12月7日、イケア(Ikea)はこれまで70年間続いてきた紙の製品カタログを廃止すると発表した。同カタログは、小売業界においてもっとも長い歴史をもつカタログのひとつとして知られてきた。だが、イケアではオンライン売上が増加しており、紙のカタログへの関心が低下していると述べている。
12月7日、イケア(Ikea)はこれまで70年間続いてきた紙の製品カタログを廃止すると発表した。
同カタログは、小売業界においてもっとも長い歴史をもつカタログのひとつとして知られてきた。プレスリリースのなかで、同社のフランチャイズ事業を担当するマネージングディレクターのコンラッド・グリュス氏は、イケアではオンライン売上が増加しており、紙のカタログへの関心が低下していると述べている。また、同社は今後、デジタルマーケティングへの投資を増やしていくとも書かれている。
今年は、アンコモン・グッズ(Uncommon Goods)をはじめ、いくつかの企業で紙のカタログの休止や終了が決定しているが、イケアのようなケースは例外的だ。レストレーション・ハードウェア(Restoration Hardware)やウィリアムズ・ソノマ(Williams Sonoma)といった小売企業は、オンライン販売の強化に取り組みながらも、紙のカタログは発行し続けている。また、AmazonをはじめEC企業のなかには、ここ数年で自社カタログを発行しはじめたところもある。だが、米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)が以前報じたとおり、イケアはEC事業において遅れをとってきた。そんななかで今回イケアが紙のカタログを終了することを決断した背景には、顧客情報収集の目処がある程度立ったという面も大きい。同社はついにユーザーが直接買い物をできるアプリをローンチした。イケアにとって、アプリやウェブサイトから収集する情報が多いほど、オンラインマーケティングにおけるパーソナライズはやりやすくなる。
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また、イケアの紙のカタログは人気が高く、発行部数が非常に多かったことについても言及すべきだろう。同社は2016年には32以上の言語で、合計2億部のカタログを発行している。また、紙のカタログにはマーケティング費用として数億円規模の予算を必要としていたと考えられる。
現代におけるカタログのパイオニア
ピュブリシス(Publicis)で最高コマース責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏によればイケアは、紙媒体として配布していた雑誌のオンライン版への移行に早期から取り組んでおり、最初にオンライン版の雑誌を発行したのは2000年のことだったという。2010年、イケアは拡張現実アプリをローンチしている。これを使うと、紙のカタログから選んだ家具が、自分の部屋でどのように見えるかをARで試せるのだ。また、イケアは数年前から購入可能な紙のカタログをピンタレスト(Pinterest)で作成しようと試みてきた。ユーザーがアンケートに答えると、その回答に基づいてピンタレストのボードが自動作成される仕組みとなっている。
ゴールドバーグ氏は、紙のカタログの利点について「現代では郵便物よりもメールでのやりとりが多くなっており、ユーザーの注意を引きやすい」と指摘する。マーケティングプラットフォームのオムニセンド(Omnisend)によると、同社のクライアントが今年第2四半期に送ったメールの総数は24億通にも上ぼる。「紙のカタログであれば、キッチンやコーヒーテーブルの上に何週間も置かれた状態になることも考えられる」。
一方、デメリットも存在する。コンテンツをユーザー個別にカスタマイズし難い点だ。特にイケアの場合、カタログは100ページを超える。パーソナライズは容易ではない。また、同社が紙のカタログを発行しはじめた当初の目的は、「ユーザーに店舗へ足を運んでもらう」という一点のみだった。だが今や、同社は店舗だけでなくウェブサイトやアプリ、Tモール(天猫)をはじめとする各国のマーケットプレイスに販売ルートを広げており、事業内容もレンタルや再販など多角化している。
ゴールドバーグ氏は「単一のカタログをやめて、パーソナライズしたカタログに置き換えることで、オンラインのリーチもカスタマイズできるようになる。この戦略的な変更は成功する可能性もある」と語る。
デジタル化の取り組みを強化
イケアは現在、パーソナライズしたオンラインマーケティングの強化を目指している。そして、いまだ発展途上ではあるものの、徐々に必要なパズルのピースを手にしつつある。2年ほど前まで、イケアにはユーザーが直接商品を購入できるようなモバイルアプリがなかった。それまで同社にとってデジタル化は、店舗をサポートするだけの存在に過ぎなかった。たとえばアプリは、店舗内の案内などの機能が主だった。
しかしオンライン事業の拡大へと方針転換し、同社のオンライン収益は、2019年には総収益の10%だったが、今年は16%にまで増加している。ウェブサイトからの売上が伸びており、かつそれぞれのユーザーがどのような商品を購入したかのデータを蓄積している。そしてデータを個別のユーザーに向けて、パーソナライズされたデジタルマーケティングに利用する。
同社は各チャネルの予算については公開していないが、ここ最近のキャンペーンはペイドソーシャルや配信を重視したものとなっている。イケアが展開している最新のクリスマスキャンペーン「フォー・ウィークス・オブ・ワンダー(Four Weeks of Wonder)」では、インフルエンサー4人と提携し、製品やプレゼントに関するアドバイス、Facebookやインスタグラム、Hulu(フールー)、YouTubeでの広告掲載を行っている。
同社による紙媒体のマーケティングの終了と、デジタル化への注力が奏功するか否かは分からない。またECに注力している従来型の小売企業すべてが同じ方向に進んでいるわけではない。たとえば、パンデミックのなかでウィリアムズ・ソノマはオンライン収益が総収益の半分を突破し、報道によればその割合は71%にものぼるという。そんな同社でも、紙のカタログの発行を止めてはいない。
フリーランスのマーケティングプラットフォーム、マーケターハイヤー(MarketerHire)の共同創設者兼CEOのクリス・トイ氏は、「特にEC業界のスタートアップのあいだで、テレビCMや屋外広告といったブランド構築のためのマーケティングチャネルを補完するものとして、紙のカタログやダイレクトメールを利用するところが増えている」と語る。
「多様なチャネルを組み合わせることで、全体としてより良い結果が得られるようになる。ブランドの存在をさまざまな形で人々に伝えるのは、やはり効果的な手法なのだ」。
[原文:How Ikea’s decision to shut down its catalog bucks current retailer trends]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)