ファッション業界のリテールの従業員やプロダクトデザイナーなど、特に顧客との関係性を重視するような職種では在宅勤務が難しい。だが、ニーマン・マーカスでは、フレキシブルな働き方を可能にするプログラムやアプリを導入。リテール会社としては異例のリモートワークを推進している。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
働き方を選べるアプリの開発
過去2年間でリモートワークにシフトしたことで変化が起き、ファッション界の多くはそれに対処してきた。リモートワークで働く人の大多数は、企業の従業員だ。だがリテールの従業員やプロダクトデザイナーなど、在宅勤務が難しい業種もある。特に、裕福な顧客と長く良好な関係を築くことで売上を立てる、デパートの販売員にとっては困難だ。
だがリテール会社は、このような従業員でさえもリモートワークが可能になるよう支援できる。全米で数百名もの販売員を擁するニーマン・マーカス(Neiman Marcus)は、「コネクト(Connect)」というプログラムを立ち上げた。テキストやeメール、電話などを含むさまざまなやりとりを記録できるアプリで、顧客に製品をお薦めしたり、商品の外観を送ったり、予約を入れることもできる。
Advertisement
同社で人事とビロンギング(帰属意識)の最高責任者を務めるエリック・セバーソン氏によると、このプロジェクトはパンデミック以前から必要とされていたという。
「2019年に社内の人事戦略のアセスメントを実施し、販売員のフレキシブルな働き方は最優先事項のトップ3に入るものだった」。
ほぼ同時期に、同社はフレキシブルな働き方のポリシー「NMGウェイ(NMG Way)」を制定した。製品やデザインに関する会議などに参加が必須な場合を除いて、従業員はリモートワークかオフィスでの作業かを選ぶことができる。
リテールでも可能となったリモートワーク
パンデミックが始まったころ、ニーマン・マーカスは同様のフレキシビリティをリテールの従業員にも提供するために、コネクトに取り組むようになった。自宅にいながらクライアンテリング(優良顧客管理)の仕事をできるこのプログラムは、もともと2020年8月のローンチを予定していた。だが、パンデミックによって店舗が休業になり、販売員は自宅に籠もらざるを得なくなった。彼らが顧客と連絡をとり、働き続けられるよう、4月に前倒しとなったのだ。
「(顧客との)関係を継続することが、非常に重要だった」とセバーソン氏は振り返る。
店舗が再開した現在も、販売員はコネクトアプリを使い、自宅からクライアンテリングを行って売り上げのコミッションを獲得することができる。ニーマン・マーカス側に追加費用は発生せず、生産性にも売り上げにも損失がないという。
コネクトの使用は販売員にとって必須ではないが、全員がトレーニングを受けている。セバーソン氏によると、従業員のあいだでコネクトはすっかり普及したと言ってよく、ポジティブなフィードバックが寄せられる。2020年のローンチ移行、コネクトを介したトランザクションは500万件を超えた。
従業員がリモートで効率よく働ける環境づくりは、投資の元が取れるとセバーソン氏は語る。採用にかかる期間は2019年と比較して32%短縮し、ニーマン・マーカスでは3年前よりも平均で22日短い期間で人材を採用している。このあいだ、離職率も20%下がった。入社を希望する人々や新入社員はフレキシブルな働き方に魅力を感じており、同社にはさまざまな地域で有能な人材が多く集まるという。2021年には新規に1,200名を雇用し、その40%近くが同社の本拠地ダラス・フォートワース以外からの人々だった。
「Googleのようなテック企業並みのフレキシビリティ」
リテール業界の多くではこの反対の傾向にあることを考慮すると、非常に注目に値するとセバーソン氏は述べる。ほかの企業では採用に苦労しており、2021年6月の全米の求人件数は1,000万人を超えた。人材不足に苦しむのは企業が賃金、フレキシブルな働き方、労働環境での譲歩を渋ることに起因している。
NMGウェイの発想の原点は、セバーソン氏が2000~2015年まで在籍していたギャップ(Gap)で人事に携わった経験にある。セバーソン氏やほかのマネジメント層は2010年ごろ、今回と同様のフレキシブルワークのポリシーを制定。同氏が去ったあとも、このポリシーは継続していた。
他社が直面しているような人材不足の問題を回避するために従業員に投資し、フレキシビリティを高めるという施策はいままさに注目を集めている。下着ブランド「ニックス(Knix)」の共同創業者兼CEOであるジョアンナ・グリフィス氏は、あらゆる企業は自社の従業員について考え始めるべきだと話す。
「人々はもう古い働き方を望んでいない」と同氏。ニックスのコーポレートチームは少なくとも来年の間は、リモートを主軸とした働き方を続けるという。「当社には多くのステークホルダーがいて、私たちのチームもその中の一つだ。今日オフィスに来る人は、オフィスに来たいから来た人。もし対面でなくてはならない仕事が特にないならば、自宅で働くことができる」。
ニーマン・マーカスやセールスフォース(Salesforce)などが導入するフレキシビリティは従業員の50~90%が在宅での勤務を期待するという、リテール業界では異例のものであり、むしろGoogleのようなテック企業並みだというのがセバーソン氏の見方だ。
「これはリテール業界で大きな議題となるだろう」とセバーソン氏。「分散型でフレキシブルな新しい働き方と、あらゆることを一カ所で行い、そのために全員がその場に行かなくてはならないという中央集権的なアプローチ。どちらが成功するのか、いずれ明らかにだろう」。
[原文:How Neiman Marcus increased hiring and lowered turnover during a labor shortage]
DANNY PARISI(翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)