初期の D2C と エージェンシー 、協働はあり得るのか?:「ハマれば、価値は莫大だ」

アサフ・ワンド氏、イヤル・ナボン氏、アビアド・ピンコベスキー氏は、住宅保険スタートアップのヒッポ(Hippo)の役員を務めている。デジタルエージェンシーのワーク・アンド・コー(Work&Co)創設パートナーのモハン・ラマスワミー氏がはじめてこの3人に出会ったのは3年前で、当時ヒッポはまだローンチされていなかった。

3人はオンラインスタートアップとして市場に参入し、カスタマーを獲得するための技術ソリューションの支援を求めていた。ラマスワミー氏は彼らのプロジェクトは実現可能と考えた。ヒッポが当時目指していたのが、従来の保険企業とは異なるカスタマー獲得プラットフォームの構築だ。

これはリスクの高い賭けだった。当時のヒッポはまだシードラウンドの投資を受けたばかりで、カスタマーはひとりもいなかった。これは同社にとって市場に送り出す最初の商品だったのだ。手数料とエクイティの両方を支払う形で、ヒッポはワーク・アンド・コーの全面協力のもと1分で保険見積もりが完了するUIを作り上げた。

駆け出しのブランドはしばしばエージェンシーにアウトソーシングするのを嫌う。これは自社ですべてをまかなうことでコストカットでき、さらにブランドの本質も保てると考える創設者が多いためだ。ヒッポの場合、外部のエージェンシーと提携するためには両サイドの後押しが不可欠だった。ヒッポの側は、初期段階のD2Cは完全にインハウスでブランディングすべきだという考え方を捨てる必要があった。ワーク・アンド・コーは、資金繰りに苦労しているスタートアップの回収できるか不透明なエクイティで提携するというリスクを選択した。

ヒッポは7月に1000万ドル(約10億5000万円)の資金調達を行い、その時価総額は10億ドル(約1050億円)を突破した。

「体験を導入したかった」

ワーク・アンド・コーは、ヒッポの専門分野は成長の余地が大きいと見定めたのだ。ワーク・アンド・コーは数カ月かけて、新規カスタマーを獲得するためのシームレスなカスタマーインターフェイスを構築した。ヒッポのバックエンドはさまざまなデータソースにつながっており、見積もりプロセスの高速化に寄与している。ヒッポは簡単かつ分かりやすい見積もりプロセスを潜在顧客に示す必要があった。両社は協力し、ユーザーが数個の質問に答えるだけで即座に正確な保険額の見積もりを提示するプラットフォームを作り上げた。

ラマスワミー氏は、それまでの保険見積もりは時間がかかり、退屈で大変な作業だったと指摘する。オンラインで何十という質問に回答する必要があり、その後さらに担当者から電話がかかってくる。そして電話でまた同じ質問が繰り返される場合も少なくない。ヒッポは最初の商品でこれとまったく異なる体験を提供しようとしており、だからこそ創設者は経験豊富なデザイナーの力を借りたいと考えたのだ。

ヒッポの最高商品責任者を務めるアビアド・ピンコベスキー氏は「当社は考えうる限り最高のカスタマー体験を作り上げるという目標をかかげている」と語る。このインターフェイスは、カスタマーが最初にヒッポとやりとりする機会であり、同社全体のイメージを決定づける。

「大企業の場合、異なる視点を求めてエージェンシーを活用する」と、ピンコベスキー氏は語る。「当社の場合はそうではなく、(ワーク・アンド・コーの)体験を導入したかった」。ヒッポはブランディングにおいて不足していた人材を埋めるため、ワーク・アンド・コーが必要だと考えた。

不足を補い、課題を見つける

最初のプロジェクトにおいて、通常のエージェンシー業務よりもずっと細やかなワークフローが導入された。ワーク・アンド・コーはヒッポの創設者らに対して毎日進捗を共有した。ヒッポにとって、エージェンシーとスタートアップの提携は「十分に立証された」モデルだったとピンコベスキー氏は語る。

そこからヒッポはワーク・アンド・コーと通常とは異なる商品開発システムを組み上げた。カスタマー獲得プロジェクトに続き、ラマスワミー氏のチームはヒッポのモバイルデバイスにおける請求プロセスのデザインを担当している。その後、ワーク・アンド・コーはさらにヒッポの全体的なリブランディングでも支援を行った。そしてヒッポは成長を遂げた。同社のCEOで共同創設者のアサフ・ワンド氏はフォーチュン(Fortune)に対し、「1億5000万ドル(約158億円)以上の保険料」契約を獲得したと語っている。

ピンコベスキー氏は、ワーク・アンド・コーとの初期における提携はヒッポの将来的な目標設定において不可欠だったと振り返る。「非常に優秀な人材の力を借りられる優れた方法だった」と同氏は指摘し、次のように述べている。「ライフサイクルの初期段階にあるスタートアップが、あのような優秀な人材の力を借りるのは極めて難しい」。ピンコベスキー氏の指摘通り、ワーク・アンド・コーと提携することでヒッポはインハウスでは実現できなかったベテランチームの力を借りることができた。「ラマスワミー氏のチームは良い意味で当社に足りなかった部分を補い、課題を突きつけてくれた」と同氏は語る。

チームの延長のような形

逆に、ワーク・アンド・コーの要求もより高いものへと進化している。ラマスワミー氏のチームは最初はデザインに欠けた部分を補っていた。ヒッポの当時の社員はクリエイティブの専門知識がなく、まとまりに欠けていた。現在同社はインハウスのデザインチームを雇用しており、デザイン担当リーダーがチームを率いている。ピンコベスキー氏も初期の提携時とは「少し異なるモデルとなっている」と語る。ワーク・アンド・コーは「ヒッポのチームの延長のような」形で「取り組んでいる重要なプロジェクトに新たな視点をもたらしてくれる」という。

ピンコベスキー氏は「エージェンシーのなかには、こうした業務は時間効率が悪いと考える企業も多い」と指摘し、次のように述べている。「だが、うまくハマれば、生み出される価値は莫大だ」。

Cale Guthrie Weissman(原文 / 訳:SI Japan)