デジタルファッションeコマースプラットフォームのスタートアップ、サイキー（Syky）は、6月27日、同社が初の支援を行うデジタルファッションデザイナーの一群を発表した。デジタル衣料はRoblox（ロブロックス）やフォートナイト（Fortnite）といったプラットフォームやARでますます顕著になっており、この分野の市場予測は前途有望だ。このカテゴリーがファッション全体に与える影響は、控えめにいっても重要なものとなるだろう。

1月にサイキーは、起業家アレクシス・オハニアン氏の投資会社セブン・セブン・シックス（Seven Seven Six）が主導する1050万ドル（約14.8億円）のシリーズA資金調達ラウンドの終了を発表。このラウンドには、ブレバン・ハワード・デジタル（Brevan Howard Digital）、リードアウトキャピタル（Leadout Capital）、ファーストライトキャピタルグループ（First Light Capital Group）、ポリゴンベンチャーズ（Polygon Ventures）も出資している。

Advertisement

デジタルファッションデザイナーの起業を支援

サイキーの1年間にわたるメンターシップ・プログラムは、ブリティッシュ・ファッション・カウンシル（British Fashion Council、以下BFC）のCEOであるキャロライン・ラッシュ氏など、業界トップから支持を得ている。プログラムのメンターを務める業界エグゼクティブには、カルバン・クライン（Calvin Klein）CMOジョナサン・ボトムリー氏、サイキー創業者アリス・デラハント氏、レッドDAO（Red DAO）共同創業者メーガン・カスパー氏らがいる。このサイキーの「コレクティブ」に選ばれた最初の10人のデジタルデザイナーには、過去にパートナーシップを通じてデザインの小規模なコレクションを販売していたステフィー・ファン氏とペット・ライガー氏が含まれている。

デザイナーのビジネスを軌道に乗せる役割を果たすという意味で、サイキーは、BFCのニュージェン（NewGen）のようなプログラムがシモーネ・ロシャ氏やジョナサン・アンダーソン氏、クリストファー・レイバーン氏といったフィジカルなファッションのデザイナーに対して行ってきたようなことを、デジタルのファッションデザイナーに対して行うことを目指している。BFCはサイキーコレクティブのためにニュージェンのプログラムを初めて公開し、コレクティブのメンバーに豊富なメンターシップや経営ツール、教育の機会を提供する。ニュージェンは、従来の新進デザイナーに助成金とメンターシップを提供している。

「（今日では）ただデザイナーになるということができない。最高経営責任者や最高マーケティング責任者、最高財務責任者にもならなくてはいけないのだ」と、サイキーのデラハント氏は言う。デラハント氏は以前、ラルフ・ローレン（Ralph Lauren）でチーフ・デジタル＆コンテンツ・オフィサーを、バーバリー（Burberry）でデジタル＆ソーシャル部門のグローバルディレクターを務めていた。「法的なアドバイスと確立された法人格を持たなくてはならない。そこで、私たちがそうしたすべてを提供する」。

コレクティブのデザイナーは、法人設立、強力なマーケティング戦略の設定、ブロックチェーン上での構築などを支援する専門家にアクセスできる。

「物理的なファッションメゾンを始めるにはお金がかかる」とデラハント氏。「非常に多くのすばらしいクリエイティブディレクターやデザイナーが、最終的に大きなメゾンに入ることになるのはそれが理由だ。小さなメゾンの多くも、商品やサプライチェーン（マネジメント）、物理的なスペースに非常にコストがかかるため、結局はLVMHやケリング（Kering）、PVHといった大きなコングロマリットの傘下に入ってしまう。本当にお金がかかるのだ」。

大きく成長中のデジタル衣料産業

若手ブランドも老舗ブランドも、特に市況が低迷しているときには財政的に危機感を感じている。創業17年のブランドで、以前ニュージェンに参加していたクリストファー・ケイン氏は、6月に破産手続きを申請した。

経験豊富なデジタルファッションデザイナーの場合は、大手ブランドに吸収されるという道もある。7月6日、ラルフ・ローレンはポロ・ウィメンズ（Polo Women’s）のシニアデジタルクリエイティブデザイナーの求人を掲載した。給与は8万ドル（約1130万円）から17万1000ドル（約2416万円）で、「高品質のデジタル体験」の創造が責務として挙げられている。ブランドがデジタルデザイナーを探している反面、積極的に自分のブランドを立ち上げるデジタルデザイナーは少ない。個々のデジタルファッションアイテムの販売は、クリエイティブスタジオやゲーミングスタジオとの提携を通じて行われるのが一般的だ。例外として、独立系のRobloxファッションデザイナーのサミュエル・ジョーダン氏がいる。

「Robloxやフォートナイトのようなデジタルワールドが台頭している。ブレンダー（Blender）といった適切なツールがいまでは無料で使えるようになり、人々やそのアバターがさらにデジタルファッションを身につけるようになっている」とデラハント氏は言う。ブレンダーはオンラインで利用できるデジタルファッションデザインツールだ。

アライドマーケットリサーチ（Allied Market Research）によると、世界のデジタル衣料産業は2031年までに48億ドル（約6789億円）に達すると推定され、2021年に生じた4億9870万ドル（約705億円）から大きく成長している。

才能ある人々を発見し、適切なネットワークにつなげる

他の支援においても、サイキーはデザイナーにコミュニティへのアクセスを与えることに力を入れている。1月にNFTの販売を通じてローンチしたサイキーのトークンコミュニティには987人のメンバーがおり、編集者、CEO、クリエイター、その他のエグゼクティブにアクセスして教育機会を得ることができる。コレクティブにも同様のアクセスが与えられる。エグゼクティブらはプログラムへの参加で報酬を得ていないが、NFTを贈られている。

「デジタルファッションデザイナーは、ゲーミング、グラフィックデザイン、3Dデザイン、さらにはハイテクなど、多様なバックグラウンドを持つ、まったく新しいタイプの人々の代表だ」と話すのは、ブランドストラテジストでWeb3エデュケイターのアン＝リース・プレム氏だ。「そのなかでもっとも才能がある人や、その人たちがファッションのためにできることを見極めることは、外部の人間にはほとんど不可能だ。サイキーには、そうした才能を見つけ出すだけでなく、その人たちを適切なネットワークにつなげるための専門知識があるので、才能ある人々が仕事を通じてデジタルファッションの分野全体を発展させ、進歩させることができるようになる」。

サイキーがコレクティブのデザイナーの仕事をオンチェーンにすることで、デザイナーのアイテムが最初に販売され、その後取引される際にデザイナーは永続的に配当を受け取ることができる。

「オンチェーン活動によって、ファッションデザイナーは早い段階で資本基盤を確立できるようになる」とデラハント氏は言う。「そうすれば既存のメゾンのクリエイティブディレクターになったり、生き残るためだけにどこかの大きなスペースに参加したりしなくても、ビジネスを成長させて規模を拡大できる。サイキーは、デザイナーの各企業から5％の割り当てを受け取る」。

目的は、デザイナーがプログラムのなかで得たアドバイスが自分の選んだ道であれば、それを活用して自分のブランドを構築できるようにすることにある。だが、サイキーコレクティブがデジタルデザイナーをファッションデザインの最前線に押し上げるかどうかは、現時点ではまだわからない。

[原文：Syky is preparing digital fashion designers for the $4.8 billion brand opportunity]

ZOFIA ZWIEGLINSKA（翻訳：Maya Kishida 編集：山岸祐加子）