米大手量販店ターゲット(Target)は、プログラマティック広告をマーケティング機能のアウトソーシングとはとらえていない。大量の購入者データを利用して、社内データ管理プラットフォーム(DMP)を開発し、デマンドサイドベンダーと直接のつながりを構築。最近では、サプライヤー向けにPMPを提供している。

ロッソ氏:「我々の業界は、プライベートマーケットプレイスに向かっている」
米大手量販店ターゲット(Target)は、プログラマティック広告をマーケティング機能のアウトソーシングとはとらえていない。大量の購入者データを利用して、社内データ管理プラットフォーム(DMP)を開発し、デマンドサイドベンダーと直接のつながりを構築。さらに最近では、同社にならってプログラマティック広告を運用したいサプライヤーブランドに、プライベートマーケットプレイス(PMP)を提供しているのだ。
「我々、そして業界全体が向かっている考え方は、プログラマティックがもはや貧弱な広告インベントリー(在庫)を処理する手段ではないというものだ」と、ターゲットのデジタルメディア担当バイスプレジデント、ブレント・ロッソ氏は語る。「プログラマティックは、最良の広告インベントリーを自社のデータや提携パブリッシャーと結びつける。もちろん、『最良』の定義は企業の目的によって変わるが。さらに、プライベートマーケットプレイスを構築することも選択肢になる」。
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内製チームで40%の売上増
こうした考え方が主な動機となり、ターゲットは社内でプログラマティックを扱う体制を強化。さらに2015年は、サプライヤー向けに「ターゲットゲストアクセス(Target Guest Access)」という独自のプライベートマーケットプレイスを立ち上げた。その謳い文句は、ターゲットの消費者データを利用した独自のデジタル取引が、ほかのプログラマティックバイイングの選択肢をはるかに上回るROI(投資利益率)をもたらす(それを証明するレポートも作成できる)、というものだ。ウォルマート(Walmart)やAmazonなどの競合企業も、同様のメディアバイイングプログラムを用意している。
毎年、何百万人もの買い物客が1800店を超えるターゲットの店舗を訪れ、数テラバイトの個人情報が蓄積される。顧客の大半は気づかないが、彼らが会員カードを提示したり、メールで受け取ったクーポンを利用したり、クレジットカードで支払ったりすると、ターゲットはその購入データを個人情報と結びつける。約25人の社内チームがこれらのデータを処理して顧客分析を集積し、自社のプログラマティック広告と、メディアバイイング事業のターゲットゲストアクセスに活用しているのだ。
たとえば、ターゲットの店舗で抗アレルギー薬「フロネーズ(Flonase)」を購入した客の属性データを集約して分析すると、典型的な購入者は子供を育てている24~44歳の女性で、世帯収入は年2万5000~9万9000ドル(約290万~1100万円)の範囲だとわかった。彼らはまた、パーソナルケア用品、バスルーム用品、ペット用品、家庭用清掃用品を購入する傾向があった。こうした情報に基づき、ターゲットはフロネーズの9タイプのオーディエンスセグメントに、プログラマティック広告を含むキャンペーンを展開。ロッソ氏によると、これは40%の売上増をもたらしたという。
「いわばウィンウィンウィンの状況だ。買い物客も、ターゲットも、提携ベンダーも得をする」と、ロッソ氏は語る。
内製DMPでデータの集約・統合
ターゲット自身は、自前のデータ管理プラットフォーム(社内では「ビッグレッド(Big Red)」と呼ばれている)を約2年前に構築したが、プログラマティックの運営は提携エージェンシーと共同で実施してきた。同社は2016年4月、資産価値6億8600万ドル(約789億円)のメディア事業を、広告ホールディングス世界最大手WPPのメディアエージェンシーであるグループM(GroupM)と統合している。
一方、ターゲットゲストアクセスに関して、同社は技術ベンダーのアクシオム(Acxiom)やライブランプ(LiveRamp)などと共同で、(ビッグレッドとは別の)サテライトのデータ管理プログラム(DMP)を開発した。サプライヤーブランドはこれを使って、自社の専有データのレポートを作成できる。「我々は見るべきでないデータは見ない。逆もまたしかりだ」とロッソ氏。「我々のパートナーも、ターゲットの内部データにはアクセスできない」。
デマンドサイドプラットフォーム(DSP)に関して、ターゲットはメディアマス(MediaMath)と提携し、最近はGoogleの「ダブルクリック・ビッド・マネジャー(DoubleClick Bid Manager)」とも契約。エージェンシーのマークル(Merkcle)とともに、社内トレーディングデスクの開発も進めている。「我々は取引担当者の採用を増やし、エージェンシーとの提携にも門戸を開いている」と、ロッソ氏。
プログラマティックTVにも挑戦
ターゲットは今年、アドレサブルテレビ広告も実験。グループM、ディッシュネットワーク(DISH Network)、AT&T傘下のDirecTVと共同で、同一番組の視聴中に世帯ごとに異なるパーソナライズド広告を放映した。戦没者追悼記念日(5月最終月曜日)から独立記念日(7月4日)まで4週間のキャンペーンをおこない、さらに感謝祭(11月第4木曜日)の近辺でも4週間のキャンペーンを実施。両キャンペーンとも対象はターゲットの買い物客だ。
ロッソ氏は「アドレサブルテレビ広告は小規模なテストにすぎず、本格的なものではない」と述べ、キャンペーンの詳細は明かなかった。ターゲットのデジタルモデルを従来のリニア型テレビに応用する試みはまだはじまったばかりで、とりわけ大きな課題は、テレビの全データを解析可能な形にすることだ、とロッソ氏は説明する。
「我々はデータの一定部分を利用できているが、対象が1000万世帯分を超えることを考慮すると、その割合はまだ小さなものだ」と、ロッソ氏は指摘する。「さらに、リアルタイムの広告メディア配信を実現する技術パイプラインを見つけなければならない。そういったものがまだ欠けている」。
Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)
Photo by Mike Mozart(CreativeCommons)