2020年9月、GAPはショッピング時の特典をはじめサービス内容を見直したカスタマーロイヤルティプログラムをリローンチした。対象となるのはGAP、バナナリパブリック、オールドネイビー、アスレタの3ブランドだ。このリローンチからおよそ10か月、同社は顧客を増やすべくさらなる取り組みを開始している。
2020年9月、GAPはショッピング時の特典をはじめサービス内容を見直したカスタマーロイヤルティプログラムをリローンチした。対象となるのはGAPおよび、同社が展開するバナナリパブリック(Banana Republic) 、オールドネイビー(Old Navy) 、アスレタ(Athleta) の4ブランドだ。このリローンチからおよそ10カ月が経ったいま、同社は登録者数をさらに増やすための新たな取り組みを開始している。
これまでGAPは、サービス利用者からのフィードバックに基づき、さまざまな変更・改定を行ってきた。そのひとつが利用者のランク制度の導入だ。利用額が増えるほどランクが上がり、より優れた特典(配送までの時間短縮など)を受けられるようになる。また、特典内容についてもよりシンプルになっており、購入額1ドル(約110円)ごとに1ポイントが付与される仕組みとなった。さらに店舗内にお知らせやQRコードも設置し、プログラム内容についての周知を行っている。とりわけGAPやバナナリパブリックは、コロナ禍以前の水準まで売上を回復できない状態が続いており、それが今回の取り組みにつながったと考えられる。
GAPでカスタマー・デジタル・テクノロジー部門の最高責任者を務めるジョン・ストレイン氏は「当社の目標は、生涯にわたってGAPを愛用してもらえる顧客を増やすことにある」と話す。
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9月のリローンチ以降、同プログラムへ1900万人以上が登録したという。また、GAPクレジットカードの累計利用者数は3700万人を超えるとのことだ。
顧客のフィードバックを反映
ストレイン氏によると、GAPに寄せられた意見で特に多かったのが、「ポイント交換をもっと簡単にできるようにして欲しい」というものだったという。たとえばリローンチの時点では、利用額が500ドル(約5万5000円)に達するまでは特典を利用できなかったが、リローンチで変更され、現在では100ドル(約1万1000円)からポイント交換できるようになっている。
顧客からもっとも支持を得ている特典が、送料無料サービスだ。しかも配達期間が短い。前述のランク制度では、年間利用額が500ドル(約5万5000円)未満の場合、注文額が50ドル(約5500円)以上であれば無料配送で、配達まで3~5日となっている。一方で、年間利用額が1000ドル(約11万円)を超える場合には2~3日で届くようになる。
「顧客は基本的に、送料無料を望んでいる」とストレイン氏。「とはいっても、配送コストを無視することはできず、採算の補填はどこかで必要になる」。そこで利用額の大きい顧客に対し、配達期間の短縮に踏み切ったとのことだ。
4ブランドの特色を生かす
特典については、上述の4ブランドに共通のものもあれば、ブランドごとに独自に設けられているものもある。たとえばバナナリパブリックでは、利用額がもっとも高いランクのメンバーには、寸法直しをはじめ、お直しの無料サービスを提供している 。「今後、プログラム特典をさらに充実させたい」とストレイン氏は話す。一例として、バナナリパブリックで、スタイリングアドバイス(服のコーディネートをはじめ、バッグや小物なども選び、その顧客自身に最適なアレンジを実現するアドバイス)の予約を取れるようにすることなどを考えているという。
GAPの場合、コロナ禍による売上への影響は、ブランドごとに大きく異なった。たとえば5月に行われた第1四半期の業績発表を見ると、バナナリパブリックの売上高は前年同期比で4%減、アスレタは同27%増となっている。2021年第1四半期のGAP全体の収益は40億ドル(約4400億円)で、2019年同四半期と比べて8%増となった。
カスタマーエクスペリエンスのデザインやコンサルティングを手掛けるヒーローデジタル(Hero Digital)の共同創業者のひとり、オーウェン・フリボルド氏は「コロナ禍は、本当にそのブランドを愛する顧客が実際にどれくらいいるかを各社が調査・把握する契機となった」と話す。新型コロナウイルスの感染拡大により、さまざまな小売企業がロイヤルティプログラムの再設計に力を入れた。そのなかで、スタイリングの予約や商品へのアーリーアクセス、無料配送などの体験型の特典が多くの企業で採用される形となった。
GAPの場合、「複数のブランドにわたって共通する特典を増やすことで、顧客の家族ぐるみでの利用を狙える」とフリボルド氏は語る。たとえば、ティーンはオールドネイビーで、その親世代はバナナリパブリックで買い物を行うため、GAPは両方の顧客をターゲットにして特典も盛り込んだロイヤルティプログラムを展開することができる。GAPならではのサービスの機会を得ているのだ。
ポイント統合による効能
ただし、複数ブランドにまたがるロイヤルティプログラムの設計には困難もつきまとう。「たとえばブランドごとに既存のポイント特典がある場合は、複数種類のポイントをシームレスな形で統合しなければならない」とフリボルド氏。
ストレイン氏によると、GAPはかなり前から4つのブランドで共通のショッピングカートを導入しており、それがポイント統合の際にメリットとなっているという。また、GAPの取り組みはそれだけではない。これまでサードパーティのポイント管理システムを利用してきた同社だが、現在では独自のシステムへと移行している。
ストレイン氏は「ブランド間で協調し、さまざまなプロジェクトを進めている」と述べる。
[原文:How Gap’s new loyalty program ties together its multiple brands]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)