人種間の不平等に関する意識が世界中で高まるなか、一部の広告主は、そうした問題へのよりデリケートな理解を深めるための方法を模索している。ペプシコ(PepsiCo)はその一社だ。同社は、人種的マイノリティの努力や闘争、およびその成果を利用して利益を得るという、既存の手法から脱しようと努めている。
広告業界でもっとも不愉快な真実のひとつは、広告に起用される黒人が増えているにも関わらず、彼らの文化から利益を得ているのは、もっぱら白人だということだろう。人種間の不平等に関する意識が世界中で高まるなか、一部の広告主は、そうした問題へのよりデリケートな理解を深めるための方法を模索している。
ペプシコ(PepsiCo)も人種問題と無縁ではない。同社はつい最近まで、人種的ステレオタイプに基づいて作られたブランド、アーント・ジェミナ(Aunt Jemima)を所有していた。しかしいま、ペプシコは人種的マイノリティ(とくに黒人とヒスパニック系)の努力や闘争、およびその成果を利用して利益を得るという既存の手法から、脱しようと努めている。
ペプシコが、今後5年間で1億7000万ドル(約176億円)を費やし、実現しようとしていることは3つある。1つ目はヒスパニック系の中間管理職の増員だ。2つ目はヒスパニック系の広告エージェンシーやパブリッシャーとのネットワーク構築。そして3つ目は、全米のヒスパニック系住民に高等教育へのアクセスを提供することだ。
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米DIGIDAYは、ペプシコの菓子ブランドであるフリトレー(Frito-Lay)で、北米地域マーケティング担当 シニアバイスプレジデントを務め、ヒスパニック系の消費者向け食品事業を統括しているマリッサ・ソリス氏にインタビューを実施。膨大な予算を投じたこの計画が、今後のマーケティングの取り組みにもたらす意味について話を聞いた。
以下のインタビューは、一部を編集、要約している。
――ヒスパニック系消費者に特化した事業部門を立ち上げた理由は?
我々は、長年ヒスパニック系の人々とのコミュニケーションを改善する取り組みを続けてきたが、状況が本当に好転したのは、2018年にヒスパニック系消費者に特化した事業部門を立ち上げたときだった。この部門は、マーケティング、販売、研究開発のためのクロスファンクショナルチームに、ヒスパニック系の幹部という形で構成されている。同組織を立ち上げた狙いは、ヒスパニック系のコミュニティとビジネスを構築することだ。そこには、彼らの文化に適したさまざまな製品を開発したり、彼らにリーチするための手法に、ちょっとした工夫を加えることを検討することも含まれる。
今日のカルチャーを見れば、その多くが黒人とヒスパニック系コミュニティの影響を受けていることがわかる。その影響力を、我々のブランドプログラムで世の中にアピールする方法を見つけたいと考えている。彼らのコミュニティはいま、かつてないほど支援を必要としている。彼らは、コロナ禍の観点でも、そもそもの社会的不公正の観点でも、多くのネガティブな影響を多く受けているからだ。
――マーケティング投資の観点では、人種問題にどう向き合っていく?
マーケティングの分野では、エージェンシー、制作会社、監督や俳優など、ヒスパニック系の企業や人々と連携して、本物のヒスパニックコミュニティに向けたコンテンツを作ろうとしている。また、メディアプランニングの分野では、メディア支出の多くをヒスパニック系のコミュニティ向けに投下することを考えている。スペイン語やスペイン語のメディアを利用するなど、彼らの文化に馴染む方法を模索していきたい。それは、人々と繋がるためのコンテンツはもちろん、それをいかに届けるかという点も重要だからだ。
また、ヒスパニック系のオーディエンスは、何もスペイン語のテレビ番組だけを見ているわけではない。モバイルやソーシャルメディアをいかに活用するかも、考える必要があるだろう。なお、最近ヒスパニック系消費者に向けたモバイルやソーシャルメディアマーケティング領域では、バイリンガルなコンテンツや、バイカルチュラル(2カ国の言語・習慣・道徳などを、その国の人と同レベルに身につけているさま)なコンテンツが用いられることが多く、実際に効果的な手段になりつつある。
――それを実現するために、エージェンシーにはどのような働きかけを?
エージェンシーに対しては、多様性のあるチームを作るよう求めるだけでなく、セールスピッチにおいても多様性を実現してもらうようリクエストしている。つまり、カメラの前にあるものを多様化するだけでなく、カメラの後ろにあるものも多様化するというわけだ。現段階で、我々がそこまで到達できているかどうかはわからない。しかし、これは関係性をより多様化するために、継続していかなければならないプロセスであり、当社のすべての主要なパートナーに適用している。
――この一連の取り組みは、企業全体の人種問題への理解を深めるうえでどう役立っている?
長いあいだ、我々のような大企業は市場をひとまとめに捉え、すべての消費者に関連性のあるコンテンツを、すべての消費者に届けるという考え方を持っていた。しかしいま、我々はターゲットとするさまざまなコミュニティ同士の、さらにはその内部における、微妙な差異を理解する方向にシフトしている。たとえば、米国には6000万人のヒスパニック系米国人が住んでいるが、彼らのなかにも多様性は存在する。
――個別に事業部門を立ち上げることで、逆にヒスパニック系の人々の文化的影響力を把握しないままに、彼らをセグメント化してしまうリスクはないか?
ここで重要になるのが組織の構造だ。ヒスパニック系部門を、ほかのチームと孤立させておくことはしない。彼らはブランドチーム全体に統合させる必要がある。たとえば、私はペプシコの食品部門ですべてのブランドを統括しているが、ヒスパニック系部門とも強いつながりを持っている。そして、彼らがインサイトを収集したら、そのインサイトを我々がブランドレベルで持っている消費者情報と照合し、データセット内で共通点を見つけ出す。我々は、対Z世代のオーディエンスと似た形で、ヒスパニックの文化に特有のインサイトを探ろうとしている。
SEB JOSEPH(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:村上莞)
Photo from Frito-Lay Facebook Page