- MLBはワールドシリーズ向けに新戦略を展開。「クリエイター・クラス」プログラムで12人のインフルエンサーと提携し、多様なファン層へアピールした。
- とくに地域に根ざしたインフルエンサー活用やクリエイターの発想を重視したコンテンツ制作に注力し、視聴者体験の拡充。ファンコミュニティを盛り上げた。
- さらにTikTokへの注力で若年層へアプローチし、選手の人間味にフォーカスしたユーモア溢れるコンテンツの発信など、試合内容だけではない視点にもフォーカスした。
10月27日に開幕し、テキサス・レンジャーズの初優勝で幕を閉じたメジャーリーグベースボール(MLB)のワールドシリーズ。この優勝決定戦に向けてMLBは、コンテンツ戦略の方向転換をしていた。とりわけフォーカスしたのが、多様化およびインフルエンサーとの提携だ。
「より幅広い、より多様なオーディエンスとのエンゲージを狙い、MLBは新たなコンテンツ領域に進出すると同時に、従来の野球ファン以外にもアピールするべく、ソーシャルメディアインフルエンサーとのコラボに努めている」と、同リーグのCMOであるカリン・ティンポーン氏は話す。また、「MLB内では、このインフルエンサープログラムをクリエイター・クラス(Creator Class)と呼んでいる。同プログラムでは、多数のオーディエンスと熱心なフォロワーを誇るさまざまなインフルエンサーとコラボ関係を築いていく」と同氏は話し、「プログラムの意図は、彼らに各々のストーリーやファンダム体験を既存のファンベースと共有させることにある」と付け加える。
MLBは以前にも、各地で開かれたさまざまなシーズン開幕イベントでインフルエンサーと提携しており、その手法をワールドシリーズにも適用した。たとえば、試合開催地に馴染みのあるインフルエンサーと組み、同地域における彼らのリーチ力およびネットワークを活用するのも、そのひとつだ。今回のワールドシリーズ戦略では、ファッションからテクノロジー、ゲーミング、トラベルに至る多様な業界から有力な、そしてMLBファンでもある12人のインフルエンサーを活用。またこれは2024年、より広範囲での開催が予定されているシリーズを見据えた試みでもあった。
インフルエンサーの目で見るワールドシリーズ
特定のインフルエンサーにはさらに、フリーバッティング体験や試合前の球場整備の見学など、得がたい機会も提供した。それらを通じ、ワールドシリーズ全体の空気感やフランチャイズに関する、ファンコミュニティに向けたコンテンツ創造を促すのが狙いだ。
「我々がホスト役となり、彼らと膝を突き合わせて、最新のストーリー展開について話し合っている」とティンポーン氏は言う。「彼らのクリエイティブな解釈を大いに尊重したい。というのも、彼らこそが各々のファンベースとの繋がりの鍵を握る存在であり、そこはMLBにとって非常に重要だからだ」。
ティンポーン氏いわく、ブランドアイデンティティ感を伝えることも重要であり、それには、年間162試合に及ぶレギュラーシーズンの予測可能な要素と、ポストシーズン、特にワールドシリーズの予測不能な要素の両方が含まれるという。予測不能性とは、どのチームがワールドシリーズに進出するのか、そしてチャンピオンシップはどこで開催されるのか、の2点であり、インフルエンサーにはコンテンツ戦略を練る際、サプライズ感と期待感を膨らませる要素の活用を期待しているという。
「クリエイティブなかたちで手を組み、彼らのストーリーを積極的に聞いていきたい。つまり、こちらの主導で『これこれをやろう』というようにはしない」とティンポーン氏は言い、「むしろ、そこには何がふさわしいのか、どんなストーリーをミックスに加えたらいいのかを共に見い出すかたちに近い」と、クリエイター側の発想を重視するという。
TikTok用コンテンツの開発
MLBはまた、インフルエンサー戦略の精緻化に加え、ワールドシリーズに向けてコンテンツ戦略の明確化にも注力している。Z世代や若年層オーディエンスにフォーカスし、試合のハイライトという従来の手法を、TikTokオーディエンスに響く魅惑的なものに変容したいと考えているからだ。
Xやインスタグラム、YouTubeといったプラットフォームは依然として活用しながらも、今回のワールドシリーズ戦略は、ショートフォームの、エンゲージ力の高いコンテンツの提供を中心に展開する。MLBのプロダクトおよびコンテンツ戦略部門SVPグレッグ・クレイマン氏は、Z世代の注意持続時間が短い点を踏まえ、TikTokといったソーシャルプラットフォームに適したコンテンツ創造の重要性を強調する。[続きを読む]
- MLBはワールドシリーズ向けに新戦略を展開。「クリエイター・クラス」プログラムで12人のインフルエンサーと提携し、多様なファン層へアピールした。
- とくに地域に根ざしたインフルエンサー活用やクリエイターの発想を重視したコンテンツ制作に注力し、視聴者体験の拡充。ファンコミュニティを盛り上げた。
- さらにTikTokへの注力で若年層へアプローチし、選手の人間味にフォーカスしたユーモア溢れるコンテンツの発信など、試合内容だけではない視点にもフォーカスした。
10月27日に開幕し、テキサス・レンジャーズの初優勝で幕を閉じたメジャーリーグベースボール(MLB)のワールドシリーズ。この優勝決定戦に向けてMLBは、コンテンツ戦略の方向転換をしていた。とりわけフォーカスしたのが、多様化およびインフルエンサーとの提携だ。
「より幅広い、より多様なオーディエンスとのエンゲージを狙い、MLBは新たなコンテンツ領域に進出すると同時に、従来の野球ファン以外にもアピールするべく、ソーシャルメディアインフルエンサーとのコラボに努めている」と、同リーグのCMOであるカリン・ティンポーン氏は話す。また、「MLB内では、このインフルエンサープログラムをクリエイター・クラス(Creator Class)と呼んでいる。同プログラムでは、多数のオーディエンスと熱心なフォロワーを誇るさまざまなインフルエンサーとコラボ関係を築いていく」と同氏は話し、「プログラムの意図は、彼らに各々のストーリーやファンダム体験を既存のファンベースと共有させることにある」と付け加える。
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MLBは以前にも、各地で開かれたさまざまなシーズン開幕イベントでインフルエンサーと提携しており、その手法をワールドシリーズにも適用した。たとえば、試合開催地に馴染みのあるインフルエンサーと組み、同地域における彼らのリーチ力およびネットワークを活用するのも、そのひとつだ。今回のワールドシリーズ戦略では、ファッションからテクノロジー、ゲーミング、トラベルに至る多様な業界から有力な、そしてMLBファンでもある12人のインフルエンサーを活用。またこれは2024年、より広範囲での開催が予定されているシリーズを見据えた試みでもあった。
インフルエンサーの目で見るワールドシリーズ
特定のインフルエンサーにはさらに、フリーバッティング体験や試合前の球場整備の見学など、得がたい機会も提供した。それらを通じ、ワールドシリーズ全体の空気感やフランチャイズに関する、ファンコミュニティに向けたコンテンツ創造を促すのが狙いだ。
「我々がホスト役となり、彼らと膝を突き合わせて、最新のストーリー展開について話し合っている」とティンポーン氏は言う。「彼らのクリエイティブな解釈を大いに尊重したい。というのも、彼らこそが各々のファンベースとの繋がりの鍵を握る存在であり、そこはMLBにとって非常に重要だからだ」。
ティンポーン氏いわく、ブランドアイデンティティ感を伝えることも重要であり、それには、年間162試合に及ぶレギュラーシーズンの予測可能な要素と、ポストシーズン、特にワールドシリーズの予測不能な要素の両方が含まれるという。予測不能性とは、どのチームがワールドシリーズに進出するのか、そしてチャンピオンシップはどこで開催されるのか、の2点であり、インフルエンサーにはコンテンツ戦略を練る際、サプライズ感と期待感を膨らませる要素の活用を期待しているという。
「クリエイティブなかたちで手を組み、彼らのストーリーを積極的に聞いていきたい。つまり、こちらの主導で『これこれをやろう』というようにはしない」とティンポーン氏は言い、「むしろ、そこには何がふさわしいのか、どんなストーリーをミックスに加えたらいいのかを共に見い出すかたちに近い」と、クリエイター側の発想を重視するという。
TikTok用コンテンツの開発
MLBはまた、インフルエンサー戦略の精緻化に加え、ワールドシリーズに向けてコンテンツ戦略の明確化にも注力している。Z世代や若年層オーディエンスにフォーカスし、試合のハイライトという従来の手法を、TikTokオーディエンスに響く魅惑的なものに変容したいと考えているからだ。
Xやインスタグラム、YouTubeといったプラットフォームは依然として活用しながらも、今回のワールドシリーズ戦略は、ショートフォームの、エンゲージ力の高いコンテンツの提供を中心に展開する。MLBのプロダクトおよびコンテンツ戦略部門SVPグレッグ・クレイマン氏は、Z世代の注意持続時間が短い点を踏まえ、TikTokといったソーシャルプラットフォームに適したコンテンツ創造の重要性を強調する。
「もっとも重要な側面は、私は常々強調しているのだが、ファンを試合によりいっそう近づけるための努力だ。そのためには、試合展開を伝えるストーリー作りや、単に試合のハイライトを集めるといった従来の手法を超える必要がある」とグレイマン氏は言い、「我々の主要な目標はそうした見どころとなる場面のインパクトを高め、それが起きた瞬間、観ている人たちに自分もその場にいる気にさせることにある」と続ける。
また、若年層の目を効果的に捉えて関心を引き続けるために、TikTokがよりコンパクトなコンテンツを要求するなか、「TVやYouTubeを想定したロングフォームコンテンツを避けることも重要だ」と、クレイマン氏は強調する。
クレイマン氏は最近の例として、NLDS(ナショナルリーグディビジョンシリーズ)第3戦でアトランタ・ブレーブスに対してフィリーズのブライス・ハーパー氏が放ったホームランの見せ方を挙げる。MLBは従来の中継手法に囚われず、さまざまなアングルからこのシーンを捉え、ファンによりイマーシブな体験を提供した。
「TVのアングルはもちろん素晴らしいが、我々は得点や結果に留まらず、試合に関するあらゆるアングルにフォーカスするよう常に努めている」と同氏は話し、「試合のハイライトを見せる従来の手法はTikTokオーディエンスが求めているものではない」と言い添える。
選手も人間だ、というストーリーテーリング
ワールドシリーズに向けたこの新戦略ではまた、ファンエクスペリエンスをユーモラスな要素を添えて高めることも目指しており、さまざまなグラフィックやチームマスコットとの交流なども導入する。さらに、ファンのリアルタイムな反応も捉え、従来の中継ではあまり見られなかった瞬間/場面も見せていく。
それらに加え、MLB選手の球場以外での生活に光を当てる、オーガニックなヒューマンインタレストコンテンツも積極的に採り入れるという。2022年、試合後の記者会見に娘を同席させたニューヨーク・メッツのフランシスコ・リンドーア氏はその好例だと、クレイマン氏は話し、「ロサンゼルス・ドジャースのムーキー・ベッツ氏のボウリング熱も然りだ」と付け加える。
「その選手がどういう人なのか、大まかな感じを掴んでもらいたい」とクレイマン氏は説明し、「彼らは成績や数字を積み重ねるだけの男たちではない。あくまでも人間だ。このストーリーテリングこそが2024年の戦略の、そしてあらゆるソーシャルプラットフォームで反響があり、さらにはできれば我々の中継やパートナーたちにも効果のあるコンテンツ作りの重要な鍵となる」と語った。
若年層を取り込むために必要なこと
MLBが広告予算の内、どの程度をこうした試みに割いているかは、ティンポーン氏が具体的な数字を明かさなかったため、定かでない。ビビックス(Vivvix)によれば、パスマティックス(Pathmatics)のペイドソーシャルデータも含めると、MLBは2023年度これまでに600万ドル強(約9億円強)を広告に費やしており、それにはペイドシーシャルメディア、ラジオ広告、リニアおよびコネクテッドTV、デジタルOOHが含まれる。
「米国を代表するアイコン的スポーツリーグのひとつとして、MLBは若年層、とりわけZ世代の嗜好(しこう)と注意持続時間の変化に適合しなければならない」と、マーケティングコレクティブのメタフォース(Metaforce)の共同創業者/マネージングパートナーであるアラン・アダムソン氏は指摘する。
「ワールドシリーズが盛り上がるのか、退屈なものになるのかは、MLBにはどうにもできないが、選手やチームに関するストーリーを、とりわけソーシャルメディアで盛り上げようと努めることはできる。だからこそ彼らの戦略は試す価値がある」と、アダムソン氏は話した。
Julian Cannon(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)