「 ウォルマート がここ数カ月にわたり、自社の販売プラットフォームへの誘致を目的に、Amazonの大手セラーへ接触を図っている」という証言が、複数の情報筋から確認されている。現在、その頻度は決して高くない。だが、同社のこうした動きは、戦略的な判断によるものだと見て間違いないだろう。
サードパーティマーケットプレイスの拡大を目論むウォルマートが、Amazonセラーに積極的に接触している。
「ウォルマートがここ数カ月にわたり、自社の販売プラットフォームへの誘致を目的に、Amazonの大手セラーへ接触を図っている」という証言が、複数の情報筋から確認されている。現在、Amazonの大手セラーのみで、その頻度は決して高くない。だが、同社のこうした動きは、戦略的な判断によるものだと見て間違いないだろう。また、Amazonセラーを狙った大掛かりなキャンペーンがあるわけではないものの、自社のフルフィルメントサービスの確立やショッピファイ(Shopify)との提携など、ここ最近ウォルマートは、セラー向けの環境整備に積極的に投資している。たとえば、同社は2021年2月第4週、eコマースプラットフォームのビッグコマース(BigCommerce)と、販売事業者に関する提携を開始。ウォルマートは、自社のプラットフォームの商品点数を増やす戦略を重視しているのだ。
「これまでeコマース界隈において、ウォルマートはそこまで大きなプレイヤーではなかった」。こう話すのは、Amazonビジネスを支援するジャングル・スカウト(Jungle Scout)のCMO、マイク・シェシュク氏だ。「しかし2021年は、同社をeコマースの大手と見なす人が増えるだろう」。
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Amazonをはじめ、オンラインマーケットプレイスで成功した事業を買収しているパーチ(Perch)は、同社がAmazonで扱っているVRヘッドセットのBnextについて、ウォルマートからメールで問い合わせを受けた。メールには、ウォルマートでもBnextがヒットすることを示すデータがあると書かれていた。パーチのカテゴリマネージャーを務める、マイク・ウォルナー氏によると、メールの内容は「現在、ウォルマートではBnextの価格帯の商品を現在取り扱っていないため、ちょうどポジションが空いている。ウォルマートでの出品を検討してみないか」という内容だったという。
Amazonに及ばずもセラー数は急増中
ウォルマートが発表した最新の業績発表を見ると、eコマースの合計収益は前年比で69%増と大きな伸びを記録している。このうち、サードパーティセラー事業に限定した数字は不明だが、eコマースが同社において果たす役割は、ますます大きくなっているのは間違いない。
eコマース解析企業のマーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)によると、ウォルマートは2021年2月現在で、7万6000のセラーを抱えている。これはAmazonと比べれば非常に少ないが、2020年2月の3万7000からほぼ倍増している事実は注目に値する。そして、この成長を支えているのが、ショッピファイとの提携だ。2020年6月には、ウォルマートに出品するショッピファイ利用企業への優遇措置など、両者の相乗効果を生み出す取り組みが発表されている。
また、ウォルマートがAmazonセラーへの接触を強化している背景には、自社フルフィルメントサービス、WFS(Walmart Fulfillment Services)のローンチがある。Amazonの何百万という事業者に接触を図るにあたり、自社のフルフィルメントサービスを提供できるというのは、重要なアピールポイントだ。(Amazonセラーの94%が、Amazonのフルフィルメントサービスを活用している)。WFSは、事業者に代わり商品の倉庫管理と出荷を行う。Amazonがすでに実証済みなことあり、WFSを利用すれば商品のセラーの売れ行きが向上することを、ウォルマートも期待している。
発展途上ゆえの強み
一方、WFSに関する課題も山積している。たとえば、WFSの応募プロセスは複雑で、事業者から敬遠されがちだ。しかしシェシュク氏は、ウォルマートのマーケットプレイスには独自のメリットがあると指摘する。そのひとつが、Amazonよりも手数料が全体的に安く、料金体系もシンプルな点だ。同社では、販売手数料が毎月請求されることはない。さらに、返品対応についても「ウォルマートの店舗での持ち込み返品が可能な点は、ユーザーにとってメリットが大きい」と付け添える。ただし、事業者登録のプロセスのスピードに関しては、Amazonに大きく劣るという。これは、ウォルマートの販売事業者がまだ少ない原因のひとつだろう。時間がかかるのは、同社が事業者の認証をひとつずつ、人の目と手で行っているためだ(Amazonの認証プロセスは完全に自動化されている)。実際に、Facebook上にある、セラーたちが集まるコミュニティでは、認証に数週間から数カ月待たされたという声が、数多く見られている。
ウォルナー氏は「ウォルマートのマーケットプレイスには、小規模であるからこその魅力もある」と指摘する。「Amazonのような熾烈な競争はあまりない。ウォルマートの場合、いくつかレビューがつくだけで、ランキングの上位に入れることも少なくない」。ウォルマートの側も、その点をアピールポイントにしている。ウォルナー氏は、「ウォルマートのマーケットプレイスへの早期参入は、大きなチャンスに繋がる可能性がある」との打診を受けたという。(前出のパーチは現在、ウォルマートでのVRヘッドセット販売に向けて動いているほか、すでに美容商品の販売も行っている)。
39%がウォルマートへの展開を「積極的に検討」
ジャングル・スカウトの最新調査によれば、Amazonの販売事業者のうち、39%がウォルマートへの展開を「積極的に検討」しているという。また、シェシュク氏は「ウォルマートのeコマースサイトは、すでにAmazonと同じ機能を多く備えている。だが残念なことに、大半の事業者はそのことを知らない」と語る。「AmazonのフルフィルメントサービスであるFBAとウォルマートのWFSは、同様のサービスを提供しているが、その事実を知らぬがゆえに、関心を持たない事業者が多い。これはもったいないことだ」。パーチのVP of Growth(成長戦略統括責任者)を務めるジョー・キーナン氏は、パーチにとってAmazonが最重要であることに変わりはないが、「セラーとして、ウォルマートはチャネル拡大を試す場として最適だ」と話す。
またウォルマートは、Amazonの大手セラーへ接触を図ることに力を入れる一方、既存のセラーに対するサービス強化も図っている。たとえば同社は最近、販売事業者向けのFAQをアップデートしている。
シェシュク氏は次のように語る。「ウォルマートはこの1年で、セラー向けのインターフェイスを大きく改善している。マーケットプレイスに出品するのは、以前よりもはるかに容易になっている」。
MICHAEL WATERS[原文:How Walmart is trying to reach Amazon sellers]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)