新ブランド立ち上げの数カ月前からソーシャルメディアを利用して認知度向上を図るティーザー戦略において、インスタグラムの存在感が高まっている。8月に新ブランド「アーケット(ARKET)」を立ち上げるH&M、インスタグラムの「ストーリー」機能を使って新製品50本を先行販売したJ.クルーの事例を紹介する。
複数のブランドを擁するH&Mグループは、新ブランド「アーケット(ARKET)」の立ち上げにあたり、インスタグラムを利用したバズマーケティングを展開中だ。
スウェーデン発のファストファッションの巨人にとって、7つ目となる新ブランド「アーケット」は8月25日、ロンドンに旗艦店をオープンするほか、ヨーロッパ18カ国向けのオンラインショップも立ち上げる。オープンまで10日を切ったが、実はアーケットはすでに3月の時点でインスタグラムアカウントを開設し、多数のティーザー写真投稿をして認知度の向上を図っている。これに続いてFacebookアカウントも開設し、6月には投稿をはじめた。
H&Mグループとしての公式なマーケティングキャンペーンは8月にはじまったばかりだが、アーケットはインスタグラムで2万8000人、Facebookで5000人のフォロワーを早くも獲得。Facebookでは数十本の投稿に多数のフォロワーコメントが付いている。
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インスタグラムにポストされている、スウェーデン、中国、イタリアのファクトリーを含む、さまざまなロケーションで撮られたティーザー写真や動画、アーケットが南仏に所有する香水博物館の写真は、ブランドのアイデンティティを明確に打ち出すのにひと役買っている。2017年春の新ブランド立ち上げ発表時、H&Mはアーケット(スウェーデン語で「紙」の意味)を、「現代にマッチした、メンズ、ウィメンズ、キッズ、ホームの必需アイテムを提供する」と紹介。同社がもつクリーンでシンプルなイメージを強調する。
First collection preview. Royal Geographical Society, 1 Kensington Gore, London. 2 June 2017. #ARKET
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「本物の情報」での結びつき
ビジュアルマーケティングプラットフォームを手がけるピクスリー(Pixlee)でマーケティングディレクターを務めるアンドュー・ヒギンス氏は次のように語る。「インスタグラムはソーシャルメディアマーケターにとって『本物の情報』で消費者と結び付き、消費者から反応を引き出すための極めて有効なプラットフォームだ。アーケットの場合も、いままでと違うアプローチでブランドを紹介し、舞台裏を垣間見せ、最新情報で消費者をじらすという手法によって、立ち上げを前にとても効果的に認知度を高め、消費者へワクワク感を与えてきた」。
新ブランド立ち上げの数カ月前からソーシャルメディアを利用して認知度向上を図るという戦略そのものは、アーケット以前にも多くのブランドが展開してきた。だが、アーケットの事例にはひとつの特徴がある。インスタグラムのフォロワー数の急速な拡大からもわかるように、母体であるH&Mブランドの影響が顕著であるという点だ。
H&Mは年初に「従来のグローバルなファストファッションブランドというイメージにとどまらない、さらなる多様化をめざす」というグループ戦略を発表したが、アーケットはこの戦略にまさにピタリと当てはまる。「コス(COS)」や「アンドアザーストーリーズ(& Other Stories)」といった、より実験的なブランド(いずれもH&Mとしてはやや高級志向で、ブティックスタイルの実店舗が特色)の成功に続き、いまやマスマーケットブランドという枠を超えて、ニッチな市場で躍進するための新たなアプローチを模索しているところだ。
アーケットはインスタグラムとFacebookで8月初旬に、ファーストコレクションのビジュアルを初公開。メーリングリストに登録すれば、公式オープンの2日前にオンラインショップを割引価格で利用できる、との情報もポストした。早期の売上を加速化すると同時に、大規模な顧客リストを作成して、オープン前からマーケティングキャンペーンを展開するための戦略だ。
販売ルートとしても利用
マーケティングテクノロジー会社キュラレート(Curalate)のCEOで共同創設者のアプ・グプタ氏は、インスタグラムについて、新設ブランドの認知度を確立するツールとしてはもちろん、実店舗やオンラインショップでのリリース前に新製品を販売するツールとしても有効だと評価する。一例がキュラレートのクライアントでもあるJ.クルー・グループだ。
J.クルーは2016年8月のサングラス新製品のオフィシャルリリースを前に、インスタグラムの「ストーリー」機能を使って50本を先行販売した。インスタグラムオンリーでリンク情報をシェアし、先行販売をフォロワー限定で告知すると同時に、新製品への期待感を高め、今後の売上増も狙ったのである。
グプタ氏は次のように述べた。「インスタグラムをはじめとするソーシャルチャネルがもつ影響力とリーチ力を背景に、ブランドはソーシャルチャネルを単なるブランド認知度向上ツールとしてではなく、販売ルートとしても利用するようになっている。賢明なブランドは今後、率先してソーシャルメディアを活用し、フォロワーが見たこともない新製品を紹介し、ブランドストーリーを伝えていくようになるだろう」。
Bethany Biron(原文 / 訳:SI Japan)