バカルディのウォッカブランドであるグレイグースは、テニス全米オープンで約15年に渡って公式スポンサーを務めてきた。今年は無観客で開催された同大会で、グレイグースはデジタルキャンペーンの新たな取り組みをはじめている。 公式カクテルのハニーデュースをデリバリーサービスによってファンの自宅へ届けているのだ。
バカルディ(Bacardi)が所有するウォッカのブランドであるグレイグース(Grey Goose)は、テニスの全米オープンで約15年に渡って公式スポンサーを務めてきた。今年は無観客で開催された同大会で、グレイグースはデジタルキャンペーンの新たな取り組みをはじめている。
グレイグースは今年の大会を、来年以降のスポンサーシップのあり方を模索する場として活用している。その取り組みのひとつが、ファンとのエンゲージメントを高めるため、カクテルデリバリーサービスのソースド:クラフトカクテルズ(Sourced: Craft Cocktails)と提携して発売した、「ハニーデュース(Honey Deuce:同カクテルは全米オープンの公式ドリンクとして知られている)」の家庭用カクテルキットだ。キャンペーンではデリバリーだけでなく、ニューヨークの老舗カフェバー「ダンテ(Dante)」の屋外スペースでポップアップストアを展開し、ハニーデュースの販売もおこなう。
全米オープンを象徴するカクテル
グレイグースは全米オープンに数百万ドル規模の収益をもたらしてきたスポンサー数十社の1社となっている。今回のキャンペーンでは、ほかにも全米オープンの会場を利用したファンイベントや、昨年のジョン・F・ケネディ国際空港におけるポップアップバーのようなブランドアクティベーションもおこなわれている。
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グレイグースは、レモネードやラズベリーリキュール、テニスボールを模したハニーデューメロン、そしてウォッカで作られるハニーデュースを年間で25万杯近く販売している。値段は1杯およそ15ドル(約1600円)だ。これまでもグレイグースはソースドと組んでイベントに応じた限定版キットの販売をおこなってきたが、全米オープンのために実施された今回のキャンペーンは、同ブランドのイベント関連キットのなかでも最大規模だ。
馴染みのカクテルをファンの自宅へ
米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(MODERN RETAIL)による以前の取材でグレイグースは、今年の全米オープンをデジタルエンゲージメントを捉え直すための機会として位置づけていた。グレイグースのブランドディレクター、ステイシー・サルティール氏はモダンリテールに対し、「今年は従来のアプローチから脱却し、消費者需要について改めて考える年になった」と語っている。
2007年以来、100万人以上の観客がスタジアムを訪れてきた全米オープンで、同ブランドはハニーデュースを提供してきた。今年もそれをなんとか再現しようと、自宅で楽しめる形でキットを提供しているのだ。このキットにはカクテルに必要な全材料やグレイグースのボトル、試合でドリンクを購入すると貰えるコレクターズカップが含まれている。
「一般的にライブイベントはブランドがオーディエンスと密接にコミュニケーションを取り、消費者データを収集するための重要な場だ」とサルティール氏は語る。「今年の全米オープンでは、ECパートナーと提携することで自宅にいるテニスファンにリーチできた」。また、テレビやSNSのように効果的かつシームレスにハニーデュースを顧客に届けるにあたって、ソースドによるキットデリバリーは不可欠だったと同氏は語る。
急速なデジタル移行
年初にECプログラムを強化していたことも、今回の迅速なキットの導入につながった。バカルディの北米デジタルコマース担当VPを務めるロラン・ブラウン・コスビー氏は、ロックダウン以前からECとデジタルアクティベーションを全体戦略に組み込んでおり、今後も同社の各ブランドで長期的に運用されていくだろうと述べている。
バカルディのデジタル移行に伴い、広告費用もライブイベントや旅行といった目処の立たない業界から、自宅の消費者にリーチできるオンライン配信プラットフォームへと移っている。ボンベイ・サファイア (Bombay Sapphire) やパトロン(Patron)をはじめとする複数のブランドを所有しているバカルディは、もともと複数年にわたる長期的なデジタル戦略を策定していた。だがパンデミックによって、同社はわずか数週間で新たなECおよびマーケティング戦略を実行に移さざるを得なくなったのだ。
コスビー氏は、消費者が在宅でサービスを受けるというコンセプトに慣れてきたいま、バカルディも今後もデジタルエンゲージメントを中心戦略として模索を続ける予定だと語る。
グレイグースがオンラインのエンゲージメントと宅配に力を注いでいるのも、現在のトレンドを活かそうとする努力のひとつだ。アルコール宅配プラットフォームのドリズリー(Drizly)で消費者分析責任者を務めるリズ・パケット氏は「バーやレストランでお気に入りのカクテルを注文するのではなく、自宅でカクテルをシェイクしている消費者は多い」と語る。同社が最近行った消費者アンケートによると、回答者の半数以上(52%)が、今年の春から自宅でカクテルを作る回数が増えたと回答している。さらに54%が、夏以降も自宅でカクテルを作り続けるだろうとしている。
グレイグースも、自社カスタマーのあいだでアルコール宅配サービスの認知度が高まっていることを確認している。サルティール氏は、誕生日や週末のバーチャルハッピーアワーなど、「新たな日常に適応するなかで、消費者がカクテルを作る理由はさまざまだ」と述べている。「ハニーデュースのキットは、カクテルデリバリーとテニストーナメントの再開という2種類のトレンド双方に対応するサービスとなっている」。
「リアルとバーチャルを両立させる」
グレイグースをはじめとする全米オープンのスポンサー各社が今年の大会も協賛するなかで、今後のスポンサーシップのあり方の基礎が作られたのではないかとサルティール氏は指摘する。大規模イベントのスポンサー企業はこれまで、参加者を重視する傾向にあった。だが今回のイベントをはじまりとして、より幅広い消費者グループを巻き込むチャンスが生まれたのではないかと同氏は語る。「今回のカクテルキットへの関心は、クリスマスシーズンやそれ以降も続くのではないか」。
そしてブラウン・コスビー氏は次のように述べている。「最終的な目標は、イベントの会場とバーチャルな取り組みを健全なバランスで両立させることだ」。
[原文:How Grey Goose is using the U.S. Open to test out at-home cocktail kits]
Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)