10月、多数の独立系書店がその姿を変えて人々の注目を集めた。店の前面を茶色の包装紙で覆い、そこには「不気味なアルゴリズムではなく、実在の人間がキュレーションした本」 「Amazonの『すばらしい新世界(ディストピア小説のタイトル)』を受け入れない」などのメッセージが飛び交ったのだ。
10月、多数の独立系書店がその姿を変えて人々の注目を集めた。
店の前面を茶色の包装紙で覆い、そこには「不気味なアルゴリズムではなく、実在の人間がキュレーションした本」 「Amazonの『すばらしい新世界(ディストピア小説のタイトル)』を受け入れない」などのメッセージが飛び交った。店先では、宅配用の段ボール箱が積み上げられ「1兆6000億ドル(約176兆円)の企業を、さらに金持ちにすることに違和感を覚える人は、ほかにいない?」といった疑問を掲げるメッセージやハッシュタグ「#BoxedOut」が書かれた。
この取り組みは、独立系書店の連合であるアメリカ書籍業協会(American Booksellers Association :ABA)が、Amazonが書籍事業に及ぼす巨大な力を批判するために企画したものだ。ストランド(The Strand)に代表される数多くの独立系書店が破産を免れようと必死になるなかで、過去1年の経済悪化はその状況の緊急性をさらに浮き彫りにした。
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ある意味、#BoxedOutは巧妙な広告戦略にすぎなかった。何百もの書店が参加したが、なかには店舗全体を改装はせずにソーシャルメディアに投稿することを選んだ書店もあった。10月14日から10月20日のあいだに、独立系書店の売上は26%増加した。このキャンペーンは、見逃されることが多い、業界での連帯アクションの効力を示している。これまで多くの独立事業者がAmazonを批判してきたが、大規模に連帯して抗議を行ったのは稀である。#BoxedOutは、Amazonやウォルマート(Walmart)に潰されないよう奮闘している企業のあいだでの将来のトレンドを示すかもしれない。市場の強打者を打ち負かしたいなら、彼らは協力する必要がある。
「長いあいだ、独立系書店は、競合他社を批判したり、その競合が消費者のためにならないかもしれないと指摘するのではなく、独立系書店が持つ価値を宣伝することに力を注いできた」と、ABAのアリソン・ヒル最高経営責任者は語る。「現在、リスクとその緊迫性は非常に高く、Amazonの問題はパンデミックによって悪化している」。
書籍ビジネスのユニークな側面
#BoxedOutキャンペーンは、ますます加速する独立系書店とAmazonの争いから出てきた最新のニュースのひとつに過ぎない。今年、小さな出版社が、独立系書店を支援することを目的としたeコマース・プラットフォーム「Bookshop.org」をデビューさせた。Bookshop.orgは、消費者がAmazonと同じように効率良く使えるように設計されているが、利益の10%はプラットフォームを動かしている独立系書店に戻ってくる。さらに最近では、米国でもっとも代表的な書店のひとつであるパウエルズ(Powell’s)が、Amazonマーケットプレイスでの書籍販売を中止することを決定した。
書籍業界にはいくつか独自の性質がある。それによって彼らがほかの業界よりもAmazonに対して挑戦的なアプローチを取っている理由を説明できるかもしれない。ひとつには、本はニッチなカテゴリーであり、書籍購入者は自分がどこで買い物をするかを非常に意識していることが挙げられる。書籍調査会社コーデックス・グループLLC(Codex-Group LLC)を経営するピーター・ヒルディックースミス氏は、「(書籍購入は)『よし、ベッドから起きて近くのストップ・アンド・ショップ(Stop & Shop)でチェリオス(Cheerios:人気のシリアル商品)を買うか』といった具合には行われない」と述べた。
しかし、書籍ビジネスのもっともユニークな側面は、もっとも早くにAmazonから侵略されたという、そのタイミングにあるかもしれない。Amazonはもともと、書店として始まり、書籍市場を記録的な速さで統合した。「Amazonは書籍業界において単独で最大の市場支配力を持っており、それはほかのどの消費者向け業界における支配力よりも大きい」と、ヒルディックースミス氏は述べた。Amazonはほかのカテゴリーでもトップの販売店かもしれないが、他カテゴリーにおけるシェアは「書籍ビジネスのレベルには遠く及ばない」と、彼は言う。
その意味で、書籍は炭鉱のカナリアにすぎない。Amazonが急成長を続ければ、ほかの分野でもそのうち50%の市場シェアを獲得する可能性があり、#BoxedOutのような闘争的な広告キャンペーンが当たり前になるかもしれない。eマーケター(eMarketer)によると、Amazonはすでに小売eコマース市場の38%を占めており、2番手の競合であるウォルマートを5.8%上回っている。
Amazonブランドの好意的評価は急落
すでにAmazonに対する消費者の意見は冷たくなってきている。コーデックス・グループの統計によると、この1年でパンデミック(とBookshop.orgのようなプラットフォームの登場)が原因で、書籍購入者のあいだでのAmazonブランドの好意的評価は急落した。2019年10月から2020年9月のあいだに、Amazonに対して肯定的な見解を表明した個人の書籍購入者の割合は36.6%からわずか22.7%に減少した。あらゆる書籍購入者全体でみても、好意的な評価の割合は46.3%から38.7%と下がっており、大きく下がっていることに変わりはない。
この数字にはヒルディックースミス氏さえも驚いている。彼がAmazonのブランドスコアを追跡してきた約10年間、「一般的に言って、Amazon(のブランド評価)は岩のように強固」であり、「それが何らかの変化を見せること自体が、我々の経験ではほとんどない」と述べた。
この大きな変化は、上記の反Amazonキャンペーンが実際に成果を出していることを示唆しており、今後の連帯行動に油を注いでいる。そして、すでにその兆しが見え始めている。Bookshop.orgと類似した動きとして、フランスのアンジェ市の、苦境にある中小企業がAmazonから市場シェアを取り返そうと連帯して立ち上げたAmazon風の独自プラットフォームであるアンジェ・ショッピング(Angers Shopping)がある。ほかにも、ブルックリンを拠点とするシンチ・マーケット(Cinch Market)は、何十もの地元の家庭用品店、ホームセンター、ベーカリーから商品を配送するサービスを提供している。店がシンチ・マーケットに支払う手数料はAmazonに対するものの数分の1だ。
ヒル氏に言わせれば、こうした変化は、普通の人々が自分たちの消費習慣が社会に与える影響に気付き始めたことの表れだ。消費者たちは、自分たちがどこでお金を使うかが、ダイレクトに近所の店が営業を続けられるかどうかに影響することをますます理解している。そのことに消費者たちが自然と気付かなかったとしても、小規模小売業者たちは以前よりも積極的にそのことを人々に伝えるようになっている。「パンデミック中の何かがきっかけとなって、あらゆる点で人々の意識が高まった」と、彼女は言った。
[原文:How independent bookstores teamed up to fight Amazon]
Michael Waters(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)