代替肉業界は苦労しながらも成長しようとしている。各ブランドは自社の商品ラインやマーケティングの再考を迫られている。
代替肉カテゴリーは2019年頃がピークだったようで、ビヨンドミート(Beyond Meat)とインポッシブルフーズ(Impossible Foods)の大手2社が業界をリードしてきた。ビヨンドミートのIPO(新規公開株)の評価額は15億ドル(約2250億円)近くに達した。一方で、2020年度通期の収益は、前年比36.6%増の4億680万ドル(約610億ドル)だった。同じ年にインポッシブルフーズの小売店舗数は100倍近くに増大した。これらの企業は、大手のファーストフードチェーン店と提携し、ポパイズ(Popeyes)とチックフィレイ(Chick-fil-A)が先導したチキンサンドイッチ戦争のさなかに自社バージョンの肉なしチキンをリリースするなど、トレンドに乗ることで、成長をさらに促進しようとした。
しかし、このカテゴリーはその後低迷した。業界大手企業も収益の減少を報告する一方、ナウアデイズ(Nowadays)やミートレスファーム(Meatless Farm)などの新興企業は今年になって倒産やレイオフを行った。一部の買い物客はかつて、これらの代替肉の目新しさに興味を抱いたものの、味がよくないことや、原材料が不明なことから、代替肉を避ける人もいた。そのため、この分野に新しく参入した業者は、自社の商品の利便性を訴求する一方で、健康上の利点がわかりやすい天然素材を使用した商品をアピールすることで、差別化を図ってきた。
今年の第2四半期に、ビヨンドミートは純収益が前年同期比30.5%減の1億210万ドル(約153億円)になったことを報告した。しかし、これは過去18カ月における精彩を欠いた決算のうちの最新のものでしかない。2022年度の収益は前年に比べて9.8%減少し、損失は101%の3億6610万ドル(約549億円)だった。その一方で、最大の競合他社であるインポッシブルフーズも、長く待たれてきたIPOを再度保留にした。インポッシブルフーズは販売数を公開していないが、2022年は「過去最高の売上」を記録し、小売販売額が50%増加したと語っている。しかしその一方で、昨年は、収益とコストを釣り合わせるという理由で130人の従業員を削減した。
業界をリードするこれらの企業が苦戦を強いられ、健康食品や植物原料の食品に比べて大衆化がが遅れている今、代替肉業界の各社は軌道修正を図っている。続きを読む
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
代替肉業界は苦労しながらも成長しようとしている。各ブランドは自社の商品ラインやマーケティングの再考を迫られている。
代替肉カテゴリーは2019年頃がピークだったようで、ビヨンドミート(Beyond Meat)とインポッシブルフーズ(Impossible Foods)の大手2社が業界をリードしてきた。ビヨンドミートのIPO(新規公開株)の評価額は15億ドル(約2250億円)近くに達した。一方で、2020年度通期の収益は、前年比36.6%増の4億680万ドル(約610億ドル)だった。同じ年にインポッシブルフーズの小売店舗数は100倍近くに増大した。これらの企業は、大手のファーストフードチェーン店と提携し、ポパイズ(Popeyes)とチックフィレイ(Chick-fil-A)が先導したチキンサンドイッチ戦争のさなかに自社バージョンの肉なしチキンをリリースするなど、トレンドに乗ることで、成長をさらに促進しようとした。
Advertisement
しかし、このカテゴリーはその後低迷した。業界大手企業も収益の減少を報告する一方、ナウアデイズ(Nowadays)やミートレスファーム(Meatless Farm)などの新興企業は今年になって倒産やレイオフを行った。一部の買い物客はかつて、これらの代替肉の目新しさに興味を抱いたものの、味がよくないことや、原材料が不明なことから、代替肉を避ける人もいた。そのため、この分野に新しく参入した業者は、自社の商品の利便性を訴求する一方で、健康上の利点がわかりやすい天然素材を使用した商品をアピールすることで、差別化を図ってきた。
今年の第2四半期に、ビヨンドミートは純収益が前年同期比30.5%減の1億210万ドル(約153億円)になったことを報告した。しかし、これは過去18カ月における精彩を欠いた決算のうちの最新のものでしかない。2022年度の収益は前年に比べて9.8%減少し、損失は101%の3億6610万ドル(約549億円)だった。その一方で、最大の競合他社であるインポッシブルフーズも、長く待たれてきたIPOを再度保留にした。インポッシブルフーズは販売数を公開していないが、2022年は「過去最高の売上」を記録し、小売販売額が50%増加したと語っている。しかしその一方で、昨年は、収益とコストを釣り合わせるという理由で130人の従業員を削減した。
業界をリードするこれらの企業が苦戦を強いられ、健康食品や植物原料の食品に比べて大衆化がが遅れている今、代替肉業界の各社は軌道修正を図っている。
メッセージの混乱と競争の激化
代替肉ブランドは最初の頃、牛肉に対する直接の競争相手で、しかも地球に優しい食品として自社商品を売り出し、食品業界の主流に立つことができると信じていた。しかしこのメッセージは、特に代替肉をはじめて試そうとする人々のあいだに混乱を引き起こした。
サーカナ(Circana)のエグゼクティブバイスプレジデントで、生鮮食料品&プロテインの実践リーダーを務めるクリス・デュボア氏は、「代替肉は多くの注目を集めているが、肉類の総販売額の2%以上を占めるまでには至っていない」と述べる。同氏は、ミートフリー(肉を使用しない)カテゴリーにおける最近のラボグロウン(実験室培養)のムーブメントを「ウェーブ2」と呼ぶ。このムーブメントでは、80年代や90年代にあった冷凍ベジバーガーなどの初期段階の商品をもとに、従来のハンバーガーやその他の肉製品をより忠実に模倣した商品を作ろうとした。しかし、業界はすでにプラント(植物)ベースの3.0に移行しつつあり、これは基礎に立ち返って天天然素材を中心に据えるとともに、最新のサプライチェーンテクノロジーを活用して生産を合理化したものだと、同氏は述べている。
ビヨンドミートやインポッシブルフーズが勢いを得るにつれ、あらゆる側面からほかの企業が競争に参入してきた。大手食肉企業も植物ベースの商品に参入し、特定の企業が市場シェアを握ることはますます困難となった。
1993年に創設されたライトライフ(Lightlife)は、ビヨンドミートやインポッシブルフーズのハンバーガーと対抗するため、独自の代替肉ハンバーガーを2019年に発売した。パーデュー(Perdue)も同年に、ザ・ベター・ミート・コーポレーション(The Better Meat Co.)と提携し、独自のチキンナゲットとチキンテンダーの商品ラインを発売して、プラントベースの代替肉の分野に参入した。
代替肉は、従来の大手食肉会社に対抗するだけでなく、豆腐やテンペといった、培養肉製品よりはるかにコストが低い天然のタンパク源とも競合している。さらに、十分な資金を受けた米国の新興企業は、代替肉が大きく成長している欧州、特にフランスやドイツなどの国から米国に参入してくる他社とも競合している。
クリーンなラベルへの動き
このカテゴリーが最近経験したすべての不安定さを考えると、プラントベースの食品企業は新興企業から実績のある企業まで、より統一された戦略とメッセージを基礎として立て直しを図り、再度カテゴリーの成長をめざそうとしている。新しい位置づけにおいて重要な部分となるのは、本物の原材料だ。
ライトライフは2020年、ビヨンドミートとインポッシブルフーズの肉は実験室で作られたものだと名指しし、これに対して自社の代替肉は「クリーン」だと主張するキャンペーンを公開した。
デュボア氏は、ビヨンドミートやインポッシブルフーズなどの企業はこれまで「自社の商品が、牛肉の健康的な代替品だと明言したことはない」と語る。人々は、代替肉を購入することで、環境によい影響はあるとしても、必ずしも健康的とは限らないということを理解するようになってきた。
一部の栄養学の専門家は、ビヨンドミートやインポッシブルフーズなどの代替品は過剰な処理が加えられているため、本物の肉よりも健康に悪いと論じている。また、デュボア氏は、人々がタンパク質を購入する際は、味も重要な要因のひとつだと付け加えた。
それでも、現在の経済的な困難や、代替肉市場の規模が限られていることを考慮すると、このカテゴリーは緩やかに成長していると、デュボア氏は語る。「このカテゴリーは、おそらく生鮮食料品部門で定着することはないだろう」と同氏は述べ、生肉は新しいブランドが参入するのが難しい分野だと付け加えている。「消費者は、このような商品が冷凍食品コーナーにあることを期待する」。
しかし、このカテゴリーでは、消費者の認識を変える大きな変化が起きつつあると、デュボア氏は付け加える。原材料の種類が非常に多いことや、味がよくないなどの問題点が対処されつつあるというのだ。また今年前半に、ビヨンドミートのステーキはアメリカ心臓協会(American Heart Association)の認定を受けた。さらに同社は8月、代替肉は不健康だという食肉業界の主張に対抗するため、「よいものはここにある(There’s Goodness Here)」キャンペーンも開始した。
それでも、全体として実験室で作り出した肉から離れる傾向はあり、多くの企業は天然のタンパク源から商品を作り出すことに専念している。たとえば、ジャックアンドアニー(Jack and Annie)は代替肉カテゴリーにパラミツをベースとする冷凍食品を定着させようと試みている。同社は2020年から小売を開始し、2021年の時点で2300万ドル(約34億5000万円)を超える資金を調達した。2017年に創設された、マッシュルームの根をベースとするミーティフーズ(Meati Foods)は、同じく実験室ではなく農場を活用する企業だ。
成長の次のフェーズで得られるもの
代替肉市場が飽和しているなか、若い新興企業は、これらの過ちから学び、健全な成長への道筋が見えていると述べる。
ミーティフーズのマーケティングおよびコミュニケーション担当バイスプレジデントを務めるクリスティーナ・ラー氏は、チキンやステーキの代替品を作り出すのに「適切なマッシュルームの菌糸の種を見つけ出すため数年を要した」と、米モダンリテールに語った。しかし同社は、今年になって勢いを得た。1月には、事業の拡大と小売流通の拡大をめざし、シリーズC資金で1億5000万ドル(約225億円)を調達した。3月から、フレッシュタイム(Fresh Thyme)、ホールフーズ(Whole Foods)、ジャイアント(Giant)の店舗で販売を開始し、さらに販売店舗の増加を予定している。
ラー氏によると、ミーティフーズの商品売上の40%は、これまでアニマルフリー商品を購入したことのない人々によるものだ。同氏は、「小売業者から、この数年間は困難もあったが、消費者は利便性に関心を持っているという話を聞く」と述べる。
ミーティフーズは味を特に重視し、デビッド・チャン氏やトム・コリッキオ氏のようなセレブリティシェフのお墨付きも得ている。「原材料が、色や風味を改善するものも含めて6つであることによって、有利なスタートを切れたと思う」と、ラー氏は述べる。また、ミーティが力を入れているもうひとつの価値提案が、利便性だ。ビヨンドミートの食品の多くは下ごしらえや調理が必要なので、買い物客によっては、試すのを躊躇してしまうかもしれない。
「消費者の行動を変えることは困難なので、すでに調理が半分できてることを示し、自宅で食べるのに適した商品にすることが必要だ」と、ラー氏は述べる。このため、ミーティフーズの商品ラインはマリネしたカツレツやカルネアサダなどを中心にしている。「その商品でどのような食事を作ればいいのか想像しやすいので、よく売れている」。
ミーティフーズは来年、さらに多くの小売業者やフードサービスで販売し、その勢力を拡大する計画だ。この9月には、D2Cウェブサイトを開設した。このサイトは、新しいSKU(在庫管理単位)を小売店に出す前に新しいSKUをテストするために使用される。つい最近、新しいジャーキーの商品ラインを同サイトで発売した。現在同社は急速に成長しつつあるが、ラー氏は「2024暦年内に収益化する道筋が見えている」ことを肯定している。
カナダを拠点とするホーリーベジー(Wholly Veggie)は、バッファローカリフラワーウイングやトリュフ味のモッツァレラ風スティックなど、プラントベースの冷凍食品に特化しており、シンプルな原材料を使用した食材を便利な形で提供することにこだわっている。
昨年の時点で年間の収益は売上で1000万ドル(約15億円)を超えたが、共同創設者でCEOを務めるジョナサン・ボーネル氏は、プラントベースの食品を販売する多くの会社と同様、同社も小売での課題に対処していると語る。
同氏は、食肉業界での経歴と植物性食品の経験を通じて、天然のプラントベースのカテゴリーは、実験室で培養した、動物の肉を直接模倣しようとする代替品よりも理解しやすいため、成長に有利な位置にあると語る。ホーリーベジーは以前にも肉なしバーガーを発売したが、市場が飽和していたため、最終的には商品を撤退させた。
「人々は安価な肉の代替品を求めているが、多くの場合、代替品はより高価になる」と、ボーネル氏は語る。「現在は、大量の油や添加物を製法を一掃することに躍起になっている」。そのため、ホーリーベジーは加熱するだけで食べられる料理に特化している。これは食料品で現在成長中の分野でもある。
しかし、プラントベース食品の分野全体を見ても、この1年は小売業界にとって厳しい状況だったとボーネル氏は語る。ホーリーベジーは2022年の厳しい情勢で収益が減少した後、現在は黒字化を達成できるかどうかの瀬戸際にある。
サーカナのデュボア氏は、これらの転向や統合はすべて、おそらくこのカテゴリーが安定するまで続くだろうと語る。「たしかに前年比の数字は悲惨なもので、企業は撤退しつつあるが、勝者の一部は統合を行っている。厳しいのは、すべての業者が勝利できるわけではないということだ」と、デュボア氏は述べている。
[原文:How the fake meat industry is trying to reinvent itself]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Beyond Meat