人は誰しも、折に触れて人生の意味を追求したくなる。文化人類学者たちが創業したモーティヴベース(MotivBase)は、インターネット上の消費者の言動をくまなく調べ、その裏に潜む民族誌学的な意味を追求している。
人は誰しも、折に触れて人生の意味を追求したくなる。文化人類学者たちが創業したモーティヴベース(MotivBase)は、インターネット上の消費者の言動をくまなく調べ、その裏に潜む民族誌学的な意味を追求している。そしてこの取り組みを通じて、新商品の開発やマーケティング施策の立案など、企業の事業計画の策定を支援している。
モーティヴベースの共同創業者で最高経営責任者(CEO)、ウジワル・アーカルグード氏と、プレジデントを務めるジェイソン・パートリッジ氏は、2015年、3カ月分の貯金をはたいてモーティヴベースを立ち上げた。ふたりではじめた事業は、いまや数人の非常勤を含め、最大50人を雇用するまでに成長した。創業当時、わずか5社だったクライアントも、6年間で135社以上に増えた。顧客名簿には、消費財大手のクロロックス(The Clorox Co.)、菓子メーカー大手のマースリグレー(Mars Wrigley)、外食大手のマクドナルド(McDonald’s)ら、世界有数の大企業が名を連ねる。
「基本的に、インターネット上のフォーラムやブログなどで、一般に公開されているデータを収集し、自然言語処理を用いて分析している」とアーカルグード氏は説明する。「しかし我々は、消費者が行う発言の一言一句に関心があるわけではない。その点では、ビッグデータを扱うほかのどの企業とも一線を画する。我々が興味を持っているのは、その背景にある意味だ。顧客ともよく話すのだが、意味づけの研究をはじめたのは我々ではない。我々はただ、現代のテクノロジーとツールを応用しているだけだ」。
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アーカルグード氏の説明によると、モーティヴベースは一般公開されている情報のみを活用するため、ユーザー個人の同意は必要なく、よってGDPR(一般データ保護規則)に違反しないという。また、言葉や発言は個人を識別できる情報から切り離して保存されるため、プライバシーに関するその他の懸念も回避できるとしている。
「我々は生きた消費者文化のモデリングに成功した」とアーカルグード氏は話す。「我々のセールスポイントはこのモデルに対するアクセスだ。もちろん、それを理解するための専門的な知識や技術へのアクセスも含まれる」。
クライアントは大手企業中心
モーティヴベースが直接仕事をするのは、主に大企業のイノベーションや戦略を担当する部門だが、アーカルグード氏によると、最近ではマーケティング部門が参加することもあるという。「イノベーションを推進したり企業戦略を立てるのには、次の四半期以降を展望する必要がある」と同氏は説明する。「1年後、2年後、4年後、あるいは6年後、我々のビジネスはどうなっているだろうか。どんな企業もこの問いに答える必要がある」。
マースリグレーで、消費者の知覚や感覚を扱う部門のグローバル責任者を務めるリサ・サクソン・リード氏は、モーティヴベースの専門性をこう評価する。「商品開発を目的とした消費者の行動観察や聞き取り調査、いわゆるエスノグラフィックリサーチにかけては、我々の取り組みよりも数段上手だ。AI(人工知能)とエスノグラフィーを組み合わせ、破壊的イノベーションや画期的イノベーションを起こすという彼らの提案は非常に興味深い」。対面での調査を基本とするエスノグラフィックリサーチは、当然、時間もコストもかかる。リード氏によると、これに代わりうる手段として、モーティヴベースの採用を決めたという。
モーティヴベースの知見獲得の速さと規模を高く評価したリード氏は、ペットフード、食品、マーケティングを含む社内のほかの部門にも、アーカルグード氏を引き合わせた。「商品開発に大いに役立った。特に、消費者のニーズや、新製品に必要な特徴を理解するのに有効だ」とリード氏。「調査の内容は、商品の成分や具体的な効能に関することかもしれないし、あれができる、これができるといった、もっと大まかな機能性に関するケースもある」。
マースリグレーは先日、ゲーミングデバイスを販売するレイザー(Razer)と共同で、集中力アップを謳う、ゲーマー向けのチューインガム、リスポーン(Respawn)を開発した。モーティヴベースと手を組む以前は、ゲーマーから直接話を聞いていた。しかし、モーティヴベースを活用すれば、対面の聞き取り調査に要する時間の「ほんの何分の一かの時間」で、同程度の感情や感想を検証できることが分かったという。
「この概念実証を通じて、モーティヴベースの価値を確信した」と、リード氏は述べている。
物事を「深く」考えるようになった企業たち
コロナ禍は、モーティヴベースのビジネスに良くも悪くもさしたる影響を与えなかった。その反面、アーカルグード氏によると、昨今の米国の政治的分断を背景に、企業が物事の意味をより深く探るようになったという。「いまや意味づけは、重要な論点として認識されている」と同氏は指摘する。
「以前は『人々は何について話しているか?』と訊かれたが、いま企業が我々に問うのは『それを話すことで、彼らは何を意図しているのか?』ということだ。我々の仕事は、消費者の意見や感想の裏にある意味を探り、企業の理解を助けることだ」。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)