VANS(バンズ)がスニーカーとアパレルラインで、日本の現代アーティスト村上隆氏とコラボレーションしたのが2015年。世界中のクールな子どもたちが注目した。これは、通常よりも高価格で販売されている、同社のVAULTラインの企画の一部。なぜ、この企画が実施され、どんな効果を得られたのか、レポートする。
VANS(バンズ)がスニーカーとアパレルラインで、日本の現代アーティスト村上隆氏とコラボレーションしたのが2015年。世界中のクールな子どもたちが注目した。
村上氏の特徴的なサイケデリックなデザインと色があしらわれたプロダクトはマンハッタンのダウンタウン、SOHOでデビュー。ボッデガ(Bodega)と並んでVANSとブティークパートナーシップを結んでいる新機軸のセレクトショップ、オープニングセレモニー(Opening Ceremony)でのことだ。このプロダクトは完売となった。
コラボレーションはVANSのVAULT(ボルト)ラインの一部として企画されたもの。VAULTはVANSの限定スニーカー・アパレルカテゴリーだ。スリッポン、ハイトップス、レースアップスといったVANSのクラシックスニーカーを、特別な素材やデザイナーとコラボレーションすることでリメイクし、通常のプロダクトよりも高価格で販売している。
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コラボが生まれた経緯
村上氏とのコラボレーションが発表されたのはVAULTの10周年だった。VAULTもいまではアディダス(adidas)のオリジナルズ(Originals)、ナイキ(NIKE)のラブ(Lab)ラインと並ぶレベルのライフスタイルシューズブランドの存在感をもつほどになった。
「VAULTはこのコラボで、スニーカーのコレクターたちやファッション、アート通の人たち、そして一般の人たちのアンテナに届くようになった。面白い企画はこれまでもあったものの、今回の企画は発表してきたプロダクトのなかでも特にリーチする範囲が広いものだった。これまで注目していなかった人たちにもリーチすることができた」と語るのは、スタジアム・グッズ(Stadium Goods)のCMOであるユゥーミン・ウー氏だ。
VANSライフスタイルフットウェアのバイスプレジデントであるスティーブン・ミルズ氏は、2005年にVAULTを立ち上げた人物だ。村上氏とのコラボが実現した経緯を振り返る。
「VANSが彼の好きなブランドのひとつだという記事を読んだんだ、それで彼に電話をした。彼は今日のもっとも影響力のあるアーティストのひとりだ。そして彼も望んでくれたのでプロダクトを作った。彼は我々の商品を理解して、使ってくれている」と、ミルズ氏はいう。
VAULTにおける商品戦略
村上氏とのコラボレーション以外にも、VAULTはマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)やコム・デ・ギャルソン(Commes des Garcons)、シュプリーム(Supreme)といったデザイナーたちとパートナーを組んできた。またスターウォーズ(STARWARS)、日本でカルト的人気を誇るWTAPS(ダブルタップス)とアンダーカバー(UNDERCOVER)といったブランドもパートナーとして名を連ねている。次はストックホルムのビンテージ・ブティーク「アワー・レガシー(Our Legacy)」のキュレーターであるジョクム・ハーリン氏とのコラボレーション企画が控えている。
VAULTの新しいプロダクトは毎回限定数だけが製造される。ときにはコレクション全体で90個だけのときもある。またブティーク店舗でしか購入できないというのも特徴だ。VANSの550の店舗やeコマースでは購入できないのだ。
ミルズ氏は、VAULTの5人編成チームのトップ。ブランドが成熟していくにつれて、コラボレーションの相手をより厳選するようになった。より大きな収益源となるようにVAULTを昇華させようと準備中だという。流通を拡大させながら限定コレクションの強みをキープしなければいけない、難しい業務となりそうだ。
VANSの親会社VFCはノースフェイス(North Face)やティンバーランド(Timberland)などのブランドも所有している。前四半期では収益が1%減って35億ドル(約3900億円)となったが、VANSの収益は全体で7%増となった。アジア太平洋市場では20%も増加している。
VAULT誕生の背景
ダウンタウンのストリートでの信頼をVANSが得たのは、マーケティングを通じてだった。
「2000年代の初期は、VANSのクラシックのラインは苦戦していた。ほとんど存在していないようなものだった。クラシックスを前面に出して『これが我々の伝統だ」』と宣言するビジネスプランを書いた。これがVAULTにつながったのだ。VAULTはブランドに対する親しみと、ブランドのエネルギーをもち上げるためのマーケティング戦略だった」と、ミルズ氏は言う。
VANSのクラシックスのラインを監督しているミルズ氏は、社内で「クラシックスープラス」と呼ばれているイノベーションプロジェクトの監督もしている。しかし、彼が毎日実地で関わっているブランドはVAULTのみだという。彼はVAULTのプロダクトデザイン、開発、コラボレーション、流通、マーチャンダイズの責任者となっているのだ。
ミルズ氏自身も毎日サーフィンをするサーファーで、VANSのコア部分はファッションとしながらも、より高価なプレミアム限定ラインを販売するのは社内でも困難だと思われたという。
「社内では誰もが土で汚れたイメージのスケートブランドだと考えてたんだ。ナイキやアディダスはすでに同様の試みをしていたから、そことは競争できないと思っていた。VANSはそこに遅れて参加した形となった。この値段でプロダクトをVANSが売ることができるのか、確信をもてない人ばかりだった。社内での議論は外部よりも困難だった。タイミングがものすごく重要だったからだ。設立50年、人々がVANSを再発見するのに完璧なタイミングだった」。

VANS工場の様子。画像:アーカイブより
VAULTが求められる理由
60年代や70年代にVANSとともに育った人々にとってブランドは消えてしまったように見えるかもしれないと、ミルズ氏は語る。しかし、販売数トップ5のラインナップは変わらない。スリッポン(Slip-Ons)、スケート・ハイ(Sk8-His)、スケート・ハイ・スリム(Sk8-Hi Slims)、オーセンティックス(Authentics)、オールド・スクールズ(Old Skools)だ。
VANSを若い世代に紹介すると同時に、昔ながらのスタイルを再考することで年齢の高い層にもワクワクを届けたい、それを実施する格好のチャンスだと、ミルズ氏は考えた。VAULTのコレクションを限定リリースとし、100店舗のパートナーを結んだショップでだけで販売することで、VANSの靴に対して人々がはじめて「急がないと」という印象をもつことになった。
「VAULTによって、VANSはオリジナルのスニーカーへと振り返ることになった。しかしそれはプレミアムな素材と新しいデザインを伴ってのことだ。言ってみれば、スニーカーマニアが歓喜するプロダクトなわけだ」と、ストリートウェアを紹介するサイト「ハイスノバイエティ(Highscnobiety)」のファウンダー、ディヴィッド・フィッシャー氏は言った。
VANSはこれを通じてグローバルなプラットフォームを得ることにもつながった。日本のカルト的ブランド、スウェーデンのキュレーター、世界的なストリートウェアブランドとパートナーを組むことで、VAULTはVANSに新しいオーディエンスを招いた。新しいコラボレーションをするたびにブランド全体にポジティブな還元が起きているとウー氏は言う。
「ニューヨーク、東京、香港にリーチする、グローバルなブランドになった。もうカリフォルニアのスケート少年の靴ではなくなった。ダウンタウンを闊歩するヒップスターの靴になったんだ。VANSはVAULTを活用してブランドを改善させた」とウー氏。
注目プレイヤーであるために
ミルズ氏は、限定ラインであるという性質を損なうことなく、VANSにとってVAULTを信頼できる収益源に変換しようとしているあいだ、すべてのプロダクトとパートナーシップに毎日関わっていく予定だという。
「ブランドがここ数年間に成長するにつれて、我々のブランドに親しみを持ってくれている人々の分布・性質が面白い。以前であれば外に出て、足で稼いで、人々に訴える必要があった。私は自分でプロダクト・プロセスに実際に関わることにこだわってきたし、これからもそうでありたい」と、ミルズ氏は言う。
業界における注目プレイヤーであるためには、デザイン、パートナーシップにおいて毎回品質をキープしていることが重要だと、フィッシャー氏は指摘する。
「マーケットに関するある種のテイストと知識をちゃんともった人物がラインを統括していることが見て分かるんだ。しっかりとしたプロダクトを定期的に提供していて、それに適切なコラボレーターを選んでいる。ほかのブランドでは何もかもが常に変わってしまうものだけれど、VAULTはそうではない。ちゃんと均質になっている。(ミルズ氏の仕事)は素晴らしいということだ」。
Hilary Milnes(原文 / 訳:塚本 紺)
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