eスポーツ市場が不況に強いというのは誤った認識だ。黒字化するための明確なルートさえないのだ。とはいえ、この分野はこれまで以上に多様化しており、人々が家で過ごす時間が長くなると利益を出せる傾向がある。したがって、eスポーツも経済の冬に見舞われるだろうが、最悪の事態からは比較的隔離されているように見える。
eスポーツ市場が不況に強いというのは誤った認識だ。黒字化するための明確なルートさえないのだ。とはいえ、この分野はこれまで以上に多様化しており、人々が家で過ごす時間が長くなると利益を出せる傾向がある。したがって、eスポーツも経済の冬に見舞われるだろうが、最悪の事態からは比較的隔離されているように見える。
しかし、それは「見た目」が強調されているにすぎない。
eスポーツの展望がどんなに確かなものに見えても、それは確固としたものではない。少なくとも、eスポーツの商業的健全性を示す重要な指標である世界のビデオゲーム市場は、2022年には縮小すると見られている。アンペア・アナリシス(Ampere Analysis)の調査担当者たちは、2022年の市場は1.2%縮小し、1910億ドル(約26兆4600億円)から1880億ドル(約26兆500億円)に落ち込むと予測している。最高財務責任者(CFO)たちはeスポーツの新しいパワープレイヤーだ。
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投資会社バンエック(VanEck)の製品担当マネージャーであるJP・リー氏は、次のように話す。「金利が0%だった2年前と比べて、資本コストが何倍にもなっているので、キャッシュフローがマイナスで収益性のない企業は倒産するだろう。M&Aは今後も続く。業績が悪いチームは買収されるか、新しいチームに組み込まれるか、あるいはただ消えていくだけだ」。
生き残るため、ましてや成功するために、eスポーツ企業は、競合他社を猛烈に欲する一方で、自分たちの仕事を再定義し、拡大しようとしている。もちろん、こうしたプレッシャーは経済危機のずっと前からあった。パンデミック、メディアの低迷、そして投資家が再び損益計算書を気にするようになったことで、実際よりも良い評価を失ったことをきっかけに、より深刻になっているのだ。
経済状況は不可避な事態を促進させる
eスポーツ組織が不況前に歩んでいた道から外れることは(あったとしても)ほとんどない、と言えるだろう。それどころか、フェイズ・クラン(Faze Clan)のエンターテイメント・コングロマリットになるための展開や、サブネイション(Subnation)が持株会社に転じたりと、危機は企業により速い行動を促している。はっきり言って、この激動の時代を経て、すべての企業が目標に近づくわけではない。間違いなく苦戦するところもあるだろう。いずれにせよ、統合は避けられない。以下はその例だ。
- 2022年1月、サウジアラビアの支援を受けるサヴィー・ゲーミング・グループ(Savvy Gaming Group:SGG)が、eスポーツ大会運営大手のESLゲーミング(ESL Gaming)とフェイスイット(FACEIT)を15億ドル(約2080億円)で買収した。
- 4月には、メタバース企業のインフィニット・リアリティ(Infinite Reality)が、eスポーツ企業のレクトグローバル(ReKTGlobal)を4億7000万ドル(約651億1700万円)の全額株式交換で買収した。
- ワンハンドレッドシーヴズ(100 Thieves)は、直近の資金調達ラウンドにおいてM&Aを戦略の重要な一部として掲げ、2021年10月に周辺機器メーカーハイグラウンド(Higround)を買収したことを皮切りに、M&Aを開始した。
スポーツマーケティングエージェンシー、レボリューション(rEvolution)のeスポーツ部門REV/XP担当シニアバイスプレジデント、クリス・マン氏は、「さらなる統合が進むと予想している。eスポーツチームは、現在飽和状態の市場を維持するだけの多様な収入源を持たず、コストを相殺するメディア契約もないからだ」と述べる。
何事にもチャンスはある。今回のような混乱した景気後退のときでさえも。
「来年にかけて、大幅なディスカウントやはるかに低い評価で企業を買収する能力が、大きなチャンスをもたらすだろう」と、業界追跡ポッドキャスト「ビジネス・オブ・eスポーツ(Business of Esports)」のホスト、ポール・ドワリビ氏は言う。「非常に『賢い』人たちが、この方法で大儲けすることになる」。
eスポーツの現実的な事例
2008年の金融危機の後、一部のエコノミストは、スポーツ業界は不況に強いと断言した。スポーツ業界には安定した長期契約があり、現代文化に深く根付いていることを理由に挙げている。確かにこれには一理ある。不況下でも、人々はビールを片手にNBCの「サンデーナイトフットボール」に熱中していた。これはある程度、eスポーツにも当てはまる。
G2イースポーツ(G2 Esports)の最高売上責任者、イリーナ・シェイムズ氏は、「たとえ予算が縮小しても、消費者として優先するものがある」と述べる。「ゲームに熱中している人、熱狂的なファンは、ゲームから離れることはない。そのコンテンツを消費したり、好きなブランドと関わることをやめないだろう」。
これは真実だが、本題に戻ろう。来る景気後退は、いまのeスポーツ業界にとって悪い状況をもたらす。
ひとつには、eスポーツはメディアの権利というパズルを解いておらず、ファンはeスポーツの放送を無料で見ることに慣れている。確かに、eスポーツ組織にはお金を稼ぐためのほかの方法がある。たとえば、eスポーツ組織の多くは、非エンデミックなブランドパートナーシップの復活を経験している。しかし、それは収益ラインとしてはメディア権に遠く及ばない。実際、広告やスポンサーシップの費用は、時代が厳しくなると真っ先に削られる。
「長期的なスポンサー契約も始まっており、継続的に入ってくる収益基盤があることは間違いない」と、eスポーツ組織のオプティク・ゲーミング(OpTic Gaming)で最高経営責任者(CEO)を務めるアダム・ライマー氏は語る。「NBCやESPNが保証する放映権を持っているわけではなく、そうしたレベルにいるとは思わないが、広告主がそれを満たすかどうかに関わらず、一定の金額が入ってくる」。
多くのeスポーツ組織の生命線であるフランチャイズゲームのライブイベントでさえ、チケット販売、旅行、宿泊のコストに影響されるだろう。要するに、多くのeスポーツのビジネスモデルは流動的なのだ。
短期的な問題と長期的な利益
何もかもが不安定に聞こえるかもしれないが、この状況はそのうち終わる。それまで持ちこたえることは、eスポーツのボスにとって難しくはあるが、不可能ではない。結局のところ、彼らの多くはこの2年間、スポンサー契約や放送契約にとどまらず、さまざまな商業的権利を開拓するために奔走してきた。より根本的なレベルでも、励みになる兆しがある。
確かに2022年のゲーム市場は縮小傾向にあるが、一般的なスポーツと同様に、ゲームもeスポーツも、困難な時代に多くの人が感じているストレスからの逃避や娯楽の一形態として機能している。実際、ゲーマーたちがゲームをプレイし続け、視聴者たちがエンゲージし、友人たちがその文化に参加する限り、そのすべてがインプレッションと時間の消費につながる。不況であろうとなかろうと、このような注目はマーケターが飛びつく理由になる。
「平均的なeスポーツファンは、ライブイベントのためにバークレイズ・センターまで足を運ぶとは限らないし、それが業界の収益に反映されていると思う。この業界はそんなことに頼って生き残っているのではない」とリー氏は話す。「この業界は、スポンサー契約によって存続しており、それがなくなることはない」。
流れを変える
現代のeスポーツ業界は2008年以降に形成された。つまり、ほとんどのeスポーツ組織は真の不況に対処する必要がなかった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック初期の金融不況の時でさえ、在宅を余儀なくされた消費者がゲーム活動を活発化させたため、eスポーツの収益は急増した。「いま企業を運営しているのは、2010年代初頭にキャリアをスタートさせた世代で、良いことしか起きないと考えている人たちばかりだ」とドワリビ氏は言う。「資金は流れ続け、評価額は上がり続けると思っている」。
この不況を経験していないことが、不況の脅威が高まるなかで、多くのeスポーツ組織が目に見えて支出を削減しない理由のひとつかもしれない。しかし、初期の兆候はそこにある。投資家が成長を求めるなか、上場しているeスポーツ組織は、まずそのプレッシャーを感じるかもしれない。ギルド・Eスポーツ(Guild Esports)やエンスージアスト・ゲーミング(Enthusiast Gaming)などの上場企業はすでにレイオフを実施し、帳尻合わせのために不採算事業を整理し始めている。
経済に精通したeスポーツ組織が支出を削減し始めると、コンテンツ制作の予算が真っ先になくなる可能性がある。結局のところ、eスポーツそのものがすべてのコンテンツであり、組織が精巧に作り上げた高度なYouTubeドキュメンタリーの視聴数は、eスポーツストリームや個々のプレイヤーやインフルエンサーのライブストリームのような低レベルコンテンツの視聴数よりもはるかに少ない傾向がある。ライマー氏は、「基本的には、コンテンツを宣伝し、オーディエンスを獲得しながら、広告主を呼び込むということだ」と述べる。「ブランドやスポンサーが必ずしもついていないオリジナルコンテンツを制作する予算は、削減せざるを得ないと思う。我々の動画のなかで、すぐに戦闘機が飛び立つことはないだろう」。
若いオーディエンスに賭ける?
結局のところ、今後の景気後退期におけるeスポーツ業界の最大の利点は、eスポーツ企業自身がコントロールできるところから大きく外れたもの、つまりeスポーツの若いオーディエンスにあるかもしれない。平均的なeスポーツファンは26歳で、この層は住宅ローンや子供の学費などの出費にほとんど邪魔されない。
「18歳から35歳の年齢層については、まだ大きな責任に縛られているわけではなく、一方で雇用され給料をもらっている。この年齢層の消費行動に大きな変化が起こるとは思えない」とライマー氏は語った。
[原文:How recession-proof is the esports industry?]
Alexander Lee and Seb Joseph(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:黒田千聖)