなる企業は、(ボットのゲームで)遊んでいる暇はない」という。「ソーシャルで大量のフォロワーを生成したどこかの企業が、ボットを使ったせいでアカウントを削除されるような状況は見たくない」と同氏は述べた。
タレントエージェントの警告
一方、タレントエージェントは、このような強引なグロースハッキング戦術に対して見て見ぬふりをやめる必要があると、インフルエンサー専門エージェンシーであるバイラルネーション(Viral Nation)のギャグリース氏はいう。
「コメントの内容、『いいね!』数とコメント数の比率、それにフォロワーの不規則な増加パターンを見れば、(そうした戦術を利用していることに)すぐに気づく」と、ギャグリーズ氏。「たとえば、ある日1000人のフォロワーを獲得した企業が、翌日にはフォロワーを失っているといったことが起こるかもしれない」。
Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)