動画コマース アプリNtwrkが3月下旬に開催した小売イベントは、5000万回の再生回数を記録した。ユーザー数は220万人でそのほとんどがZ世代だ。ポップショップやトークショップライブ、ワットノット、ショップショップス、スーパーグレートと並び、成長株のライブストリーミングショッピングアプリのひとつでもある。
QVCの黄金時代を経て、新しい形のショッピング放送が視聴者を獲得している。
NTWRKが3月下旬の週末に開催した小売イベントは、5000万回の再生回数を記録した。NTWRKは、DJセットやNBAの大物選手であるデニス・ロッドマンをゲストに迎え、ストリートウェアのセールを盛り上げた。
NTWRKのユーザー数は220万人で、そのほとんどがZ世代だ。ポップショップライブ(Popshop Live)や、トークショップライブ(Talkshoplive)、ワットノット(Whatnot)、ショップショップス(ShopShops)、スーパーグレート(Supergreat)と並び、成長株のライブストリーミングショッピングアプリのひとつでもある。ユーザー登録をすると、販売業者やインフルエンサーが主催するライブ放送を見ることができる。放送中、視聴者は購入ボタンをタップすることで、販売されている商品(ときには司会者が着ている服も)を購入することができる。また、リアルタイムで質問をしたり、フィードバックを残したりすることも可能だ。
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2年後は250億ドル規模に
小売業者やハイテク企業は、何年も前から、オンラインで買い物をする人たちにリーチする手段として、ライブ動画を利用しようとしてきた。しかし、パンデミックによるロックダウンが、このフォーマットに新たな息吹を与えた。リーバイス(Levi’s)やトミーヒルフィガー(Tommy Hilfilger)は昨年、自社のウェブサイトでセールや新コレクションの発表を行った。さらに最近では、ベンチャーキャピタルやセレブリティたちが、次のヒット商品を求めてこの分野に参入したこともあり、多数のライブ動画コマースの新興企業が潤沢な資金を手にしている。
投資家や専門家たちは、これらのサービスが、小売やテック系、メディアのもっともホットなトレンドを利用していると考えている。つまり、物理的な商取引からデジタルな商取引への移行、オンライン動画のケタ外れの成長、そしてコンテンツクリエイターの新たな名声などである。同時に、ライブストリームを利用したeコマースのスタートアップ企業は、エンゲージメントや購入数の増加を謳っており、このフォーマットを受け入れる人が増えていることを示している。
米国商務省の発表によると、2020年のオンラインショッピングの売上高は、2019年比32.4%増の7917億ドル(約87兆円)に達した。米国の全売上高に占めるeコマースの割合は、2019年の11%から上昇し、昨年末には14%となった。
アジアではすでに当たり前になっているライブストリームショッピング市場は、今年で60億ドル(約6600億円)、2023年で250億ドル(約2兆7600億円)に達すると、コアサイト・リサーチ(Coresight Research)は予測している。ソーシャルメディアでは、Facebook、TikTok、Google傘下のYouTubeが、動画の再生回数が数億回に達するコンテンツクリエイターを収益化するもうひとつの手段として、eコマースやアフィリエイトマーケティングを導入している。こうしたプラットフォームは、自分たちの枠組みのなかでの取引を維持するため、動画内にショッピング可能な広告を取り入れている。
ライブ動画ならではの楽しみ方がある
QVCとサザビーのオークションを掛け合わせたようなアプリのワットノットは、出品者が自らインフルエンサーになっているという。このアプリは、ベンチャーキャピタルファンドのほか、NFLのディアンドレ・ホプキンス選手やボビー・ワグナー選手などの個人投資家から、これまでに7540万ドル(約83億円)を調達した。Ntwrkと同様、このアプリのユーザーは、ポケモンカードやデザイナーズトイといったコレクターズアイテムの購入を検討するような、健全な可処分所得を得ている若年層が多い。人気のスポーツカテゴリーでは、NFLやNBAのトレーディングカードが販売されており、価格はパックで40ドル(約4400円)のものから、ルーキーカード入りで600ドル(約6万6000円)以上のものまである。
同社は、ワットノットの動画について、商品と同じくらい大きな魅力を持っていると強調する。同社の共同設立者兼CEOであるグラント・ラフォンテイン氏は、「たとえ何も買わなくても、ユーザーはお気に入りの出品者を見るためにオークションを見たり、コミュニティでのチャットを楽しんだりしている」という。同社は具体的な数字を公表していないものの、過去1年間で売上高が200倍になったことを明らかにしている。
ソーシャルメディア専門家のアレッサンドロ・ボリオリ氏は、個人の販売者にとって、入場料の安さが大きなインセンティブになっていると主張する。ザ・インフエンサー・マーケティング・ファクトリー(The Influencer Marketing Factory)の共同設立者兼CEOでもあるボリオリ氏は、「ライブ動画を使えば、店舗で発生する固定費を回避しながら、記念品やスニーカーの販売で数千ドル(数十万円)を稼ぐことができる」と話している。
伸びしろに期待がかかる米国市場
一方、投資家たちはドルの動きに目を光らせている。
ベンチャーキャピタルのユニオン・スクエア・ベンチャーズ(Union Square Ventures)でマネージングパートナー務めるレベッカ・ケイデン氏は、世界的なライブ動画コマースアプリのショップショップスに投資している。ケイデン氏は、「この分野には、巨大かつ独立した上場企業を作る十分すぎるほどのチャンスがあると思う」という。ショップショップスは最近、中国から米国への事業拡大の一環として、シリーズBで1500万ドル(約16億円)の資金を調達した。また、ショップショップスは、マルニ(Marni)やセオリー(Theory)、ザディグ エ ヴォルテール(Zadig & Voltaire)など、750以上のブランドの動画配信を担当している。
ケイデン氏によると、ショップショップスのような新興企業は、eコマース業界のなかでも未開拓の市場に挑んでいるという。つまり、ショッピングを手段としてではなく、1日を締めくくる体験として考える消費者をターゲットにしているということだ。同氏はライブ動画の体験を、土曜日にショッピングモールで過ごすようなものだと説明する。
KPMGとアリリサーチ(AliResearch)によると、中国では昨年、動画ベースのショッピングが1620億ドル(約18兆円)の売り上げを記録したと推定されている。このような消費動向が、ライブストリームによる小売イベントを現象化させているといえる。それとは対照的に、ライブ動画コマースがまだ始まったばかりの米国市場は、eコマースの大海に浮かぶ小さな一滴に過ぎないのだ。
リテイラーたちも参戦
専用アプリのほかにも、デジタルおよび実店舗の小売業者は、ライブ動画との統合で成功を収めている。ウォルマート(Walmart)は12月、買収を試みたものの頓挫した人気の短編動画アプリ、TikTokでライブストリームの配信を開始した。
人気クリエイターのギャビー・モリソン氏がホストを務めた2回目のライブイベント「スプリング・ショップ-アロング:ビューティ・エディション(Spring Shop-Along: Beauty Edition)」で、ウォルマートのTikTokはフォロワー数が86%増加し、現在は84万6000人に達している。ウォルマートはこの結果を受け、今年中にさらに多くのイベントを計画しているという。
ファッション専門のECサイトを提供するベリショップ(Verishop)は、ソーシャルコマースアプリにライブ動画を追加してから7カ月後、「インフルエンサーのためのパイプライン」を構築。共同創業者兼CEOイムラン・カーン氏は、これにより、ベリショップはアプリの機能を拡大し、インフルエンサーは売上に対して10%のコミッションを受け取ることができると話す。最近では、ファッション誌の「エル(Elle)」をライブ動画のパートナーとして迎えた。
ベリショップ内でのユーザーの平均滞在時間は、ライブ動画のアップデート後に50%増加し、ストリームのコンバージョン率は全体の4倍に達している。カーン氏はライブ動画について、「ベリショップが得意とする独立系ブランドを、買い物客が発見するための手段」と見ている。スナップインク(Snap Inc.)でCSOを務めていたカーン氏は、「ベリショップは、ユーザー数や売上高を公表していないが、そのベースは80%が女性で、若年層に偏っている」と明かした。また、「このフォーマットは独立したサービスではなく、統合した方がうまく機能する」という。
実店舗での体験に近い感覚
こうした統合をよりスムーズに行おうとしている企業がある。ストックホルムを拠点に、ライブ動画コマースのソフトウエアを提供するバンブッシャー(Bambuser)は、小売業者やブランドのために2800以上のライブストリームを配信している。同社のパートナーには、アディダス(Adidas)や、アルド(ALDO)、クリニーク(Clinique)、サムスン(Samsung)、トミーヒルフィガー、ユニクロ(Uniqlo)などが名を連ねる。バンブッシャーによると、ライブ動画の平均視聴時間は13分47秒で、カートへの追加クリック率は平均で14%だという。
2019年秋にライブ動画をサービスとして開始して以来、同社は1億ドル(約110億円)の資金を獲得した。この上場企業最大の株主は、デンマークの小売業の億万長者アンダース・ホルヒ・ポヴルセン氏で、彼は通販サイトのエイソス(Asos)やザランド(Zalando)の株式も保有している。
静的なeコマースサイトとは対照的に、バンブッシャーのチーフコマーシャルオフィサーであるソフィー・エイブラハムソン氏は、ライブストリームショッピングを「店舗での体験に似ている」と表現している。
[原文:How livestream shopping marketplaces are trying to become mainstream]
Anna Hensel(翻訳・編集:戸田美子)