Amazon だけの販売で、いかに D2C ブランドをつくるか?

多くのデジタルブランドはAmazonにアレルギーがある。だがなかには、両手を広げてそれを歓迎するブランドもある。

Amazon専用に製品を開発する企業が増えている。彼らは顧客獲得の望みをGoogleとFacebookに託すのをやめ、Amazonを全面支持しているのだ。この風潮を牽引するのが、イノベーションデパートメント(Innovation Department)である。同エージェンシーはこれまでに、自社のメディア資産とeメールデータを介して、Amazon専門のブランドをいくつも築き上げてきた。イノベーションデパートメントは、何百万件というメールアドレスを活用することで、トラフィックをAmazonで売られている自社製品へと送り込んできた。そしてそれらの商品は、Amazonの商品検索で首位をキープしてきた。

決めてはオーディエンス基盤

ニューヨークを拠点として活動するイノベーションデパートメントは、傘下に複数のビジネスを擁している。ひとつが、ブランドが共同で顧客のeメールデータを管理するためのソフトウェア、ドージョーモージョー(DojoMojo)。もうひとつが、食品やファッション、テクノロジーなど、幅広いトピックを扱うウイークリーニュースレターを発行するメディア企業、バリリアンメディア(Valyrian Media)だ。イノベーションデパートメントの創業者でCEOのアレックス・ソング氏は、同社のニュースレターは「スキム(The Skimm)」と似たタイプで、フリーランスライター25人を使って運営されていると述べる。これら2つのエンジンを活用することにより、同社はすでに150万人超の購読者からなるオーディエンス基盤を築いているという。

イノベーションデパートメントがAmazon特化型のプロダクトブランドを確立できたのも、これらの資産のおかげだと、ソング氏は述べる。同社は、ドージョーモージョー経由で配信する懸賞メールとニュースレター(バナー広告とテキスト内の商品リンクの両方)を使って、Amazonで販売している自社製品を宣伝している。

その目的は、AmazonのSEOに対応した「フライホイール(弾み車)」をつくることだ。商品に直接リンクされる人の数が増えれば、それら商品のランキングを上げる助けになることは間違いない。さらには、彼らが実際に購入してレビューを書けば、商品の注目度はいっそう高まる。ソング氏は、同氏をAmazonのブランドビルダーにしてくれた強力なメールリストを起点とするシステムを考え出した。「Amazonのアルゴリズムのしくみは、GoogleのSEOと同じようなものだ」とソング氏はいう。

Amazon検索の攻略法

イノベーションデパートメントはこれまでに、ウェルネス商品や栄養サプリメントを製造するさまざまなブランドをローンチしている。これらはどれも、不安や集中力の欠如などの問題の解決を助けると謳っている。 心身の問題を和らげるための漠然とした商品であるこれらは、その解決策を求める人々によって検索される可能性が高い。各商品は検索で上位に来るように仕立てられている。その名称には、不安や不眠などの普遍的な症状に加えて「ケト」や「コラーゲン」といったバズワードが含まれている。そのブランド戦略は、SEO対策を施して商品をクリックさせることだ。

たとえば、これらのブランドのひとつであるウェルパス(WellPath)の場合、「Calm(落ち着いた)」や「Focus(集中する)」「Performance(成果)」などの、幅広い解釈が可能な言葉を名称に盛り込んだ、さまざまなサプリメントを提供している。Amazonで「不安(anxiety)」を商品検索すると、有料広告に続いてトップに表示されるのは、ウェルパスのストレス軽減サプリ「ゼン(Zen)」だ。実際のAmazonの掲載は、潜在的なSEO素材の長々とした文字列(不安・ストレス軽減サプリメント、ゼン~アシュワガンダとL-テアニン、イワベンケイで、落ち着いたポジティブな気分をサポートする天然ハーブ配合~ベジタリアンカプセル60錠)」となる。

これは長期戦であり、すべてが計画どおりに運ばないかぎり、うまくはいかない。Amazonの商品検索で首位を獲得するには、何カ月にも及ぶコンテンツプロモーションが必要だ。ソング氏によれば、自社のメディア資産を使って新規の顧客を1人獲得するのにかかるコストは、10ドル(約1080円)だという。またイノベーションデパートメントは、ブランド認知度を高めるために、Amazonの検索プレースメント広告も購入している。しかし、ひとたび商品が首位を獲得すれば、獲得にかかったこのコストはゼロに縮小される。「この首位を獲得するために我々は戦っており、それには長い時間がかかる」と、ソング氏は語る。同氏によれば、どのブランドも、ある特定の商品の年間総売上が600万ドル(約6.4億円)を超えれば、その後、キャッシュフローは黒字化するという。

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イノベーションデパートメントは、大半のDNVB (Digitally Native Vertical Brand)とは正反対のものを体現しており、そう思われても不思議はない。同社はひとつの「北極星」にフォーカスするダイレクトブランドを築くのではなく、幅の広い散在的なアプローチをめざしているのだ。

AmazonベンダーのD2C

それでもソング氏は、自身が手がけるブランドはD2C(Direct to consumer:直販)であると考えている(同氏は「D2C」という表現を多用する)。ソング氏のブランドたちはプラットフォーム依存型であり、実質的には、起業家のあいだで人気の言語を駆使するAmazonベンダーであるにもかかわらずだ。

ブランドコンサルタンシーのデリス(Derris)創業者であるジェシー・デリス氏によれば、大半のDNVBにとって肝心なのは、顧客と独自のつながりを築くことだという。ワービーパーカー(Warby Parker)やアウェイ(Away)などの初期参入組は「斬新な顧客体験を人々に提供」していた。彼らは、簡単に見つかる一般化された商品ではなく、ユニークなものを提供したのだ。「それは、ほかよりも安い価格だったかもしれないし、優れた製品だったかもしれない。あるいは、人間らしさの加味だったかもしれない」と、デリス氏はいう。

だからこそ、D2Cという表現を用いるブランドの大半は、Amazonを全力で避ける。「Amazonでブランドを立ち上げることで失うのは、顧客体験だ」と、同氏はいう。

また、Amazonはプラットフォームであって、自らの利益を念頭に置いている。Amazonはすべてのベンダーから売上の15%をかすめとっているという事実が、何よりもそれを物語っている。それだけではない。Amazonがいまのやり方を何の前触れもなく急に変える可能性もあるのだ。「Amazonの仕事は、Amazonに利益を生むこと、Amazonの条件で顧客体験を提供することだ」と、デリス氏はいう。

とはいえ、Amazonもここ数年、全社を挙げてD2Cブランドの獲得に務めている。創業間もない企業の加速を支援するために、Amazonはさまざまなプログラムを用意している。一部報道によると、同社のプラットフォームで良い結果を出している企業との提携にも大乗り気だという。ソング氏の話では、Amazonは同氏とのミーティングを繰り返しており、イノベーションデパートメントの商品も推奨してくれているという。「Amazonは、もっと多くのブランドがAmazonで成功してほしいと思っている」と同氏は語る。「それをないがしろにするようになれば、そのときは自身の長期ビジョン・目標に反することになる」。

「コンテンツ戦略が重要」

ソング氏は、ブランドが持つメディアの側面を紡ぎ出す新しい方法を見つけたと確信している。「最低限必要なのは、コンテンツ戦略を持つことだ」と、ソング氏は語る。「Amazonへのこのトラフィックを自分の思い通りにできる方法を見つけようと努力すること。それが唯一の違いだ」。

これはまさに、速く拡大して大金を稼ぐためのプランだ。そしてそのあとは、次の新しいブランドへの移行だ。「Amazonのオーガニックトラフィックは非常に手頃なので、あっという間にキャッシュフローを黒字化できる」と、ソング氏は話す。そのおかげで「その利益を使って新しいブランドを加速」できるという。

これは、生涯顧客の獲得を目標とする、ひとつの代表的なブランドにフォーカスする他社とは対照的だ。そうしたブランドのほとんどは「D2C煉獄」から抜け出せないでいると、ソング氏は述べる。このようなVCブランドは、収益性ではなく規模を重視しすぎているため、適切な出口を整えていないという。「こうしたブランドは、持続性をめざすのではなく、資金集めとスケールアップに夢中になっている。だから、誰も買おうとしない」と、ソング氏は語る。

リスクに見合う価値

イノベーションデパートメントが発売する商品とソング氏には、低コストの顧客獲得と急加速が功を奏した。だが、この戦略は必ずしも万人向けではない。ほかのほとんどのプラットフォームと同じように、Amazonとの取引では、ブランドは主導権を手渡すことになる。また、もしAmazonから退去を命じられた場合に、どう対応するのかも頭のなかで計算しておかなければならない。

「オンライン上に立ち上げられるブランドの多くは、ほんのわずかな利ざやで取引を行っている」と、デリス氏は語る。Amazonの場合、さまざまなことが維持不能になりやすいのだという。「Amazonが引けるレバーは数え切れないほどある」と、同氏は付け加える。しかし、ソング氏にとっては、そのリスクにはそれに見合う価値があるのだ。

Cale Guthrie Weissman (原文 / 訳:ガリレオ)