ファッション企業は、メタバースの探求に手を貸してくれる新たな才能を見つけようと大量に採用を行っている。ナイキでは、メタバースに関連する5つのポジションを採用しており、バレンシアガは12月にメタバース部門全体を構築すると発表。しかしこの分野はとても新しく、ブランドは「5年の経験」など求めることはできない。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
NFT、メタバース、Web3というコンセプトは、昨年どこからともなく爆発的な人気を博したようだ。何十ものファッションブランドがNFTという名の列車に飛び乗り、メタ(Meta、旧Facebook)のような巨大企業がWeb3の世界全体に大きな賭けをしている。
実務の経験年数が存在しない新たな分野
しかし拡大には人材が必要だ。そしてファッション企業は、メタバースの探求に手を貸してくれる新たな才能を見つけようと大量に採用を行っている。ナイキ(Nike)では、メタバースに関連する5つのフルタイムのポジションを採用しており、バレンシアガ(Balenciaga)は12月にメタバース部門全体を構築すると発表した。
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とはいえ、この分野は信じられないほど新しく、ブランドはまだ1年も経っていないコンセプトに対して「5年の経験」を求めることはできない。どのブランドも適切な人材を見つけるために検索の視野を広げており、急速に成長し、急激に変化している新しい業界に適応するのに役立つと期待されるさまざまな技術的スキルを持つ人材を探している。
新しい人材を探しつつ、既存社員を活用したチームを構築
サザビーズ(Sotheby’s)のEMEAマネージングディレクターであるセバスティアン・フェイヒ氏は、昨年10月付でメタバース・エグゼクティブ・リードという新たな肩書を得た。フェイヒ氏はEMEAの職務に加え、デジタル商品の販売というサザビーズのベンチャーを率いて、デジタル商品分野に注力するチームの構築を担当している。
このチーム構築にあたっては、適切なスキルを持つ新しい人材を探し出し、既存の社員にメタバースに特化したチームへと躍進するよう求めることをあわせて行ったとフェイヒ氏は語る。
現在サザビーズのデジタルアート部門で共同責任者を務めているマックス・ムーア氏とマイケル・ブハンナ氏についてフェイヒ氏は、「デジタルアートとNFTに強い関心を持つふたりの現代美術の専門家が当社にいたのは、とても幸運だった」と述べている。
ムーア氏は香港、ブハンナ氏はロンドンを拠点とし、両者ともにサザビーズのデジタルアート販売を牽引する中心的な役割を果たしている。またもうひとり別の社員で、科学と文化を専門とするカサンドラ・ハットン氏も、6月に売却したワールドワイドウェブ(World Wide Web)のソースコードのようなデジタル作品の販売をリードすることに貢献している。
メタバース業務の志望者に求められる経験と知識
だが新規採用については、サザビーズのチームは通常よりも経験に制限を設けていないとフェイヒ氏は述べた。メタバース業務の志望者は、必ずしもこの分野での実務経験が豊富である必要はない。
「我々のニーズと同様に、メタバースも常に進化している」とフェイヒ氏は言う。「我々は、Web3分野に関する知識と相まって、さまざまな経験を活用することを検討している。適合する候補者を見つけるのは必ずしも難しいわけではないが、よりニッチな分野なのだ」。
他の企業は、必要とする知識という点ではもっと要求が厳しい。ストックX(StockX)のシニアNFTプロダクトマネージャーの求人には、志望者は「NFTに精通していること」という要件が含まれている。業務の役割は「ストックXのNFT戦略をサポートする製品ビジョン、要件、戦略を定義する」ことだ。
フェイヒ氏は、サザビーズの社員のうち何人がメタバース関連のプロジェクトに取り組んでいるのか、あるいは取り組みたいと思っているのかを数字で示すのは困難だという。なぜなら、多くの社員が重複してケースバイケースでそうしたプロジェクトに取り組んでいるからだ。だが現在、定期的にNFT関連の仕事をしているのは5~10人である。
「意欲があり、専門家になれる人」が求められている
セフォラ(Sephora)などの企業に向けてブランド商品の企画や制作を行っているクリエイティブエージェンシー、ハーパー+スコット(Harper + Scott)は1月13日、マイケル・スコット・コーエン氏の指揮のもと、社内にメタバースチームを結成したと発表した。
コーエン氏によると、同社は現在も採用を行っているが、LinkedIn(リンクトイン)などのサイトには求人を掲載していない。その代わり、彼のチームは、口コミや、NFTに特化したコミュニティのDiscord(ディスコード)のようなオンラインチャネルで人材を探している。
「Web3はまだ本当に新しいため、ただLinkedInに行って職歴に『NFT』とある人を探せばいいといった単純なものではない。そうした人はまだあまり存在しない。その代わり我々は、ブロックチェーンのような、関連する特定の部分について知っている人を探している。あるいは、暗号の経験がある人でもいい。それに加えて、時間をかけて適応しつつ、我々とともにこの分野を発見していこうという意欲のある人でなくてはならない。必ずしもすでに専門家である人を求めているわけではない。専門家になれる人を求めているのだ」。
いまは戦略と模索の時期
アリス+オリビア(Alice + Olivia)のCEOステイシー・ベンデット氏は、現在探しているのはメタバースのディレクターというひとつの役職だけだという。完全なチームを雇うことに投資するよりも、市場にアプローチする際にブランドの全体的な戦略を探求・開発してくれるハイレベルで完璧な人材を見つけたいと彼女は考えている。その人材が見つかって社としてのビジョンが明確になれば、本格的な人材確保に取り組むことができる。
ベンデット氏は、2020年に彼女自身が立ち上げたクリエイティブ採用ツールのクリエイティブリー(Creatively)を通じて、このディレクター職を募集しているという。職務内容には、NFTコンテンツの監督、NFT資産の評価、Web3分野における他社や個人とのパートナーシップの開発、デジタル製品の市場投入などが挙げられている。彼女はクリエイティブリーをNFT分野の人材発掘・採用のための主要な場にしたいと考えている。
「いまは、戦略と模索のときだ」とベンデット氏は言う。「まずは何が存在するかを理解し、何を構築すべきかを決定してからチームを作り上げる。最初のステップはNFTだ。それからメタバースにおけるコマース。だが現在の我々に必要なのは、この探索をリードしてくれる人材なのだ」。
[原文:How fashion brands are scouting for metaverse talent]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)