11月2週目、暗号資産交換業者大手のFTXが経営破綻し、暗号資産業界は混迷状態に陥った。さらにeスポーツ業界も渦中に巻き込まれていた。その結果、業界の多くのリーダーが何カ月も前から気づいていたこと、つまり、eスポーツ業界はブランドパートナーシップの収益に依存しすぎているという事実が浮き彫りになったのだ。
11月2週目、暗号資産交換業者大手のFTXが経営破綻し、暗号資産業界は混迷状態に陥った。さらにeスポーツ業界も渦中に巻き込まれていた。
その結果、業界の多くのリーダーが何カ月も前から気づいていたこと、つまり、eスポーツ業界はブランドパートナーシップの収益に依存しすぎているという事実が浮き彫りになったのだ。特に、暗号資産やギャンブルなどリスクの高い業界への依存度が高い。
FTXとeスポーツ業界の結びつき
FTX(本社:バハマ)は人気の高い仮想通貨取引所だったが、仮想通貨メディアのコインデスク(CoinDesk)が11月2日に発表した記事で、同取引所が顧客の払い戻しに対応できるだけの資金を保有していないことが明らかになると、破綻に至った。11月11日には米連邦破産法11条の適用を申請、経営破綻し、創業者でCEOのサム・バンクマンフリード氏は、自らの純資産が160億ドル(約2兆2400億円)近くからほぼゼロまで急激に下落し、職を辞した。
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FTXと創業者のバンクマンフリード氏は、仮想通貨とは関係ない業界とも幅広く取引があり(たとえば同氏は報道機関プロパブリカ[ProPublica]を支援しており、米国政治家にも何百万ドルと献金していた)、なかでも特に力を入れていたのがeスポーツだった。同氏は一個人として、2021年6月にeスポーツ団体TSMと命名権で10年間2億1000万ドル(約300億円)の取引を交渉している。またFTXも、eスポーツトーナメント団体ライオット・ゲームズ(Riot Games)のリーグ・オブ・レジェンド・チャンピオンシップ・シリーズ(League of Legends Championship Series、LoLチャンピオンシップ・シリーズ)のタイトルスポンサーであり、ブラジルのeスポーツチームFURIA(フリア)の主要パートナーでもある。
eスポーツ業界に詳しいロッド・ブレスロー氏はこう話す。「コインベース(Coinbase)やクリプト・ドットコム(Crypto.com)をはじめとするさまざまな暗号資産系の企業が手当たり次第、eスポーツのチームやリーグのスポンサーに名乗りをあげ続けているのはいうまでもない。ただ現在、eスポーツ業界は間違いなく、極めて深刻な問題に直面している。経営面で明るい話がいくつかあるとすれば、今も暗号資産と投機の資金が流入していることくらいだ」。
FTXとeスポーツ業界の結びつきは、すでにほころび始めていた。
問題を抱えつつパートナー探しは続く
11月12日、FURIAがFTXとのパートナーシップを停止した。また、11月16日の午前中にTSMもFTXとのパートナーシップを一時中止する予定だと発表すると、同日午後までには、TSMのSNSアカウントからFTXのブランド名がすべて削除されていた。とはいえ、Twitter側で継続的に変更が生じているため、削除のプロセスは複雑で、認証済みアカウントの表示名変更は苦戦が強いられた(ライオット・ゲームズの広報担当は、米DIGIDAYに対する回答で、現状に関して回答を拒否した)。
For any verified people wanting to change their display name. Giga giga spam save when changing your display name on DESKTOP only. TSM social team fingers are now worn out. https://t.co/F3SPsd1nS5
— TSM DUNC (@followdunc) November 16, 2022
FTXの終焉はTSMにとって間違いなく頭痛の種だ。TSMがFTXとの取引で通常使用していたのはFTTなのだが、そのFTTはFTXのトークンで、現在は価値のない「シットコイン」である。TSMがFTXから最後に支払いを受けたのは9月30日で、同社は今後、予測不可能なパートナーであるFTXから追加資金をもらえるとは考えていない。さらにいえば、TSMとの代表窓口は、パートナーシップ・コミュニケーション担当スタッフを飛び越えて、バンクマンフリード氏が担っていたが、その同氏がいなくなった今、TSMの経営陣にはFTXと連絡をとる伝手がない。
「2022年第2四半期からというものTSMはFTTを保有していない」とTSM広報担当のジリアン・シェルドン氏は米DIGIDAYへの文書で答えている。「現時点で、当社のバランスシートに暗号資産は一切ない」。
TSMはこうした問題を抱えているものの、依然としてパートナーシップを積極的に模索している。仮想通貨の分野も例外ではない。12月には比較的規模の小さな仮想通貨取引業者とのパートナーシップの発表を計画中だ。おそらく、eスポーツのファンと暗号資産分野のこれまでの関係を当てにして、FTX破綻から続いている悪い気から逃げようとしているのだろう。というのも、テクノロジーサービス会社グローバントが実施した2022年7月のメタ―バース認知調査によると、ゲーマーの3分の1以上はメタバースで仮想通貨の購入、取引、獲得に関心があるからだ。
「対応の仕方は、業界によって違いがでてくるだろう」と話すのは、ニューヨーク大学でeスポーツおよびゲーミングのディレクターを務めるジェイソン・チャン氏だ。「どのようなファン層なのか、どのようなリスクがあるのかチェックしてみるとよい。eスポーツのファンの場合、暗号資産との親和性が高いことがわかるだろう」。
「危険」カテゴリーのスポンサーによる宣伝は禁止
TSMは大手eスポーツ団体であり、黒字を誇る数少ない企業だ。つまり、暗号資産業界の資金に依存するほかのeスポーツ企業は、今後の嵐を乗り切る準備がしっかりできていない可能性がある。すでに明らかなのは、FTXの破綻が暗号資産業界の企業にとって受難の時代の始まりに過ぎないということだ。
受難の一端はすでにeスポーツのほかの場所でも見え始めている。有力企業がおしなべて仮想通貨から距離を置いているのだ。11月12日、13日に開催されたフォートナイトのFNCSインビテーショナル世界大会(Fortnite Championship Series 2022 Invitational)で、TSMがついにロゴのFTX部分をテープで隠した。この動きの理由を尋ねたところ、フォートナイトを販売・配信するエピック・ゲームズ(Epic Games)の広報が同社のパブリックイベント向けライセンス条件を提示してくれた。これによると、仮想通貨など「危険」とされる多くのカテゴリーのスポンサーによる宣伝は禁止されている。
「決してFTXの問題が生じたからこのような方針にしたわけではなく、たまたまタイミングが一致しただけだ。というのも、今回の世界大会は同社が1年半ぶりに実施した対面イベントなので」と前述のeスポーツ業界に詳しいブレスロー氏は話す。とはいえ、この方針から、「メタバース」を取り入れてゲームを開発するエピック・ゲームズが、ゲーマーの間では仮想通貨に対する不信感がますます募っていると見ていることがよくわかる。
暗号資産業界の崩壊が止まらないため、eスポーツ企業は従来のスポーツ業界が見せた今回の騒動への対応からヒントを得るとよいかもしれない。
11月11日、FTXの破産発表のわずか数時間後に、マイアミのスタジアム「FTXアリーナ」ではアリーナからFTXブランド名の撤去作業がすでに始まっていた。またNBAのマイアミヒートも、FTXやその関連問題から距離を置こうと即座に行動を起こしている。同じような声明を発表したeスポーツ企業はどこも、具体的な行動を起こすまでに時間がかかっているが、これはFTXのスポンサーシップへの依存度が高まっていたことを反映している。
「最終的には業界にとってプラスになる」
FTXの操業停止に伴い、eスポーツ業界内で再調整が進むにつれ、eスポーツ企業は収益源もブランドパートナーシップも多様化させて、このような問題には決然とした態度で対応できなければならなくなるだろう。
「新興業界からスポンサーを得るときには必ずリスクが伴う」とニューヨーク大学のチャン氏は話す。「コンシューマーブランドがスポーツ企業の生命線であるのには理由がある。こうしたブランドは、安定しており、リスクが低く、問題が生じても対応が早い」。
こうして暗号資産業界で破綻が続く事態は、結果的にeスポーツにとって天の恵みになるかもしれない。新興業界の企業とのパートナーシップは、「揺るぎない収益力を得る」という長期的課題に対する短期的ソリューションにすぎないということを教えてくれるからだ。パートナーシップモデルの限界が明らかになった今、eスポーツ企業は現時点でこうした調整が可能であれば、今後の不景気に耐える準備が十分にできるようになるだろう。
「今回の問題は、最終的には業界にとってプラスになると思う」とチャン氏。「スポンサーがひとつのタイプに偏っていたのかもしれない。だとすれば、さまざまな収益源を持つことは不可欠だし、業界全体としても、収益源の多様化にあたり、どのようにして収益をあげていくのか見極めなければならない」と話す。
[原文:How the FTX crash reveals the esports industry’s crypto partnership problem]
Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)