多くの業界は急速に普及しているデジタルプラットフォームの影響を受けているが、イノベーションの最大分野のひとつにエンターテイメントがある。プライスウォーターハウスクーパースの報告によると、今後3年間で、世界の拡張現実、仮想現実、複合現実の市場は、2024年までには約3000億ドル(約34兆円)の評価になるという。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
多くの業界は急速に普及しているデジタルプラットフォームの影響を受けているが、イノベーションの最大分野のひとつにエンターテイメントがある。プライスウォーターハウスクーパースの報告によると、今後3年間で、世界の拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)の市場は2021年の10倍の規模になり、2024年までには約3000億ドル(約34兆円)の評価になるということである。
エンターテイメント界のメタバース例
メタバースとアバターはどんどん加速しており、この1カ月で多くの数がリリースされている。英国のITVのタレントプログラム「ザ・ヴォイス(The Voice)」、TikTok、そしてモバイルゲームプラットフォームのアバキンライフ(Avakin Life)とのコラボレーションにより11月に作成されたようなメタバースでは、好きなテレビ番組の世界のなかで人々がコミュニケーションできる可能性が示唆されている。9月に開始したフォックス放送の新しいタレントショー「アルターエゴ(Alter Ego)」はさらに一歩先を進んでいる。この番組では、AR、モーションキャプチャ、顔認識テクノロジーを使って、参加者は自分の顔を見せることなく、個性豊かな魅力的な等身大のホログラムアバターを作成するのである。
Advertisement
このレベルのテクノロジーによって、ファッションブランドはメタバースでのみ可能なコンセプトを作り上げることができるようになるだろう。チャーリー・コーエン氏がセルフリッジズ(Selfridges)の仮想ショップで、またバレンシアガ(Balenciaga)がゲームのアフターワールド(Afterworld)を通じて行ったようにブランドが自社のメタバースを作ることは理にかなってはいるものの、既存のエンターテイメントプラットフォームに統合することで、ブランドには、ゲーミングプラットフォーム上で見られるのと同じような新規ファンベースへのアクセスが可能になる。
前述のコラボレーションについて、アバキンライフゲームを制作したロックウッド・パブリッシング(Lockwood Publishing)のマーケティングディレクター、マルヤ・コンティネン氏は、ブランドとエンターテイメントプログラムとのコラボレーションは、世界市民がたがいに交流できるインクルーシブな場所として機能し、真に魅力的な体験を提供するものだと述べている。コラボレーションに応じて、多くの場合、ユーザーは観客として行動するか、またはオーディション歌手として関与するか、インタラクションのレベルを決定できる。同氏いわく、「将来的には、タレントコンテストの要素をメタバースに変換する方法を探求できるようになれば素晴らしいと思う。『ザ ・ヴォイス』のようなエンゲージメントを促進する形式を3D環境に変換できればと思う」。ファッションブランドらは主要な参加者の衣装に注目する傾向があるかもしれないが、メタバースのなかでインタラクションに依存するファンたちの可視性により、誰もが宣伝対象になれる可能性がある。
ファッションブランドにおけるバーチャルアイドルの可能性
その人気ゆえに中国から拡大したライブストリーミングと同様に、新しい形のエンターテイメントを提供するバーチャルアイドルやアバター、ARハイブリッドも中国から届けられるようである。バーチャルアイドル業界は、2020年に中国で5億ドル(約564億円)以上を稼ぎ、米国では独立した市場に成長すると予想されている。ファッション業界にとってこの分野の開発はファッションコンテンツを提示する新しい方法を提供することになる。つまり、ARに存在するアバターとホログラムを(服の)モデルにするということだ。ファッションブランドの多くはブランドの個性の開発を狙い、プレイリストや音楽、動画など独自のコンテンツを長い間制作してきているが、モンクレール(Moncler)がその良い例である。バーチャルアイドルはエンターテイメントのメタバースを活用する新しい方法を提供するだろう。また、将来的には、ファッションブランドらは自社の音楽や動画に関連したNFTを制作することもできるだろう。
バーチャルアイドルを作成するというアイデアは、「CCは夢を見ている(CC is Dreaming)」によって米国において先駆けられる予定だ。アーティストであり起業家でもあるシンシア・カオ氏が制作したCCは、12月3日、アート・バーゼル・マイアミでデビューした。その意図は、初のVRエンターテイナー、またはメタバースのNFTパーソナリティになることである。「現時点では、NFTプロジェクトの大部分は知的財産がほとんどないプロフィール写真であり、主にコミュニティの構築に重点を置いている」とカオ氏は述べている。「だが実際には、NFTにはバックストーリーや伝承はない。NFTには、その背後に歌ったり踊ったり、演技ができるイメージを持っているものはない」。CCには2つの個性がある設定になっている。昼間には人間であるが、一方では幽玄で無限の存在である。カオ氏によると、後者はCCが夢を見ているときに現れるという。アート・バーゼルではCCがステージにホログラムとして初めて披露される。
「CCのようなバーチャルアイドルのクリプト要素は、アイドルの音楽や表現、外見がすべてブロックチェーン上にあるということを意味する」とカオ氏。「そして、作品の背後に存在するアーティストたちは自分のウォレットにあるコンテンツの全権利を所有している。究極のビジョンは、パラレルのエンターテイメント業界を構築することだ」。音楽プロデューサーのせいでコンテンツの権利を保持できず、自分の音楽の所有権から断たれていると感じているアーティストが多く存在している。ファッションブランドはデジタル限定アーティストと直接協働することに依存しており、(そのコラボによって)すでにファッションと音楽のコラボレーション形式において確立されている新たな収益源が生まれるだろう。たとえば、ファッションメゾンは、ミュージックビデオの芸術的コンセプト関してすでに協働しているのとほとんど変わらない方法で、ファントークンを持っている人だけがアクセスできるデジタルコンサートの外見や音楽的スタイル、映画に対するコンサルタントとしての役割を果たせる可能性がある。
現時点では、音楽、アート、テレビのメタバースとの統合はまだ初期段階である。ITVは、1120万ドル(約13億円)の収益をもたらした「ラブアイランド(Love Island)」のドレスアップゲームや、フォートナイトクリエイティブ(Fortnite Creative)に進出した「ザ・ボイド(The Void)」ゲームショーのように、ほかの形式のエンターテイメントやゲームも模索している。ITVのゲーム担当責任者、ニール・バウアー氏はこう述べている。「『ザ ・ヴォイス』は世界のほとんどの地域でテレビ放送されている。番組を放送できる新しい地域を探すとしたら、実際の場所を見つけるのはとてもむずかしい。私はメタバースのゲームスペースは存在しつづけるだろうと確信している」。
[原文:How fashion will capitalize on hologram idols and TV show metaverses]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)