米DIGIDAYは、広告支出世界上位10社(RECMAの2018年度データを使用:2019年度のランキングは9月に発表の予定)が公開した直近の決算発表を分析し、各社が現在進行中の新型コロナ危機にそれぞれのマーケティング戦略をどう適応させているかについて調査した。
新型コロナウイルス感染症が西欧諸国を見舞ったとき、多くのマーケターたちは当初、支出の停止または少なくとも抑制という形でこの危機に反応した。
だが、そのようなマヒ状態は、企業が事業予測を修正し、現状への適応を深めるにともなって急速に霧散した。企業は、eコマースに資源をシフトさせたり、公衆衛生の普及を自社の使命として推進するなど、各社各様の戦略を採用した。
米DIGIDAYは、広告支出世界上位10社(RECMAの2018年度データを使用:2019年度のランキングは9月に発表の予定)が公開した直近の決算発表を分析し、各社が現在進行中の新型コロナ危機にそれぞれのマーケティング戦略をどう適応させているかについて調査した。
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1.P&G:公衆衛生対策のメッセージ発信
世界最大の消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(Procter & Gamble:以下、P&G)は、コロナ禍中も前期とほぼ同様の好調な販売実績を維持した。巣ごもり需要で、掃除用洗剤のミスタークリーン(Mr Clean)、洗濯洗剤のタイド(Tide)、トイレットペーパーのチャーミン(Charmin)など、とりわけ洗剤製品の買い置きが増加し、売上に寄与した。eコマース事業はとくに明るい材料となり、結果、当期(第4四半期)の既存事業売上高は前年同期比6%増となった。
P&Gによると、マーケティング投資を270ベーシスポイント(BP)、金額にして約4億8000万ドル(約511億円)増額したが、この増額分は間接費およびマーケティング経費を230ベーシスポイント削減したことにより一部相殺されたという。
デビッド・テイラー最高経営責任者(CEO)は、先週行った電話によるアナリスト向けの決算説明で、「マーケティングとコミュニケーションのノウハウを活用して、流行曲線を緩やかにしたり、ウイルスの拡散を遅くするための公衆衛生対策に協力するよう消費者に呼びかけている」と語った。テイラー氏によると、啓発的なテレビ広告に加え、店舗内に案内標識と感染予防のための情報表示を増やした結果、洗剤などのホームケア製品の売上が伸びたという。
P&Gは厳しい経済情勢といまだ収まらない健康危機に言及しつつ、通年では2~4%の売上増を見込んでいる。2019会計年度の既存事業売上高は5%増だった。
2.ユニリーバ:マーケティングコミュニケーションを「意図的に」強化
ユニリーバ(Unilever)は第2四半期の売上高を0.3%減と報告したが、下落幅がアナリストたちの予想を下回ったため、先週の決算発表後、株価は急騰した。消費者の衛生意識の高まりを背景に、石鹸のダヴ(Dove)、漂白剤のドメスト(Domestos)、ライフボーイブランド(Lifebuoy)の新しいハンドサニタイザーなどが大きく売上を伸ばした。反面、世界中の多くの都市がロックダウン状態に陥り、食品事業の売上高は40%近く落ち込み、業務用アイスクリームの売上高も30%近く減少した。
ユニリーバでは、消費者の習慣の変化に鑑みて、ブランドとマーケティングへの投資を「週ベース」で見直し、再配分している。また、ほとんどのメディア市場で広告の価格が下落していることから、当期のブランドおよびマーケティングへの投資額は100ベーシスポイント減少したが、効率は改善された。
ただし、外出制限の緩和にともない、下期はマーケティング投資を増やす計画で、とくにニューノーマル向けの新製品を広告活動で後押しするという。アラン・ジョープCEOはアナリスト向けの当期の決算説明会で、「マーケティングコミュニケーションへの支出を増やすが、それは明確に意図的なテコ入れだ」と述べており、具体的にはライフボーイやドメストなどのキャンペーンを展開し、新型コロナウイルスの感染防止メッセージを発信するという。
3.ロレアル:「自信をもって下期に臨む」
ロレアル(L’Oréal)の第2四半期の売上高はロックダウンによる化粧品需要の落ち込みにより19%減となった。それでも回復の兆しは見えており、ジャンポール・アゴンCEOによると、7月の売上は1月以来初めて増加に転じた。
消費財メーカー同様、ロレアルのeコマース事業もコロナ禍中に急成長を遂げ、上期に比べて64.8%増加した。中国事業も順調に回復しており、第2四半期は30%の売上増を計上した。
今年上期に支出した広告宣伝費は39億8000万ユーロ(約5005億円)だった。昨年と比べて金額的には10.9%減だが、対売上比率としては30ベーシスポイント増加した。
アゴン氏は「ロレアルは自信をもって下期に臨む」と語っている。同社は全事業部門で新製品の発売計画があり、アゴン氏によると、市場シェア拡大のためにメディア投資を「いたるところで」増やす考えという。
4.ルノー・日産・三菱アライアンス:前途多難
ルノー(Renault)は、世界的なコロナ禍で自動車販売が大きく落ち込んだ結果、第2四半期に記録的な赤字を計上した。また、トラブル続きの日産とのアライアンスも同社に負の影響を与えつづけた。ルノーは日産の株式を43%保有している。当期の売上高は35%減少した。一方、日産自動車は投資家向けの決算発表で、2021年3月期の最終損益は過去最高の営業赤字を計上する見込みだと警告した。当四半期の全世界での自動車販売台数は前年比48%減だった。三菱自動車は4~6月期の決算で1760億円(17億ドル)の損失を計上した。
3社連合は現在、広範な部門における人員削減と生産能力削減を含む構造改革に取り組んでいる。
マーケティング活動に関しては、日産は先月、従来よりも「フラット」なデザインの新しいロゴを発表した。一方、ルノーは自社開発のハイブリッドエンジン「E-TECH」を今年の戦略の「柱」に加える計画という。同社のルカ・デメオCEOは「E-TECHエンジンのパフォーマンスを昨年より積極的に売り込みたい」と語っている。
5.Amazon:止まらない紙幣印刷機
想像に難くないが、Amazonの売上は新型コロナウイルス感染症の世界的流行から恩恵を受けている。店舗に足を運ぶことを避け、商品をネットで注文して自宅まで届けてもらう消費者が増えているからだ。結果、第2四半期の純売上高は40%増の889億ドル(約9.4兆円)で、四半期ベースの利益としては過去最高を記録した。一方で、個人用防護具(PPE)の購入、最前線で働く従業員や配達員へのボーナス支給など、「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)」関連の費用として40億ドル(約4260億円)を支出した。
次の四半期の売上高は前年比で24~33%増を見込んでいる。Amazonの「その他」の事業部門(主に広告収入)は41%増の42億ドル(約4473億円)だった。
当期のマーケティング費用は前年同期比1%増の43億ドル(約4580億円)だった。
今年のプライムデーの開催は第3四半期ではなく第4四半期に予定している。長期化するコロナ禍で、同社のサービスに依存する顧客に不都合が生じないようにという配慮からだ。
6.コカコーラ:主力ブランドに焦点を絞る
コロナ禍によるロックダウンがレストラン、バー、その他の施設で売られる飲料の売上を直撃した結果、7月2日締めの四半期におけるコカコーラ(Coca-Cola)の純収入は28%減少した。ジェームズ・クインシーCEOは将来については楽観的だ。売上の動向が毎月改善していることから、「第2四半期が今年もっとも困難な四半期となるだろう」と語っている。当期のマーケティング支出は大きく後退し、販売費及び一般管理費(SG&A)は前年同期比34%減で、10億ドル(約1065億円)をわずかに上回る程度にとどまった。
マーケティング活動に関しては、主力ブランドを軸に予算の投資先を整理し、実験的な取り組みもより規律的かつ計画的に行うようにしている。たとえば、コカコーラがグローバルに展開する最新の広告キャンペーン「Together Tastes Better(いっしょなら、もっとおいしい)」もそのひとつで、同社の飲料と食事の組み合わせを提案している。この夏には次の施策として「Open(オープン)」キャンペーンをスタートさせる。クインシー氏によると、このキャンペーンを通じて、「世界に向けて、シンプルで大切な日常を満喫しようと訴えたい」という。
現在、コカコーラはすべてのマーケティングチャネルについて、その投資効果(ROI)を再評価している。「従来メディアの広告視聴率からデジタルメディアの効果改善まで、すべてだ」とクインシー氏は語る。第2四半期以降、マーケティング支出を段階的に増やす一方、コスト削減も行う考えという。
7.グラクソ・スミスクライン:新型コロナのワクチン開発に注力
製薬大手のグラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline:以下、GSK)は、通常、アナリストや投資家向けの決算説明会で、マーケティングや広告についてはあまり多くを語らない。世界的なロックダウンを背景として、ワクチン接種のために医療機関に行く人が減少した結果、第2四半期の売上高は2%減となった。
GSKはフランスのサノフィ(Sanofi)と共同で新型コロナウイルスのワクチン開発に取り組んでいる。これまでのところ、英政府と最大6000万回分のワクチンを提供する契約を結んでいる。米国とは1億回分の確保で合意した。
GSKはホーリックスをはじめ、いくつかの事業売却を進めている。エマ・ウォルムズリーCEOによると、「世界でもっとも競争力のある製品ポートフォリオを備えた、コンシューマヘルスケア専業のリーディングカンパニー」というポジショニングを確立するためという。同社は消費者部門でも「急成長中のeコマースチャネルでシェアを拡大」している。
GSKは2022年までに5億ポンド(約698億円)のコスト削減をめざしている。
8.フォルクスワーゲン:完全なタスクフォースモード
ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン(Volkswagen)のフランク・ウィッター最高財務責任者(CFO)は2020年上期の業績について「フォルクスワーゲンの歴史上、もっとも困難な時期」と評している。同社の第2四半期の売上高は23%減となった。
反面、同社はいくつかの新車の発売を控えており、また「ここ数週間は事業に明るい動向が見られる」ことから、年内の見通しは「慎重ながらも楽観的」という。
フォルクスワーゲンは前四半期から「完全なタスクフォースモード」を維持しており、コンサルティングやマーケティングの外部委託を減らすなど、予算の削減に取り組むとしている。さらに、ウィッター氏はブランド管理とプラットフォームのロールアウトは「よりいっそう厳格に」行う考えも表明している。
フォルクスワーゲンの米国法人は7月から「#StopHateForProfit(営利目的のヘイトはやめよう)」キャンペーンに参加して、Facebook広告をボイコットしている。
9.マクドナルド: 大規模な客足回復策を計画
多くのレストランが休業し、消費者が家に閉じこもるなか、第2四半期のマクドナルド(McDonald’s)の既存店売上高は世界全体で23.9%減少した。現在、状況は好転している。マクドナルドによると、6月30日現在で世界中の「ほぼ全店」が再開しているという。
マクドナルドは新型コロナウイルスが収束するまでリソースを節約すると決めており、当期の米国でのマーケティング支出は70%減となった。節約分の予算は第3および第4四半期に再配分される。マクドナルドによると、フランチャイズ加盟店の客足回復策に2億ドル(約213億円)以上を支出する予定という。
この取り組みには朝食メニューの「再強化」も含まれる。同社によると、コロナ禍で朝食カテゴリーの競争が激化しており、いくつかのライバル企業が一斉に朝食メニューのテコ入れを図っているという。
新型コロナウイルス流行の最盛期、マクドナルドは業務簡素化のため一部メニューの提供を取りやめた。いくつかのメニューは再開の予定だが、すべてではないという。下期のマーケティング予算は、その大半を主力商品に投入する。また、新しいイノベーションよりは、オンライン注文を含む、いくつかのサービスチャネルの訴求に注力するという。
10.NBCユニバーサル/コムキャスト:難しい四半期だが、明るい材料も
コロナ禍の影響でテレビ視聴やネット利用が記録的に増大したため、コムキャスト(Comcast)のブロードバンド事業は第2四半期も顧客を増やし続けたが、その他の部門は軒並み低迷した。同社が運営するテーマパークのほとんどは休園、ケーブルテレビの契約者は減少傾向が止まらず、広告収入は落ち込み、新作映画の公開は宙に浮いたままという状態だ。全体として当期の売上高は11.7%減となった。
明るい材料としては、NBCユニバーサル(NBCUniversal)が新しく始めた広告収益モデルのストリーミングサービス「ピーコック(Peacock)」で1000万人の加入者を獲得した。ピーコックはコムキャストの顧客を対象に4月に先行スタートしていたが、この7月、全米向けに本格始動した。ピーコックの宣伝活動をよそに、広告、マーケティングおよびプロモーションへの支出は前年に比べて減少し、29%減の13億ドル(約1384億円)だった。
当期の広告収入は、ローカルケーブルテレビ、ナショナルケーブルテレビ、ブロードキャストテレビ、英有料放送スカイ(Sky)の売上高を合わせ、全体で30.4%減となった。
[原文:How the world’s biggest advertisers are spending (or not) as the pandemic grinds on]
LARA O’REILLY(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)