近年の美容品業界はクリーンやビーガンのラベルであふれかえっているが、アパレルにおいては「トレーサブル(追跡可能であること)」が同じように増えつつあるようだ。
トレーサビリティとは、原材料の調達先から完成品の納品先まで、商品の生産過程を追跡できる能力のことだ。小売において新しい概念ではないものの、これを取り入れるブランドが増えてきている。フランスのファッションブランドであるクロエ(Chloé)は、クロエバーティカル(Chloé Vertical)というデジタルIDシステムを通じて、商品を完全にトレーサブルにし、リセール市場に対応できるようにした。わずか数カ月前の6月には、タペストリー(Tapestry)や、H&Mグループ、アディダス(Adidas)など10を超える小売ブランドが、皮革のサプライチェーンの透明性を高めるという誓約書に署名した。
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
近年の美容品業界はクリーンやビーガンのラベルであふれかえっているが、アパレルにおいては、トレーサブル(追跡可能であること)が同じように増えつつあるようだ。
トレーサビリティとは、原材料の調達先から完成品の納品先まで、商品の生産過程を追跡できる能力のことだ。小売において新しい概念ではないものの、これを取り入れるブランドが増えてきている。フランスのファッションブランドであるクロエ(Chloé)は、クロエバーティカル(Chloé Vertical)というデジタルIDシステムを通じて、商品を完全にトレーサブルにし、リセール市場に対応できるようにした。わずか数カ月前の6月には、タペストリー(Tapestry)や、H&Mグループ、アディダス(Adidas)など10を超える小売ブランドが、皮革のサプライチェーンの透明性を高めるという誓約書に署名した。
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生産過程の可視化を制度化する動き
グリーン、クリーン、ビーガンなど、ほかのグリーンウォッシング的主張とは異なり、トレーサビリティはいくつかの市場でポリシーの一部となりつつある。欧州連合(The European Union)はファストファッション、衣類廃棄物、透明性を網羅する規制に取り組んでいる。たとえば、持続可能な商品のエコデザインに関する規制(Ecodesign for Sustainable Products Regulation)の要件のひとつは、商品の供給源や環境的なサステナビリティについての透明性を提示する「デジタルプロダクトパスポート(Digital Product Passport)」だ。
インフォシスコンサルティング(Infosys Consulting)の小売・消費財・物流プラクティスのアソシエイトパートナーであるバラージ・サンサナム氏は次のように述べている。「今後の規制の本質となるのは、サプライヤーについての情報を提供し、コンプライアンスの観点から開示するということだ。そのデータを消費者に開示する方法がトレーサビリティであり、この規制の一部となっている」。
トレーサビリティへの取り組みはブランドごとに異なる。たとえばクロエバーティカルでは、ブランドの皮革がフランスの農場で作られたもので、フランスのなめし皮工場であるハース(Haas)社でなめされた皮だということが確認できる。また、WWD(Women’s Wear Daily)誌は、下着ブランドのアドアミー(Adore Me)が、トレーサビリティ・プラットフォームのコモンシェア(CommonShare)と提携し、ESG(環境、社会、ガバナンス)報告基準を引き上げ、EUの厳格な標準に準拠するため、自社商品のデジタルプロダクトパスポートを発行すると報じている。
D2Cブランドが示してきたトレーサビリティ
一方、ニットウェアブランドのシープインコーポレーテッド(Sheep Inc.)はトレーサビリティをさらに推し進めている。顧客は、写真の中から選んだ羊の飼い主になり、名前を付けてリアルタイムで追跡できるようにした。
トレーサビリティと透明性は長年にわたって、D2Cアパレルブランドの用語として使われてきた。たとえばエバーレーン(Everlane)は、倫理的な労働条件を検証するために、実際に工場を訪問する制度を作り、第三者の監査人が労働環境の安全性を確認することを必須にしている。一方でオールバーズ(Allbirds)は、2025年にサプライチェーン階層全体を100%マッピングすることを目標としている。
「この制度を作りだすことによって、衣服が実際にどのような経路をたどって生産されるかを示すことができる」と、シープインコーポレーテッドの創設者であるエツァルト・バンダー・ウィック氏はWWDに語った。この取り組みは、商品がどこから来るのかを人々に考えてもらうようにすることを意図したものだと、同氏は述べている。「単に情報のリストを渡す場合よりも、興味を持ってもらえる」と同氏は付け加えた。
グリーンウォッシングへの冷ややかな反応
バブソン大学(Babson College)のマーケティング準教授のローレン・ベイテルスパッチャー氏は、トレーサビリティ関連の取り組みの大きな売りは、サプライチェーンが環境や人権にどのような影響を及ぼすかについて、ブランドが買い物客により深い洞察を与えることだと述べた。アパレルブランド、特に環境への影響について否定的な評価を受けているブランドは、何年にもわたって提携してきたすべての製造業者やベンダーを公開することで、エコフレンドリーの主張をより強固なものにすることができると同氏は述べた。
たとえばファストファッション大手のシーインは、工場労働者の待遇について繰り返し批判されてきたが、4月に労働者の技能向上への取り組みや技術的な進展などを目的にしたサプライヤー・コミュニティ・エンパワーメント・プログラム(Supplier Community Empowerment Program)に5500万ドル(約79億2000万円)を追加投資した。
「一部のブランドはグリーンウォッシングを行っていると非難されているため、このような取り組みはブランドが信頼に値するという認識を広めるのに役立つだろう。50年、60年、70年の歴史があるブランドにとっては難しいだろう。若い消費者はそのような古いブランドによるサステナビリティへの取り組みをうそっぽいと感じるだろう」。
一部の消費者がこれらのアパレルブランドに抱いている否定的な認識は、根拠がないわけではない。実際のところ、インフォシスコンサルティングのサンサナム氏によると、ファッション業界やそのサプライチェーンは全世界の温室効果ガス排出の4%から6%を占めている。
トレーサビリティの徹底が利幅改善に
トレーサビリティは、今後の規制を遵守することに加え、ブランドのPRにもつながるが、完全な透明性には負の側面もある。たとえば、製造者の名前が公開されることで、ほかのブランドがその施設を横取りする恐れがある。また、企業のサプライチェーンを構築するための技術を確立するにはコストもかかる。
それでも、インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)の小売・eコマースのコンテンツ担当バイスプレジデントを務めるスージー・デビッドカニアン氏は、このトレンドが元に戻ることはないと語る。小売業者に対して多かれ少なかれエコフレンドリーであることを求める消費者は増えつつある。また、トレーサビリティを徹底することで、小売業者は商品の廃棄を最小限に抑え、利幅も改善することができると同氏は付け加えた。
「トレーサビリティは、新しいバズワードのひとつであり、サステナビリティの手法として非常に適している。小売企業が行う可能性のあるさまざまな行為のなかでも、これは非常に透明性が高く、持続的なものだと思う。会計帳簿のようなものであり、ごまかしはきかない」と同氏は述べた。
[原文:How traceability became the latest eco-friendly buzzword in apparel]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)