急伸するリセール(再販)市場に、老舗ブランドが参入の道を模索している。とりわけ、中古品販売が活況な高級ハンドバッグやアウトドア用品ブランドを中心に、独自のリセール市場を構築しようという動きが見られる。たとえば、ヤードル(Yerdle)というスタートアップは、ブランドの再販事業を支援するサービスを立ち上げている。
急伸するリセール(再販)市場に、老舗ブランドが参入の道を模索している。
とりわけ、中古品販売が活況を呈する高価なハンドバッグやアウトドア用品のブランドを中心に、独自のリセール市場を構築しようという動きが見られる。たとえば、ヤードル(Yerdle)というスタートアップが9月末、ベンチャーキャピタルから2000万ドル(約21億円)の資金を調達したと発表した。同社はブランドの再販事業を支援するホワイトラベル(B2Bという意味合い)のサービスを立ち上げ、すでにREI、アイリーンフィッシャー(Eileen Fisher)、パタゴニア(Patagonia)などのブランドが、このサービスを活用している。さらに、高価なハンドバッグを販売するマーククロス(Mark Cross)も7月に、年内に独自の再販プラットフォームを立ち上げる計画であると発表した。
これとは別に、まずは個人間の取引を支援するピアツーピア(P2P)マーケットプレイスと連携して、市場の動向を把握しようとするブランドもある。このようなマーケットプレイスも収益増に拍車をかけたい思惑があり、大手小売業者との提携は、その最善の方法と見ている。スニーカーの転売市場を運営するStockXの新CEOスコット・カトラー氏は、ブランドの「プロダクトIPO」をもっと開催したい意向を表明している。ナイキ(Nike)やアディダス(Adidas)のようなメーカーは「プロダクトIPO」を通じて新商品を数量限定で販売し、その売れ行きを見ることができる。さらに、中古衣料の再販サイトであるスレッドアップ(ThredUp)も先ごろ、メイシーズ(Macy’s)およびジェーシーペニー(J.C. Penney)との提携を発表した。両社の店舗内にスレッドアップブランドの店舗を出店し、スレッドアップの在庫から商品を販売するという。
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再販市場が盛り上がる背景
特に高額商品を扱う小売業者のなかには、自分たちの扱う商品には手が届かない顧客に、再販という手法で訴求しよう事業者がいる。その一方で、P2Pマーケットプレイスが勢いを増すに伴い、一部の老舗ブランドは、自分たちのウェブサイトや店舗よりも、先にこの手のサイトに向かう消費者が増えるのではないかと危惧するところもある。逆に、このようなマーケットプレイスと連携することにより、自分たちの既存顧客が実際にはどの程度、リユースの商品に興味を持っているのか低コストで調べることができると見る向きもある。同様の力学はレンタル市場でも働いている。
スレッドアップが委託した調査によると、中古衣料品市場は向こう5年間で240億ドル(約2.6兆円)から510億ドル(約5.5兆円)へと倍増する見通しだ。
ジェーン・ハリ&アソシエーツ(Jane Hali & Associates)で小売業界を担当するリサーチアナリストを務めるジェシカ・ラミレス氏によると、高級品に限らず、アウトドア用品やデニムなど、「本来的に長命で耐久性の高い」製品を扱う小売事業者は、再販にもっとも向いているのだという。
ヤードルの再販プログラム
ヤードルの創業者、アンディ・ルーベン氏は、もとはウォルマートでeコマースのグローバル戦略担当のバイスプレジデントを務めていた。氏によると、ヤードルは2012年の創業当初はP2Pマーケットプレイスを目指していたという。しかし、ルーベン氏の関心がブランドに向くようになり、2016年、消費者向けの再販事業からホワイトラベルのサービス構築へと事業転換した。
長い目で見れば、P2Pの中古品よりブランドが再販する商品を買いたいと思う消費者が増えると、ルーベン氏は見ている。その方が信頼性の高い、良質な商品を手に入れられると考えるようになるからだ。
「ブランドは商品がどこにあるかすべて知っているため、サードパーティのマーケットプレイスより、仕入れの面でも有利である」と、ルーベン氏は言う。
ヤードルにはブランドが再販プログラムを通じて得た売上の一部が支払われる。ヤードルの取り分は利用するサービスの内容によって決まる。たとえば、ヤードルは店舗やオンラインで販売した商品に保証を付けたり、ブランドの再販専用サイトの運営を代行したりしている。さらに、オンラインや店舗で再販する商品の販促写真に関しても、既存のカタログから流用するブランドもあれば、オリジナルの撮影を希望するブランドもある。
ヤードルは同社が運営する再販プログラムの収益について、詳しい数字を開示していないが、パタゴニア、REI、アイリーンフィッシャーの再販事業は、2017年から2018年にかけて、全体で対前年比360%の成長を遂げている。さらに、条件にもよるが、氏名、電子メールアドレス、住所など、顧客データはすべてブランド側に開示される点も、ヤードルのセールスポイントとなっている。
ほかに、P2Pマーケットプレイスとの連携が理に適っていると考えられるのが、顧客の足がどのみちこのようなマーケットプレイスに向きつつある場合だ。StockXがブランドに訴えるのもこの点だ。今月、ニューヨークで開催されたeコマース関連のカンファレンスで、カトラー氏は言っている。「スニーカーの転売市場はすでにビッグビジネスで、この取引に参加する顧客は、ブランドを通り越して、中古スニーカーのマーケットプレイスに直行する」。カトラー氏によると、StockXは「ビッグブランド3社」と、今後数カ月のうちに、人気アイテムを数量・期間限定で販売する特別企画を実施することで合意した。具体的なブランド名ついてはまだ明かせないという。
再販事業は宣伝が重要に
一方、ジェーシーペニー(J.C. Penney)やメイシーズ(Macy’s)など、苦境に立つ百貨店は、再販商品をテコに客の来店頻度を増やすという新たな可能性を模索している。百貨店に出店しているリセールショップの品揃えは、百貨店本来の季節商品よりも回転が速いため、このようなショップに集客効果を期待したものだ。
スレッドアップで特別企画を統括するレベッカ・オマーン氏が編集部宛のメールで説明したところによると、同社はブランド向けのサービスとして「ロイヤルティ促進のためのリサイクルプログラム」を運営し、また、自社の製品を中古販売したい小売業者のためには「百貨店内の店舗経営」を代行できるという。
とはいえ、リセールは金のかかる事業だ。6月に株式公開したザ・リアルリアル(The RealReal)は昨年、2億700万ドル(約224.9億円)の収益に対して7600万ドル(約82.5億円)の損失を出した。
再販プログラムを運営するには、商品の調達や物流のみならず、顧客獲得にも資金を投じる必要がある。「ブランドが運営する再販事業では、商品の売り手はたいてい既存の顧客だが」と、ヤードルのルーベン氏は指摘する。「買い手はそのブランドを知らない可能性が高く、場合によっては、ソーシャル広告などのマーケティング活動を通じて顧客化する必要がある」。
カスタマーの維持か喪失か
オンラインの再販市場はまだ始まったばかりだが、ルーベン氏は当然ながら強く主張する。「ブランドは再販市場の競争に対してどう自衛すべきか、いまから考えておく必要がある」
そして、ルーベン氏はこう続けた。「ブランドはこの分野で勝利する権利がある。顧客を維持したいのか、失いたいのか。そう問われているのはブランドだ」。
Anna Hensel(原文 / 訳:英じゅんこ)