間接競合 の 選び方:ゼロサムゲームから脱却し、市場創造を実現する

本記事は、WPPグループ最大のデジタルエージェンシー、VMLの日本法人の代表と、株式会社FICCの代表取締役を兼務する、荻野英希氏による寄稿コラムとなります。

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「同じベネフィットを提供する商品はすべて競合になり得る」。マーケティングに携わる方であれば、一度はこのような言葉を聞いたことがあるかと思います。競合の正しい定義は、ブランドの成長に欠かせません。しかし、多くのブランドは直接競合とのシェア争いという不毛な消耗戦に陥り、自らの成長を制限しています。

競合は単なる競争相手ではなく、貴重な収益源(ソースオブビジネス)でもあります。消費者の資金は有限であり、新しい商品を購入するために、必ずほかの何かを諦めなければなりません。消費者はジョブの解決策(ベネフィット)を求めて購買行動を起こすため、同じベネフィットを持つ、すべての製品やサービスは収益源となる得るのです。

本題に入る前に、少し競合について整理をしましょう。ブランドは優位性を発揮する市場のなかでしか成長することができません。市場は競合との競争環境を意味し、競合はブランドの収益源となります。マーケティングは市場創造の活動と定義されるため、「新たな収益源となる競合との競争関係を創る活動」とも定義できるはずです。製品カテゴリーに限定されない間接競合を収益源とし、新しい市場を創り続けることこそが、マーケティングの本質なのです。

では、収益源となる間接競合はどのように定義すれば良いのでしょうか? 正しい競合の選定には、3つのポイントがあります。

  1. 同じジョブの解決を担っている
  2. より多くの価値を認識してもらえる
  3. 十分な収益が見込める

同じジョブの解決を担っている

購買行動の裏には必ず消費者のジョブが存在しています。ジョブに機能的側面と、ベネフィットが満たす情緒的側面があります。情緒的ジョブはさらに自己と社会に分類され、欲求段階説の上位と合致しているとも言えます。

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機能的ジョブは消費者の状況ごとに異なり、その競合範囲は同カテゴリーか、せいぜい隣接カテゴリーに限定されます。その一方、情緒的ジョブはいくつかの普遍的な感情に紐付くため、広い競合範囲を持っています。スタンフォード大学のB.J.フォッグ教授は、人間の行動原理を6つの根本的な動機(コアモチベーター)に分類しています。これらは誰にでも共通する、情緒的ジョブを示すものだと言えるでしょう。

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情緒的ジョブに基づく競合は、消費者の心のなかにしか存在していません。競合関係は常に変化しているため、マーケターは常に消費者との直接的な対話を心がけなければならないのです。消費者との対話から、間接競合を導き出すには、以下のような質問が効果的です。

– あなたが<商品>を試す前に、ほかにどのような解決策を検討しましたか?
– あなたが実際に試したほかの解決策は何ですか?
– あなたが試したほかの解決策について、何が気に入らなかったのですか? または、何が気に入ったのですか?
– <商品>が利用できなくなった場合は、代わりに何を利用するでしょうか?
– あなたが知っている人が、<商品>以外に試した解決策は何ですか?

より多くの価値を認識してもらえる

消費者の購買行動を切り替えてもらうためには、現状に対する不満を抱いてもらう必要があります。現状と理想の隔たり(バリューギャップ)が広いほど、人は変化とコストを受け入れ易くなるのです。しかし、どれだけ優れた製品力を持っていても、消費者に選ばれないということは往々にしてあります。購買行動の切り替えには、消費者自身が切り替えに伴うリスクや手間以上の価値を認識する必要があります。

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競合はジョブの解決に不十分である、または過剰であること。または競合では解決できないより根本的な問題が存在すること。競合やジョブに対する消費者の認識を変えることで、現状への不満を強めることができます。さらに、情緒的ジョブの達成を描くことで、理想を高めることもできます。開かれたバリューギャップを埋めるために必要な解決策として、ブランドが想起されれば、ブランドスイッチは自ずと起きるはずです。

十分な収益が見込める

より低価格な相手や、小さな市場しか持たない競合と戦っても、十分な収益は見込めません。競合を選ぶうえで欠かせないのが収益見込(レベニューポテンシャル)です。同じジョブの解決をより低価格で行う相手には、こちらが収益源となってしまいます。情緒的ジョブの競合範囲には、より高額な相手がいるはずです。そのカテゴリー全体に十分な市場規模が存在し、バリューギャップを広げる見込みがあれば、理想的な競合と言えるでしょう。

ゼロサムゲームからの脱却

直接競合への流出を防ぐことはとても重要です。しかし、マーケットシェアを指標とする市場浸透(マーケットペネトレーション)は、営業とセールスプロモーションを主戦場としています。新しい市場の創造よりも、営業商談への貢献などが求められた場合、その企業は不毛なゼロサムゲームに陥っている可能性があります。

マーケティングは自らの手で市場を切り開く力です。競争の激しい日本市場において、新しい市場を創造することできなければ、持続的な成長は不可能だと言えるでしょう。さあ、あなたは「競合」をどう定義しますか? ブランドの成長が、その答えにかかっています。

Written by 荻野英希
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