マージンなし取引と隠れた手数料が業界ではびこるなか、保険会社のダイレクトライングループ(Direct Line Group:以下DLG)が思いもよらぬことをやっている。クライアントとの協力でお互いが満足できるよう、メディアコムがDLGの保険ブランドにもたらしている長期的な価値が、評価に反映されやすいようににした。
マージンなしの取引と隠れた手数料が業界ではびこるなか、保険会社のダイレクトライングループ(Direct Line Group:以下DLG)が思いもよらぬことをやってのけた。メディアエージェンシーと協力し、お互いが満足できる支払いモデルを編み出したのだ。
イギリスに本拠を置くDLGは、2012年にスコットランドロイヤル銀行(Royal Bank of Scotland:RBS)から独立して以来、メディアコム(Mediacom)と提携し、手数料に加えてメディアバイイングの実績に基づくボーナスをメディアコムに支払っていた。だが2016年、両社は新たな契約を結ぶべく、時間をかけて議論を重ねた。メディアコムがDLGの保険ブランドにもたらしている長期的な価値が、もっと反映されやすいようにした。
「メディアコムは数年前に専属代理店としてて提案獲得に成功したが、契約内容は変わらないままだった」と、DLGでブランドおよびコマーシャルマーケティング担当ディレクターを務めるサム・テイラー氏はいう。「我々はメディアコムのおかげでコストを最適化できたが、その結果メディアコムへのコミッションが減ってしまった。そのような状況は我々の目ざすところではなかった」。
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適切な関係構築が第一歩
クライアントとエージェンシーの関係は緊張状態にあるため、椅子取りゲームのような状況が起きている。2016年には、エージェンシーによるメディアピッチの数が16%増加したとアールスリー(R3)は発表している。テイラー氏によれば、不信感が高まっている要因は、ブランドが契約ベースでの関係作りを急ぎすることであり、その逆ではないという。
「トランスペアレンシー(透明性)とビューアビリティ(可視性)が話題になるのは、広告主がエージェンシーと適切な関係を築けていないために生まれている副作用だ」とテイラー氏はいう。「誰かがサプライチェーンについて不満を漏らしはじめたら、私はこう尋ねる。『では、あなたは彼らに対して十分な対価を支払っているのか』と。これは悪循環なのだ」。
このような状況に気づいたDLGは、社内の関係者を説得し、3カ月間のトライアルを実施。そして、すべてを変えることができた。現在、メディアコムへの支払いは3つの分野に分けて行われている。戦略プランニング、バイイング、そしてその効果である。
パフォーマンスベースの仕組み
メディアバイイングは、以前と同じくコミッションベースのままだ。だが、戦略プランニングは、DLGが計算する「サービスベース」の月別スコアに基づいて評価されるようになった。キャンペーンが効果的に実施されれば、メディアコムにボーナスが支払われる。また、メディアコムが目標を上回る成果を上げた場合に支払われる、いわゆる特別ボーナスもある。
だがDLGは、メディアコムへの支払額の一部を自分たちの市場におけるパフォーマンスと関連付けながら、(ほかのパフォーマンスベースの契約にはみられない)制限を設けている。たとえば、保険市場が10%落ち込んだ場合、DLGの期待値も10%下げられるのだ。しかし、メディアコムがすべての目標を達成したらどうなるだろうか。DLGはその点を考慮した。理論的に支払い可能な最高額に合わせるために、上級幹部が承認限度額を調整できるようにしたのだ。しかも彼らは、そのような状況が起こることを期待している。
「彼らがボーナスと手数料を100%獲得したら、私は文字通り大喜びするだろう」と、テイラー氏は語る。
両社の企業文化の変化も感じられる。DLGは現在、「大騒ぎの水曜日(noisy Wednesdays)」と呼ばれる日を設けている。この日は、ロンドン郊外のブロムリーにある本社に、メディアコムの担当チーム全員が座れる席を設け、彼らを迎えて一緒に仕事をしている。両社は、以前より密接に仕事をすることで、お互いをますます理解できるようになっている。テイラー氏は、拡大するトレーディングを管理するために新しいスタッフを雇った。いまではDLGのチーム全員が、メディアコムにそれぞれの担当者を抱えている。
英業界のフレームワークに
DLGは、英国広告主協会(ISBA)が3月9日(現地時間)に開いた年次会議で、この新しい提携関係がもたらした成果を報告(内容は、同社が2016年に2桁の成長を遂げながらコストを削減し、さらにIPA Effectiveness Awardを獲得したというものだ)。以降、テイラー氏は2社の広告主からその成果を羨む声を受けたという。他社にはない手段を同氏が活用できるようになったからだ。一方、メディアコムはこの提携のおかげで資金が増えたため、リアルタイムのメディアプランニングなどに予算をつぎ込めるようになったという。
「私はコスト削減の対価として予算を支払ったのではない。我々の提携に対する彼らのコミットメントに対して支払ったのだ」と、テイラー氏は述べる。「『あなた方がコストを削減しているからという理由でお金を払うことはない』と話している。私が求めているのは価値だ」。
メディアコムとDLGはどちらも、契約書は青写真ではないと強調。だがテイラー氏は、ほかの広告主が自分たちの例にならい、ISBAが51ページの契約書テンプレートを作成した意図を考えるようになることを期待している。そのテンプレートとは、いわゆる「重大な透明性の問題」に対処するために作成されたものだ。ISBAが先ごろ明らかにしたところによると、メンバー企業のうち少なくとも20社が、イギリスのメディアエージェンシーと(合わせて33兆ユーロ超に相当する)契約の交渉を行うときに、ISBAのフレームワークを何らかの形で利用したというものだ。
「重要なことは、そのフレームワークを指針にすべきだということだ。ただし、その指針について、バイイング担当者がエージェンシーを頭越しに激しく非難することがないように、あらかじめその指針について話をしておく必要がある」とテイラー氏は語った。
GRACE CAFFYN(原文 / 訳:ガリレオ)