新年が始まり、複数のラグジュアリーブランドが、コラボレーションを通じてのみとはいえ、NFT空間への参入を果たした。4カ月目となるファッションメタバースシリーズでは、新たなる4つのブランドがどのように躍進し、デジタルの扉からメタバースに足を踏み入れたのかを分析する。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
4カ月目となる米Glossyのファッションメタバースシリーズでは、どのブランドがこの分野に参入し、なぜそれが重要なのか、そしてどのようなアイデアをもたらしているかについて注目する。ここでいうメタバースとは、ユーザーが永続的に存在できる共有の3D仮想世界というインターネットの未来の姿と定義する。
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新年が始まり、複数のラグジュアリーブランドが、コラボレーションを通じてのみとはいえ、NFT空間への参入を果たした。NFTについては、詳しくはNFTの解説記事を参照するとよいだろう。また、バルマン(Balmain)がどのようにメタバースに進出しているか、メタバースでの不動産購入を検討する際にブランドが知っておくべきことは何かといったことに関するGlossyの記事もあわせて、ブランド戦略を掘り下げるのに役立ててほしい。
ここでは、4つのブランドがどのように躍進し、デジタルの扉からメタバースに足を踏み入れたのかを分析する。百貨店が暗号用語で顧客を尻込みさせることなくNFTを販売する方法を見つけ、ラグジュアリーブランドはこぞってコラボレーションに取り組んでいる。
グッチ x スーパープラスチック:コレクターズアイテムによるブランドのイテレーション
グッチ(Gucci)は、バレンシアガ(Balenciaga)との「ハッキング」プロジェクト、グッチヴォールト(Gucci Vault)のローンチ、ノースフェイス(North Face)との話題のコラボなど、昨年はとくに活発だった。最新プロジェクトでは、アーティスティックなビニールトイのコレクターズアイテムを製造しているスーパープラスチック(Superplastics)と提携している。グッチはこれまでも、ウィンクルヴォス兄弟が所有するデジタルアートオークションプラットフォームのニフティ・ゲートウェイ(Nifty Gateway)でNFTをリリースしてきた。
グッチとスーパープラスチックは10種類のNFTのデザインと合計500点の限定生産のコラボレーションを行い、2月1日に発売した。それぞれにセラミック製のコレクターズ向けオブジェとなるスーパーグッチ(SuperGucci)のスーパージャンキー(SuperJanky)が付属する。
なぜ重要か:
グッチは、以前のロブロックス(Roblox)ゲームにおけるグッチ・ガーデン(Gucci Garden)のアクティベーションで証明されたように、NFT空間でのフィジタルプレゼンスに重点を置いている。グッチが関わっているプロジェクトの数を考えるなら、今回のコラボレーションはメタバースでブランドを発展させるための幅広いロードマップの一環といえる。またそこには、1月21日のディスコード(Discord)チャンネルのローンチによってファンやディスコードのコミュニティとの関わりを構築することも含まれている。
アディダス・フォー・プラダ・リソース:長期的なメタバース戦略
エネルギー消費の少ないブロックチェーンプラットフォーム、ポリゴン(Polygon)にローンチされた、ストリートウェア大手のアディダス(Adidas)とラグジュアリーファッションブランドのプラダ(Prada)によるNFTプロジェクトは、リ・ナイロン(Re-Nylon)コレクションを中心とした両ブランドの既存のコラボレーションに基づくものだ。そのNFTは、選ばれたクリエイターたちによる3000枚の個別のタイルで構成されている。各クリエイターは写真を提出し、デジタルウォレットを所持する。その後、それぞれのタイルが鋳造されてデジタルアーティストでコーダーのザッカリー・リーバーマン氏によって1点の大規模なデジタルアート作品にまとめられ、1月28日から31日にかけて販売された。
スーパーレア(SuperRare)デジタルマーケットプレイスでのオークションで最終作品を販売した際の収益は、気候正義と人権に関する教育に取り組む非営利団体スローファクトリー(Slow Factory)に寄付される。ただし、各クリエイターが所有する個々のタイルの売上、および最終作品と個々のタイルの二次的な売上は、共有の所有権のもとでクリエイターに支払われる。最終作品は、世界中のアディダスとプラダの店舗に設置されたスクリーンに映し出される予定だ。
なぜ重要か:
プラダは、2012年に発表したプラットフォーム「イル・パラッツォ(Il Palazzo)」で、デジタルワールドにおける実験を行った最初のラグジュアリーブランドのひとつだ。プラダのNFTプロジェクトは独立したラグジュアリーアイテムではないが、アディダスとコラボレーションすることで、NFTでボアード・エイプ・ヨット・クラブ(Bored Apes Yacht Club)に参加しているこのストリートウェアブランドの経験を活用することができる。
GAP:パーカーをトークンとするゲーミフィケーション
GAPは最近、カニエ(イェ)氏率いるバレンシアガとのコラボレーションがニュースになっている。先日もパーカーのNFTドロップが話題になったが、この分野への進出はこれだけにとどまらないようだ。1月13日にローンチされたそのNFTプロジェクトは、よりエネルギー効率の高いテゾス(Tezos)のブロックチェーン上に構築され、希少度によっていくつかの段階に分類されたコレクターアイテムのデジタルパーカーという形で提供された。コモン(Common)レベルの作品はおよそ8.30ドル(約950円)または2テズからスタート、レア(Rare)は24.90ドル(約2860円)あるいは6テズからスタート、エピック(Epic)は415ドル(約4万800円)あるいは100テズとなる予定。
エピックのパーカーには、GAP x フランクエイプ(Frank Ape)の現物のスウェットシャツも付いてくる。さらに希少性の高いワンオブアカインド(One of a Kind)となる作品の価格は未定。同ブランドは、フランクエイプというキャラクターの生みの親であるクリエイター、ブランドン・サインス氏と提携している。このコレクションでもっとも興味深いのは、ゲーミフィケーションの体験を取り入れている点だ。顧客がエピックを手に入れるには、4つのコモンとふたつのレアのNFTを購入しなければならず、パーカーがより大きな買い物のためのトークンとなっている。
なぜ重要か:
GAPは、NFTを介してイェ氏との仕事から大きな利益を得ることができるブランドのひとつである。そのデザインも興味深いが、NFTのトークン的な特徴はさらに注目に値する。あるコレクターズアイテムを伝説的なものにするストリートウェアのドロップスタイルによって、より希少なリリースのためにブランドが築きあげる何かを証明することができるだろう。
パコラバンヌ × セルフリッジズ:NFTを販売する初の小売店
1月28日、セルフリッジズ(Selfridges)はNFTをローンチした初の百貨店となった。パコラバンヌ(Paco Rabanne)やヴァザルリ財団美術館(Fondation Vasarely)とともに、ファッション、アート、NFTをショップフロアに展開するプロジェクト、ユニバース(Universe)を開催している。この展覧会では、アーティストの作品55点が展示され、うち37点はロンドンに拠点を置くラグジュアリーNFTプラットフォームのサブスタンス(Substance)が制作したNFTとともに販売される。販売価格は2000ポンド(約31万円)から10万ポンド(約1560万円)。ヴァザルリの作品やパコラバンヌが初めて制作したドレスをフィーチャーする予定で、ほとんどのNFTよりも高価なものとなっている。
暗号通貨ではなくポンドで行われるNFT販売による資金は、エクス=アン=プロヴァンスにあるヴァザルリ財団美術館とその作品の修復のために使われる予定。このローンチは2022年夏のパコラバンヌ・コレクションの重要な一環として、セルフリッジズがパコラバンヌと提携し、店頭での販売およびレンタルを行う。またセルフリッジズは、顧客がヴァザルリの作品に触れることができるように、ディセントラランド(Decentraland)にバーチャル環境をローンチした。
なぜ重要か:
セルフリッジズは昨年のチャーリー・コーエン(Charlie Cohen)× ポケモンですでにメタバース環境づくりに取り組んでいるが、百貨店がNFTプロジェクトを立ち上げるのは今回が初である。このラグジュアリーブランドによる今回のローンチは、店舗にアートを持ち込むことに重点を置いているが、暗号コミュニティはブランドがリーチできる貴重な新規オーディエンスであるため、暗号通貨を使わないようにしていることが逆に暗い影を投げかけるものになるかもしれない。この店はポンドに賭けているようだが、それはおそらく伝統的な店舗にとってより安定した財務的選択肢だからだろう。
ベルナール・アルノー氏からの言及:
1月30日の収支報告でLVMHの最高経営責任者ベルナール・アルノー氏は、ドットコムバブルの再現を警戒し、同社は「10ユーロでバーチャルスニーカーを販売する」ことには興味がないと述べた。ただしほとんどのNFTプロジェクトは10イーサリアム、または約2492ドル(28万6000円)からスタートする。またアルノー氏は、メタバースに関するLVMHの注目はそこから得られる収益のリードにあり、その環境内でのコミュニティ構築の可能性は除外していることについても言及している。
[原文:How fashion brands entered the metaverse in January]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)