ファッション業界はコレクション発表において、より派手で、オープンなショーを開催する傾向が出てきた。ソーシャルメディアによる影響だ。ブランドはソーシャルを通してコレクション情報を開示し続け、ユーザーのエンゲージメントを高めることに意味はあるのか? 各ファッションブランドは、それぞれのアプローチを取りはじめている。
トミーヒルフィガー(Tommy Hilfiger)は、40フィート(約12メートル)の観覧車、メリーゴーランド、ゲームや綿菓子の屋台などのセットを用意して、カーニバルをテーマにしたパーティ&ファッションショー「トミーピア」を催した。このショーは、インスタグラムのファッションインフルエンサーのファンタジーとして、多いに話題を振り撒いたことだろう。
マンハッタンシーポートで、9月9日に行われた本イベント。隣接する桟橋を人々で埋め尽くすため、2000枚のチケットが配布された。その半数は、一般人向けに配布されたものだという。ファッションショーの一般人招待枠としては、最大規模だ。2015年の秋、ジバンシー(Givenchy)が用意したチケットは800枚だった。
イベントの目玉はモデルのジジ・ハディット。ランウェイ上で「Tommy x Gigi」ブランド向けに、彼女の手掛けるはじめての衣服コレクションを披露した。その様子はTommy.comとVogue.comでライブ配信され、その晩には、同コレクションのオンライン販売と店舗販売が開始されている。
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トミーピアの「Tommy x Gigi」は、華やかで大衆向けのスタイルで溢れていた。その後、9月末に発表された、同ブランドの別コレクションとは、まさに正反対の印象だったという。それは、女性向け既製服の春コレクションだった。
大量消費時代のショーの在り方
「現在、デザイナーたちはブランド構築を迫られている」と、ニューヨークファッションウィークの制作会社、LDJプロダクションズ(LDJ Productions)のオーナー、ローリー・デジョン氏はいう。「衣服の色や形だけを手掛ける時代は終わり、ブランドの世界観全体を考えなくてはならない。伝統のあるランウェイショーは、多くのファッションデザイナーたちにその役割を任せている」。
今回のファッションウィークに対するトミーヒルフィガーのアプローチは、ブランドの二面性、ソーシャルメディアや、目にしたものをすぐに買いに走る大量消費時代によるプレッシャーに迫られた対応だ。現在、ファッションショーは、非常に異なる2つのグループに属する人々へ異なるものを提供しなければならない。それは、一般大衆向けのエンターテインメントおよびエンゲージメントのソースであることであり、同時に、批評をしてくれるバイヤーやプレスのために、包括的な新製品コレクションでもあることだ。
今シーズン、デザイナーたちはコレクションを、パーティーで、カーニバルで、従来のキャットウォーク上でどのように披露するのか、そしてそれは誰に対するものか、顧客なのか、それともバイヤーなのか、決断しなければならなかった。何が一番効果的なのかの確認をブランドは急いでいることから、それらの判断の重要性は明らかである。
「ガイダンスや第一人者の見解などがあれはいいのだが。いまはまったくパニック状態にある」とDKNY(ダナ・キャラン・ニューヨーク)でグローバルコミュニケーションのバイスプレジデントをかつて務めた、アリザ・リヒト氏は語る。
パブリシティ向けの派手なイベント
ファッションショーの目的は、ソーシャルメディアによって、まったく変わってしまった。結果、デザイナーたちは新作コレクション発表の際、誰でも参加できるようなイベントに注力している。かつてはシンプルで、そうではなかったのだが。
2016年1月、CFDA(Council of Fashion Designers of America:アメリカファッション協議会)はボストンコンサルティングエージェンシー(Boston Consulting Agency)と提携し、ニューヨークファッションウィークの目的を評価することにした。同報告書はほとんど要領を得ないものであったが、CFDA(アメリカファッション協議会)は、その当初の目的が何であったかをあらためて提示した。つまり、「デザイナーたちはコレクションを紹介し、プレスはそのコレクションを評価し、バイヤーは発注すること」だ。
しかし、状況は変化してきている。テクノロジーによってファッションショーが数百万のユーザーの目にされるようになった。ライブ配信、インスタグラム投稿、Snapchat(スナップチャット)投稿が、いままで閉鎖的だったショーの扉を吹き飛ばしたのだ。
「かつてはトレードイベントだったのが、現在はリアルタイムで大衆の前に出ている。それが盛り上がりを強めている」と、CFDA(アメリカファッション協議会)のプレジデント、スティーブン・コルブ氏はその報告書で述べている。
誰のためのショーなのか?
ファッションショーはここ数年、より多くの人々の目を引くような演出に力を入れ、ニュースの見出しに取り上げられるように進化してきた。というのも、ショーを観る聴衆のなかのユーザーがモバイルを手にとって、ソーシャルプラットフォームでランウェイの様子をシェアするようになったからだ。
シャネル(Chanel)のテーマ別のショーでは、肘まである手袋とピンクのツイードのコートをまとったモデルたちが、スーパーや空港のターミナルを再現したセットを歩いた。ジバンシィ(Givenchy)やカニエ・ウェスト(Kanye West)といった多くのブランドが、これまでのファッションショーのあいだ、一般人対象に席を開放している。トミーピアを開催することになったトミーヒルフィガーは、過去数年に、キャットウォークを数インチの深さの水で浸したり、モデルをフットボールのフィールドで歩かせたりした。
今年のカーニバルで、ヒルフィガーはより多くのソーシャルエンゲージメントを促し、多くの消費者の注目を集めることに成功した。
「もちろん、このような取り組みは大量のインプレッション数を稼ぐ。最終的には、この手のものはプレス向けの派手なイベントになるのだろう。それは、注目されるためにサーカスで輪くぐりをするようなものだ。予算もあり、そうしたことを続けられるのならばすごいことだが、それは稀だ。さらに、実際にそれが売上に弾みをつけるかどうかは分からない」と、リヒト氏は語る。
表舞台から身を引くブランドも
すべてのデザイナーたちが、こうした派手なショーで、ライバルを出し抜こうとするゲームに興味をもっているわけではない。
ケイト・スペード(Kate Spade)は、今年、ファッションショーやプレゼンテーションは開催せず、代わりに予約制でプレスを招待。過去のシーズンでは参加者にセレブリティも招くような、パーティー形式のプレゼンテーションを開催したが、やはりもっとも重要なのはブランドの商品だ。同ブランドのコレクションを観た編集者は、来年2月までソーシャルメディア上で全容を共有することは許されない。その代わりに、ケイト・スペードは、現在販売中の秋コレクションに関するソーシャルプレゼンスに注力していく。
デレクラム(Derek Lam)も同じ道を選択し、彼のコレクションはプレスとバイヤーだけにクローズドでお披露目される予定だ。デザイナー兼CFDA会長で、2月にインスタグラム向けの秋冬コレクションのパーティーを主催したダイアン・フォン・ファステンバーグでさえ、消費者に目を向けたコレクションのプレミアからは一歩下がって、個人的な問い合わせだけを受け付けている。
「消費者の関心を得るために一生懸命に取り組んだブランドにとって、春に商品が店頭に並ぶときには、それはもう過去の出来事のように感じてしまうのだろう。実際はそうではないのに」と、ラグジュアリーブランディングエージェンシー、ロニー(RO NY)の創業者のロニー・ゼイダン氏はいう。
「個人的な問い合わせに限定するコミュニケーションは伝統回帰だ。プレスを通してのコミュニケーションで十分。そして消費者には直接語りかけない。商品が店頭に並んでいない場合は、インスタグラム投稿などしない。無意味な欲望を作り出す必要はないからだ」。
ゼイダン氏は個人的な問い合わせによって、ブランドのソーシャルメディアの投稿を、現在入手可能な商品のみに焦点を当てていることができているというが、この戦略はブランドが消費者からの注目を集めるチャンスを逃すリスクを犯している。
「消費者は、あまりに早い段階にソーシャルメディアで物事を見聞きしていることは事実だ。しかし、ファッションウィーク中に存在感を示せないと、ほぼ存在しないも同じである。NYFW(ニューヨークファッションウィーク)中に意見を共有することは重要だ。そうしなければ、ほかのブランドが代わって消費者にエンゲージする」と、リヒト氏は述べる。
圧倒的な変化をもたらすソーシャル
非常に多くの変数があるため、ファッションショーの新しい形はひとつではない。CFDAがその報告書でそのような結論に至り、次ように記している。「最終的に、自分たちにとって何が一番効果的なのか判断をするのはブランドであり、CFDAはデザイナーが自らのコレクションにとって正しいことを試し、定義するときに、彼らを支援するつもりだ」。
業界全体のガイドラインの欠如は、これまで以上に今シーズンでより明白になった。ファッションウィークに関して、すべてのブランドが同じ方程式に再び従うようになる可能性は低いだろう。ゼイダン氏によると、ブランドのショーは、いま見たコレクションをすぐに買うというビジネスアプローチを、どの程度まで認めるつもりかによって、ショーへの依存度が変わってくるという。また、ブランドの予算とソーシャルメディア戦略にも影響されることになる。
「ファッションは、変化がすべてである」と、LDJプロダクションズのデジョン氏はいう。「それは圧倒的だ、そして我々がもつ選択肢について議論することに多くの時間を費やしてきた。現在できることに制限がないのは良いことだ」。