NASCAR(全米自動車競争協会)はeスポーツエンタテインメント持株会社サブネイション(Subnation)と手を組み、より深いエンゲージメントをファンに促す、確固たるデジタル体験の提供を計画している。それにより人気モータースポーツブランド「NASCAR」のメタバースにおけるブランドの確立を目指しているという。
NASCAR(ナスカー:全米自動車競争協会)はeスポーツエンタテインメント持株会社サブネイション(Subnation)と手を組み、より深いエンゲージメントをファンに促す、確固たるデジタル体験の提供を計画している。それによって、人気モータースポーツブランド「NASCAR」のメタバースにおけるブランドの確立を目指しているという。
この提携は2021年前半に結ばれたもので、きっかけはNASCARのSVP兼CDOティム・クラーク氏とサブネイションのチーフマネージングディレクター、ダグ・スコット氏によるNFT(非代替性トークン)に関する話し合いだった。そのなかで、両社ともに真のメタバースへの敷石とも言われる未来の分散型ネットワーク、Web3.0に関心を抱いていることがわかり、そこから話が規模、構想ともに急速に膨らみ、今回の合意に至った。
フィジカルとバーチャルの融合
両社は今後、既存のメタバースプラットフォームと特注する独自の新バーチャルスペースの両輪での展開を考えている。いまは「メタバースにおけるNASCARの立ち位置をどうするのか、メタバースにどう馴染ませ、融合していくべきか」を検討していると、スコット氏は語り、ロブロックス(Roblox)のような、いわゆる壁に囲まれた、閉ざされた世界に行き着く可能性もあると、言い添える。その場合「メタバース内に留まることになり、両環境を跨いでのアセット利用は難しくなる」。
Advertisement
こうした相互運用性の欠如はNASCARが克服すべき課題であり、それを踏まえ、同社のメタバース戦略はフィジカルとバーチャルの融合を中心に据えている。たとえば、クラーク氏いわく、NASCARのNFTについては、ファンがレースのチケットや席のアップグレードといった現実世界における利益と交換可能なものにすることも考えているという。「つまり、バーチャル世界をこのフィジカル世界に縫い付けるようなもので、そうすれば両界間の出入りが可能になる」。このようなアセットの収集および共有を可能にするべく、今回の提携ではNASCAR自身が営む独自のバーチャルスペースも構築していくという。
ほかの構想にはたとえば、デイトナ・インターナショナル・スピードウェイ(Daytona International Speedway)におけるAR(拡張現実)スペースやバーチャル観戦パーティなどが発表されている。「NASCARは間違いなく、ディセントラランド(Decentraland)やサンドボックス(Sandbox)のような存在になるだろう」とスコット氏は語る。
大がかりな計画だが、NASCARとサブネイションはいずれも、メタバースの発展具合を見ながらの、長期的展開を良しとしている。「我々が2021年後半に行なったのは正しい方向への第一歩であり、まずはそれを2022年に向けて改良していく」とクラーク氏。「この道程に関しては、途中に正式なチェックポイントのようなものがあるとは思わない――ゴールはむしろこのスペースにおける漸次的改善であり、スペース自体の進化にあわせて、こちらも柔軟に動ける、調整の利くものにしていく」。
今回の提携ではまず、NASCARの既存デジタルエコシステムに取り組んでいく。これには、同社がNFTを初導入した競馬ゲームゼッド・ラン(Zed Run)との提携や、シミュレーションプラットフォームであるアイレーシング(iRacing)とのコラボも含まれる。アイレーシングはNASCARのバーチャルレーシングリーグの準備拠点であるだけでなく、自身もバーチャルスペースであるため、NASCARはそこで新たなレースコースの形成やテストも行なえる。「バーチャル世界ではどんなものが生きることになるのか、そしてそれは現実世界に引き戻せるのか、時間をかけて見定めていきたい」とクラーク氏は語る。
オープンな姿勢で臨んでいく
同時進行でするべきことがあまりにも多いため、NASCARとサブネイションはロードマップをきっちりと設定するのではなく、オープンな姿勢でバーチャルスペースに臨んでいくという。現在のプロトメタバースは無数の亀裂が入った分断状態であり、自らもバーチャル世界を構築していくNASCARにとって、この柔軟な戦略は当然の選択とも言える。「いま現在、メタバース界のコミュニティはどこも壁に囲まれた、閉ざされた世界だ」と、メタバース開発スタジオであるメロン(MELON)のプレジデント、ジョシュ・ノイマン氏は指摘する。「そしてブランド勢には、そのすべてを股にかける戦略を、あるいは少なくとも、自身にとって重要な所を同定し、それぞれにもっともオーガニックな形でエンゲージできる術を見つける必要がある」。
クラーク氏は今回の提携について、NASCARにはメタバースと現実世界との別に関わらず、オーディエンスとブランドパートナーを互いに疎外することなく、固く結びつける能力があり、その点に関する不安は今後も一切ないと断言する。「お気に入りのドライバーが乗っている車の横にブランドのロゴが付いていれば、それを目にしたファンに、そのブランドがそのチームとドライバーの勝利を後押ししており、相応の投資がなされていることがはっきりと伝わる」と氏は語る。「私が思うに、物やサービスのデジタルおよびバーチャルな所有も、いわゆるアセット的な諸々もすべて、すでにNASCARのなかに存在している。つまり、我々はそれをWeb3.0の世界に拡大しようとしているだけだと考えている」。
[原文:How NASCAR is getting in on the race to develop a brand identity for the metaverse]
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU