ビジュアル中心の口コミ効果、DM機能、コマース機能を相乗的に活用できるプラットフォームは、インスタグラム以外にないと、デジタルネイティブのアパレルブランド、アライバルズ(The Arrivals)の創業者、ジェフ・ジョンソン氏は感じている。インスタグラムブランドの登場は、インスタグラムモールへの道を開いた。
デジタルネイティブのアパレルブランド、アライバルズ(The Arrivals)は、6月に開催された世界的なLGBTのイベント「プライド月間」に向けて、絞り染めのトレーナーを限定発売した。このとき、アライバルズはインスタグラム(Instagram)で商品の無料配布を告知し、フォロワーに「コメントを投稿してこの商品を当てよう」と呼びかけた。結果、3000件を超えるコメントが集まり、これをきっかけに、同社はインスタグラム限定の商品販売を本格的に考えはじめた。そしてそれは8月に実現した。
この絞り染めコレクションの商品を購入するにあたり、顧客はインスタグラムのダイレクトメッセージ(DM)を用いて、サイズ、希望するスタイル、電子メールアドレスを提供するよう求められた。50点の商品からなるこのコレクションはものの15分で完売した。アライバルズの創業者、ジェフ・ジョンソン氏によると、見栄えの良いランディングページを設ける気は端からなかったという。インスタグラムを通じて今回のコレクションから何か買ってもらうのに、従来通りの経路で購入させる必要はないはずだ。「インスタグラムの新しい使い方にふさわしい、新しい買い物の方法を実験したかった」と、ジョンソン氏は言う。ユーザーの注目は、すでに1日限りで消えてしまうストーリーズ(Stories)へと移っていた。しかも、このストーリーズは、メインのフィードに比べて本来的に垢抜けない。「インスタグラムのフィードでも」と、氏は続ける。「完成されすぎた投稿には倦怠感を感じる。特に、顧客が隅々まで手入れの行き届いたブランドのフィードに期待するような投稿はなおさらだ」。
インスタグラムモールへの道
「我々は考えた」と、ジョンソン氏は振り返る。「インスタグラムにあってよい最小限の形式とはどのようなものだろう? インスタグラムでのコミュニケーションには形式が不在だ。そして、自分だけが体験できることがあるなら、それはソーシャルカレンシーになることだ。自分はそれを知っていたとか、自分は誰よりも先にアクセスできたとか。限定版を謳うことは簡単だが、では本当のところ、いったい何がそれを『スペシャル』にしているのだろうか。いまどきの顧客はそれを探り当てることができる」。
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インスタグラムのダイレクトメッセージ(DM)は、ジョンソン氏によると、大量のメッセージにカスタマーサービスが対応しきれず、商品完売後もスタッフが数時間に渡って処理に追われるなど、プロセス上の不備はあったものの、顧客はこれを通じてカスタマーサービスと個別にチャットすることができた。アライバルズはオンライン販売のほか、期間限定で出店するいわゆるポップアップストアを運営しているが、恒久的な店舗は持っていない。それでも、個人とやりとりできる、しかもトランザクションの過程で消失するダイレクトメッセージのようなフォーマットが利用できたことで、顧客に一定水準のサービスを提供することができた(もっとも今回のケースでは、限定期間中に無料配布の商品を入手できた50名に限られた話だが)。
ビジュアル中心の口コミ効果、ダイレクトメッセージ機能、コマース機能を相乗的に活用できるプラットフォームなど、インスタグラムをおいてほかにないとジョンソン氏は感じている。
インスタグラムブランドの登場は、インスタグラムモールへの道を開いた。
売上を伸ばすための最適解
アライバルズはインスタグラムでの商品展開にダイレクトメッセージを活用したが、インスタグラムはブランドマーケティングやインフルエンサーのリンクを推進するなど、自社のプラットフォーム上にeコマースを囲い込むことに注力してきた。ストーリーズ機能で利用される製品スタンプのようなツール、「発見タブ」へのショッピングチャンネルの追加、投稿内の商品タグを用いたアプリ内決済など、さまざまな取り組みを通じて、インスタグラムは既存顧客と潜在顧客の注目を集め、売上を伸ばすための最適なプラットフォームという位置づけを確立しつつある。
ブランド、特にファッションブランドは、これらの機能を活用して新規の顧客を獲得してきた。FacebookやGoogleではその競争もコストも大きくなるばかりだが、インスタグラムには、ユーザーがブランドやインフルエンサーの投稿した商品画像を両者の分け隔てなくスクロールし、コメントを交換し、どこで買えるか質問する場という生来のポジショニングがあり、このポジショニングのおかげでインスタグラムはオンライン上のショッピングモールへと進化した。
スプリング(Spring)やオーチャードマイル(Orchard Mile)などのオンラインマーケットプレイスは従来の百貨店になぞらえ、できるだけ多くの店やブランドから商品をかき集めることにより、従来のショッピングモール体験をオンライン上に再現しようとした。彼らとは異なり、インスタグラムはユーザー自身のキュレーションだ。フィードやストーリーズやインフルエンサーの投稿など、顧客がフォローしたいブランドを360度の視点で捉え、買いたい物を買える場所に直接リンクできる仕組みを整えることにより、インスタグラムはネット上のモールは本来こうあるべきという姿を体現しつつある。それはトレンドやユーザーの関心の移ろいに合わせて、その最先端を反映するものにほかならない。
ブランドとの精神的なつながり
「インスタグラムの文脈上、顧客はファネルを進むに従い、コンテンツに触れ、より多くを学び、成長するものだ、と我々は考える」と言うのは、マーケティングエージェンシーのエージェンシーウィズイン(Agency Within)を創業し、CEOを務めるジョー・ヤクエル氏だ。「しかし、顧客はファネルのことなど考えていない。彼らが考えるのはブランドとの精神的なつながりであり、このつながりがあるから、顧客はそのブランドを好きになり、商品を買ってもよいと思うようになる。それはインスタグラムの上から下までどこでも起こりうる」。
アライバルズのジョンソン氏によると、インスタグラムの強みは意図的に、あるいは偶発的に、ブランドの美的センスとポジショニングを確立する点にあるという。商品について無償で投稿するインフルエンサーは、ブランドが予想しない形で売上に貢献する。ジョンソン氏はまた、インスタグラム上のタグ付きの写真には、あるブランドがどんなブランドで、何を目指すのか、あるいはほかにどのような人々が関心を持っているのかなどを示す役割があると指摘する。この種のソーシャルカレンシー、それは顧客が自発的にブランドの利益になるようなクリエイティブコンテンツを宣伝したり、提示したりすることなのだが、ほかの環境では到底再現できないとジョンソン氏は述べている。
「顧客の話によれば、彼らはブランドに関するもっと詳しい情報を得るために、直接タグの付いた写真を見てみるという。インスタグラムにはコンテンツとコンテンツとつなげる結束性があるはずだが、ブランドがそれをすべてコントロールするのは不可能だ」と、ジョンソン氏は言う。「特定のフィードで多くのペイドメディアやきれいなコンテンツを見て、タグ付きのコンテンツにはそれ(結束性)がないというなら、私は懐疑的に思う」。
成功をもっともよく示すもの
インスタグラムにとってのショッピングモールは、コミュニティの視点から見れば、ブランドが持つ文化的な通貨を表すものであり、同時に、そのブランドがどれだけ積極的にペイド投稿を活用して物語を語っているかを表すものでもある。ジョンソン氏が言うには、オーガニック投稿とペイドメディアの組み合わせは、ブランドの成功をもっともよく示すものだという。
前出のヤクエル氏によれば、「インスタグラムはブランドがそのような組み合わせの全体像を描ける場所、またはそのような全体像を描くほかの顧客からメリットを得られる場所になっている」という。
Hilary Milnes(原文 / 訳:英じゅんこ)