2021年第1四半期の決算報告からは、明るい兆候がうかがえる。米DIGIDAYは、調査会社コンバージェンス(COMvergence)のデータをもとに、広告支出世界上位10社の最新の決算情報を分析した。
2021年第1四半期の決算報告からは、明るい兆候がうかがえる。
これまでのところ、急速な業績回復の予想は的中している。インフレによるコストの上昇にもかかわらず、報告された数字は当初の予想を大きく上回った。先行きにも明るさが見える。大西洋の両岸で進むロックダウンの緩和や、苦境に立たされた旅行業界の持続的な回復など、世界経済が回復基調にあるのは確かだが、回復には相当なコストがかかるだろう。
米DIGIDAYは、調査会社コンバージェンス(COMvergence)のデータをもとに、広告支出世界上位10社の最新の決算情報を分析した。なお同社のデータは、調査対象となった2020年のオフライン広告支出の推定値と、同社独自の手法に基づくデジタル広告支出の推定値から算出している。
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P&G:マーケティングの効率化と成長の両立(2020年のメディア支出総額は79億ドル[約8594億円])
世界最大の広告主であるP&G(Procter & Gamble)は、コロナ禍の収束を見据えて、もっぱらマーケティング予算の効率的な投資に注力している。たとえば同社のマーケティング予算は、2020年の第1四半期(7〜8月期)、2億7000万ドル(約293億円)増える見通しだった。しかしこの増額分は、結果として合計1億6000万ドル(約174億円)まで削減できたという。コロナ禍の勃発以来、P&Gの広告予算の使い方は一貫している。つまり、ある分野で削減して、別の分野に手厚く再配分するという手法だ。言い方を換えるなら、P&Gは、収益の拡大に合わせて、コロナ後の持続可能なマーケティング支出と成長の両立を模索している。
特に、eコマース事業の成績は注目に値する。当期のオンライン売上高は前年同期比で50%増加した。
ユニリーバ:節約モードからの脱却(2020年のメディア支出総額は43億ドル[約4677億円])
ユニリーバ(Unilever)は投資家に対して、成長分野のマーケティング活動強化に伴い、2021年上半期の利益率は大幅に下落するだろうと伝えた。また、同社の説明にはなかったが、インフレによるコスト増も利益を圧迫することが予想される。持続可能な成長を展望するのは、口でいうほど容易ではないだろう。それでもユニリーバは、今後数カ月間に展開する予定の、特にオンラインメディアを中心とした積極的なマーケティングが奏功すると確信しているようだ。最高経営責任者(CEO)のアラン・ジョープ氏は、先ごろの決算説明会で「ユニリーバはAmazonのクラウド上で、2番目に大規模なデータセットを保有している」と述べており、また、データに対する理解を深めるための取り組みを加速させたいとも語っていた。
「我々はいま、データから価値を引き出す方法を学習している。デジタルトランスフォーメーションへの投資は継続的に行いたい」とジョープ氏は話す。「ただし、純粋に追加的な予算を手当てするというより、別のところで経費を節約することになるだろう」。
ロレアル:eコマース成長の鍵は利便性(2020年のメディア支出総額は28億ドル[約3044億円])
大手化粧品メーカーのロレアル(L’Oréal)は2021年、幸先の良いスタートを切った。好調の主な要因は、コロナ禍を克服したかに見える中国での事業が好調なこと、およびオンライン販売が軌道に乗ったことだ。実際、eコマース事業の売上高は、自社サイトでの売上と他社サイトでの売上を合わせて、この第1四半期に47%増加した
eコマース事業の売上高は、いまやグループ全体の売上高の26.8%を占める。この躍進は、ロレアルのデジタルに対する理解力を証明するものだ。現に、同社のオンライン販売は2020年、実店舗の売上高の50%を占めた。ロレアルは今後、デジタル関連のメディア予算を増やす計画というが、それも道理だ。大手小売企業が提供するリテールメディアネットワークや、インスタグラムやTikTokでのソーシャルコマースを中心に、手厚い投資を行うという。
Amazon:今期も大勝利(2020年のメディア支出総額は27億ドル[約2935億円])
Amazonのeコマースに対する影響力は、四半期を追うごとに強さを増している。2021年の1〜3月期における同社の売上高は、前年同期比44%増の1085億ドル(約11兆7973億円)に達した。興味深いことに、当期の成長率は年末商戦の活況から恩恵を受けた前期の数字と同じだった。
とはいえ、Amazonは現状に満足するような企業ではない。当期のマーケティング支出は、前年同期の48億ドル(約5220億円)を上回る、62億ドル(約6742億円)にのぼった。
他方Amazonは、eコマースの成長強化が両刃の剣であることをよく分かっている。というのも、ウォルマートらが独自のメディア事業を立ち上げたり、スーパーマーケットそのほかのプラットフォームが独自のeコマース事業に乗り出すなどして売上を増大させている反面、競争も激化しているからだ。
ネスレ:出だしは好調だが、不安定な先行きを警戒(2020年のメディア支出総額は26億ドル[約2827億円])
2021年第1四半期、ネスレ(Nestlé)の売上高はコーヒー販売の好調により、高い伸びを示した。増収率は前年同期の4.3%を大幅に上回る、7.7%となった。この成長の大部分は、家庭でのコーヒー消費が大きく伸びたことによる。ネスプレッソ製品の売上高は、インスタントコーヒー、およびスターバックスブランドのコーヒーカプセルの需要増と合わせ、17.1%増加した。
このような好成績にもかかわらず、ネスレは慎重な態度を崩さない。なにしろ、インフレという大きな懸念材料が残されており、マーケティング活動への影響は免れない。
マーク・シュナイダーCEOは、こう述べている。「荷造運賃をはじめ、インフレの影響はすでに幅広く現れている。包装資材や運送費など、すべての品目でリスク回避できるわけではないし、回避措置を講じたとしても、それがいつまでも持続できるわけでもない。必要に応じて値上げも検討するが、通常、コスト上昇がもたらす価格への影響は一定のタイムラグを伴う。我々は状況を正しく把握しており、私が値上げの話をしたからといって、消費者がすぐにも警戒する必要はない」。
フォルクスワーゲン:eコマース事業の拡充で売上に拍車(2020年のメディア支出総額は25億ドル[約2718億円])
フォルクスワーゲン(Volkswagen)の業績は回復に向かっている。2021年第1四半期の売上高は、前年比13%増の790億ドル(約8兆5906億円)だった。ほかの多くの企業同様、フォルクスワーゲンもこの売上の多くはオンラインストアに由来するものと見ている。現に、多様な商品をオンラインで気軽に購入する消費者は確実に増えている。
グループセールス責任者のクリスチャン・ダールハイム氏は、こう述べている。「今後も、デジタル販売のシェアを大幅に拡大するつもりだ。デジタル販売というよりは、オムニチャネル販売というべきかもしれない」。
というのも、自動車の購入をすべてオンラインで済ませる消費者が多くいるとは考えにくいからだ。ダールハイム氏もこう話す。「デジタルだけ、あるいはオフラインだけで購入を完了する顧客は多くない。たいていは両方のチャネルを利用する。そこには、販売コストを削減する機会もあるだろう」。
ルノー・日産・三菱アライアンス:低速車線を抜け出せず(2020年のメディア支出総額は23億ドル[約2501億円])
ルノー(Renault)・日産・三菱アライアンスの3社連合にとっては、明暗の分かれる四半期となった。
ルノーの売上高は1.1%下落して、100億ユーロ(約1兆3319億円)となった。
日産自動車は、半導体の供給不足により2021年4月から9月の生産台数が50万台近くの減産となる見通しを明らかにした。この半導体危機によって、フォルクスワーゲン、フォード(Ford)、ステランティス(Stellantis)ら、日産のライバル企業も、同様の苦境に陥っている。
一方三菱自動車は、2020年通期決算で前年同期比126億ドル(約1兆3701億円)の売上損失を計上した。2021年第1四半期に入っても業績低迷は続き、売上高は前年同期比32%減の255億ドル(約2兆7729億)にとどまった。それでも、低迷脱却のための支出は出し惜しみしないという。
三菱自動車の加藤隆雄CEOはこう語る。「新車発表の広告宣伝費や、2023年以降に発表する新車の開発費など、今年度から成長のための投資を積極的に行っていく考えだ」。
ゼネラルモーターズ:コロナ禍で試される道徳観(2020年のメディア支出総額は21億ドル[約2283億円])
2021年はじめの3カ月は多少のふらつきが見られたが、上半期は堅調な推移を見込んでいる。当期の売上高は325億ドル(約3兆5341億円)で、前年同期の327億ドル(約3兆5558億円)からやや減少した。
大方の予想通り、ゼネラルモーターズ(General Motors)は売上に弾みをつけるためにマーケティングにテコ入れを行うようだ。すでに、マーケティング予算をコロナ禍以前の水準に戻すことを計画している。同社は2020年、不安定な時期を乗り切るために、キャッシュフロー管理の一環として、年間のマーケティング予算を10億ドル(約1087億円)削減した。それでも、コロナ禍というトンネルを抜けるのは容易でない。ゼネラルモーターズは黒人が経営するメディアにもっと予算を投入すると表明しているが、単なるパフォーマンスだとの批判も絶えない。コロナ禍によって、同社はその道徳観を問われている。
レキットベンキーザー:コロナ禍による除菌ブームは続く(2020年のメディア支出総額は20億ドル[約2175億円])
レキッドベンキーザー(Reckitt Benckiser)は、英国に本社を置く大手消費財メーカーだ。当期の増収率は4.1%で、前年同期の13.3%を下回った。コロナ禍による衛生意識の変化がプラスに働き、ハンドソープのデトール(Dettol)や除菌剤のライゾール(Lysol)などを、オーストリアやベルギーなどの新市場に拡大したほか、WeWork(ウィワーク)をはじめ、法人顧客の開拓も進んだ。
当期、ライゾールをはじめとする衛生用品の増収率は28.5%だった。レキッドベンキーザーの場合も、売上高の多くはオンライン販売によるものだ。eコマース事業の売上高は25%の大幅増を記録し、いまや純売上高の13%を占めている。いうまでもなく、この分野の事業機会を確実に掴むため、人材の確保にも相当の時間を費やしたという。
グラクソ・スミスクライン:ワクチンの接種待ち(2020年のメディア支出総額は20億ドル[約2175億円])
一部の市場では、新型コロナウイルスの感染が急拡大しており、変異株に対する懸念も高まっている。治療薬の開発に取り組む企業にとっては、不確かな状況が続く。
ワクチン開発に取り組んでいる、世界中の企業や研究グループと協働しているグラクソ・スミスクライン(GsK)の売上高は、グループ全体で18%減少し、総売上高は74億ポンド(約1兆1398億円)となった。意外なことに、同社の医薬品部門の売上高は12%減の39億ポンド(約6007億円)だった。
売上の落ち込みにより、今後数カ月、同社のマーケティング活動は大きなプレッシャーにさらされるだろう。パンデミックのピーク時には、ほかの広告主同様、ポートフォリオを組み直し、eコマース関連の事業計画を修正するなど、ブランディングやメディアバイイングにさまざまな調整を行ったが、いわずもがな同社の抱える問題は、当分片づきそうにない。
SEB JOSEPH(翻訳:英じゅんこ/ガリレオ、編集:村上莞)