その歴史の大半を通じて、JCペニー(JCPenney)はeコマースの雄だった。カタログをいち早くオンライン化した百貨店であり、当時これを実践する競合はまだ少なかった。そのJCペニーがこのほど、破産を申請した。ここ10年にわたるJCペニーの苦境は、同社が消費者の需要を読めていないことの表れだ。
その歴史の大半を通じて、JCペニー(JCPenney)はeコマースの雄だった。カタログをいち早くオンライン化した百貨店であり、当時これを実践する競合はまだ少なかった。2006年にはオンライン売上が10億ドル(約1070億円)を突破し、eコマースに挑戦する従来型小売店としてさらなるマイルストーンを打ち立てた。
そのJCペニーがこのほど、破産を申請した。現在の社会情勢も理由の一端であり、それが以前からゆっくりと進行していた死を加速させ、時期を早めた側面はある。そしてJCペニーがデジタルチャネルを維持できなかったことは、むろん同社に限った問題でもない。
しかし、ここ10年にわたるJCペニーの苦境は、同社が消費者の需要を読めていないことの表れだ。まだトレンドを見極められる段階でなかったとはいえ、変わりゆく小売業の情勢を同社はうまく活用することができなかった。結果として、JCペニーは経営トップを次々と入れ替え、いく度も戦略を見直し、それがことごとく現在の状況につながっていった。
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直近の四半期決算における同社の売上高は34億ドル(約3664億円)と、前年同期から8%減少している。eコマース単独での売り上げはすでに公表していない。一方で、負債額は40億ドル(約4310億円)にのぼる。
eコマース草創期のパイオニア
JCペニーは1994年、カタログの派生という形でオンライン販売に乗り出した。オンラインで充実した品揃えを展開する企業は当時まだめずらしかった。同社のウェブサイトは基本的に実店舗から独立しており、商品のラインナップもチームも店舗とは異なっていた。しかし2007年に、当時のCEOだったマイロン・ウルマン氏は、両事業の統一感を高めようと、オンライン部門を実店舗に統合した。
「思うに、実店舗部門へ適当に組み込まれたのではないか」と、小売専門コンサルタントのスティーブ・デニス氏は語る。「そしてオンライン事業を引き継いだ実店舗の販売担当者たちは、D2C(Direct-to-consumer)のビジネスに特有の要件をあまり理解していなかった」。
2014年のロイター(Reuters)の記事によると、統合のあと、ベビー家具や大きいサイズの紳士服など、オンラインで人気だったが実店舗では取り扱っていなかった商品が、デジタルの商品ラインナップから削除された。JCペニーの2006年のデータによると、同社のeコマース事業は1994~2006年にかけて30~50%の成長率を示している。ところが、2006年に売り上げが10億ドルを超えると成長は止まり、2007~2011年はeコマース事業の売り上げが年間15億ドル(約1615億円)前後で推移した。
2011年末、ターゲット(Target)とAppleでキャリアを積んできたロン・ジョンソン氏がCEOとしてウルマン氏のあとを継ぎ、ブランドの再生を任されることになった。ジョンソン氏はJCペニーを安売り店から高級路線に生まれ変わらせようと試みたが、同氏の采配は失敗だったというのが大方の評価だ。CEOとなったジョンソン氏は、eコマース事業への注力を減らし、実店舗により重点を置いた。その結果、2012年のオンライン売上は32%落ち込んだ。
2013年にジョンソン氏はCEOの座を退き、ウルマン氏が復帰して社の立て直しを図った。ウルマン氏は再びオンライン販売に力を入れ、おかげで売り上げはまた増えはじめた。それでも2013年のeコマース売上はJCペニーの売り上げ全体の8%にとどまり、2003年の15%から大きく比率を減らしていた。
のしかかる在庫
こうしたさまざまな試みも、企業全体の再生にはつながらなかった。「JCペニーは何年ものあいだ、いく度も刷新を試みてきた」と、eコマースのコンサルタント会社であるeテーリンググループ(e-tailing Group)のプレジデント、ローレン・フリードマン氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダン・リテール(Modern Retail)に宛てた電子メールで述べている。「オムニチャネル化の態勢は十分に整っていたが、単純にやり方が十分でなかった。顧客を刺激する商品ラインナップを用意できず、ディスカウントモデルは古臭く、百貨店業界全体が下降線をたどりはじめるよりずっと前から事業が傾きはじめていた」。
あらゆるものを少しずつ揃えておくというのが、JCペニーの商品ラインナップ戦略だったようだ。この戦略は、特に新型コロナウイルスの影響で在庫の動きが少ないいま、コストを圧迫する問題となっている。また同社はトレンドを読むことにも失敗している。「おそらく彼らの最大のネックは女性向け商品だ」と、ジェーン・ハリ&アソシエイツ(Jane Hali & Associates)のリサーチアナリストであるジェシカ・ラミレス氏は4月、モダン・リテールに対して述べている。
一貫性のない戦略
以上のことから見えてくるのは、生まれ変わりに失敗した古いブランドの姿だ。この20年間、JCペニーは次々と新たな経営トップを連れてきて、その誰もが自分には事業再生の秘策があると請け合った。2011年にCEOに就任したジョンソン氏は、いまもデジタル事業を順調に伸ばしているターゲットの出身だ。しかし、2年と続かなかった同氏の采配は大失敗だったというのが大方の評価だ。
現CEOのジル・ソルタウ氏は、改革を掲げて2018年に就任した。2019年11月、ソルタウ氏は投資家たちに対し、JCペニーは「これまでと違うものを提供しなければならない」と述べ、次のような新たな店舗モデルを提示した。「当社のブランド代表店とは、当社の顧客戦略をあますところなく表現したものだ。そこは顧客からのフィードバックで得た学びを活用し、同時に顧客の嗜好や購買行動を観察できる店舗になる」。
この新たな店舗モデルや戦略の見直しは、いまだ日の目をみていない。それどころか同社のeコマース戦略と同様に、JCペニーは新たな需要を読むことができず、後手後手の対応に回っているように見える。停滞しているJCペニーのような百貨店は「これといった特効薬も見つからず、ただ実行面が改善し、コストが削減されるのを期待するばかりだ」と、フォレスター(Forrester)のプリンシパル・アナリストであるスチャリタ・コダリ氏は、2019年12月にモダン・リテールに語っている。
デニス氏は、現在のJCペニーのウェブサイトは決して悪い出来ではないと評価する。「ただ、ウェブサイトに十分なトラフィックを集められていない。十分な数の顧客を集めることを彼らが最優先していないからだ」。すなわち同社は、それが競争上の利点であるうちにデジタル事業を伸ばすことができなかったわけだが、そこからさらに大きな問題が浮かび上がる。JCペニーそのものが、顧客の視点に立って自らを改革できていないという問題だ。シミラーウェブ(SimilarWeb)のデータによると、JCペニーのオンライントラフィックは、4月は月間2600万ビュー弱、ホリデーシーズンには6500万ビューを記録した。これに対し、メイシーズ(Macy’s)は4月に5700万ビュー、12月には1億6550万ビューを達成している。
目下、JCペニーの先行きは不透明だ。同社は年内に200店舗を閉鎖し、来年さらに50店舗を閉鎖する計画を打ち出している。コストカットをさらに進めつつ、新たなブランドイメージを模索するための計画だと思われる。破産を発表するプレスリリースのなかで同社は、小売担当チームが「フラッグシップであるeコマースプラットフォームの大幅な改善を行って効率を向上させ、強化されたショッピング体験を通じて、当社の忠実な顧客が引き続き必要な商品にアクセスできるよう取り組んでいる」と述べている。同社は「Plan For Renewal」(再生計画)という戦略のもとで、「粗利益率を改善し、在庫を減らし、非効率な出費をなくし、魅力的で刺激のあるショッピング体験をデザインする」ことに注力しているとアピールしている。
しかし、eコマースを伸ばすだけでは、もはや同社を救うことはできない。「最大の問題は、顧客に適合しているかどうかだ」とデニス氏は語った。「その点で彼らは大きなヘマをした」。
Cale Guthrie Weissman(原文 / 訳:ガリレオ)