米ロサンゼルスに本社をおくeスポーツ企業、ワンハンドレッドシーヴス(100 Thieves)は、M&A戦略の一環として、買収先探しに乗り出そうとしている。2021年12月2日、同社はシリーズC(経営が安定した成長最終段階)の投資ラウンドで、6000万ドル(約66億円)の資金を新たに調達したと発表した。
米ロサンゼルスに本社をおくeスポーツ企業、ワンハンドレッドシーヴス(100 Thieves)は、M&A戦略の一環として、買収先探しに乗り出そうとしている。
2021年12月2日、ワンハンドレッドシーヴスはシリーズC(経営が安定した成長最終段階)の投資ラウンドで、6000万ドル(約66億円)の資金を新たに調達したと発表した。これにより同社の評価額は4億6000万ドル(約510億円)に到達。今回調達した資金の大半は、M&Aに充てられる予定だという。同社の経営幹部によれば、直近の案件では、ゲーム周辺機器メーカーのハイグラウンド(Higround)買収が、投資家の関心を集めたという。
ワンハンドレッドシーヴスのM&A攻勢は、業界におけるM&A活発化の動向を反映している。買収は、一貫性と収益性のあるビジネスモデルを探求するeスポーツ企業にとって、組織に新風を吹き込み、新たな収益源を確保するきっかけとなる。
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はじめてのM&A案件でハイグラウンドを傘下におさめたワンハンドレッドシーヴスは、それまでは業界内の企業との提携やライセンス契約のほうを好んで進めていた。しかし同社は、ハイグラウンドの創業者、ラスティン・ソトゥーデ氏との出会いにより「デザイン重視」の理念に両社共通の要素を見いだし、話し合いのうえ、ロサンゼルス本社の一角にハイグラウンドの社員が働くオフィスを設置した。「ゲーム文化を盛り立てその地位を向上させるような、強力なブランドを一緒に作りたかった」とソトゥーデ氏は語る。「その思いを、ワンハンドレッドシーヴス側に伝えたところ、『我々がアパレルでやろうとしていることとまったく同じだ』という反応が返ってきた。というわけで、最高のチームが結成された」。
M&Aを積極化したきっかけ
ワンハンドレッドシーヴスは、ストリートウェアのデザイン感覚を活かし、ゲーム業界で活動するクリエイターと競技者、両方のファンを獲得してきたが、もともとM&Aの優先順位は高くなかった。
「当社は以前、業容の拡大を図る目的で市場から買収先を探すといった、積極的なM&A戦略を持っていなかった。既存事業が全セグメントで好調だったからだ」と、ワンハンドレッドシーヴスのジョン・ロビンソンCOOは振り返る。
しかし、初の買収をきっかけに状況が変わった。ハイグラウンドとのコラボによるキーボードとアパレル商品のカプセル・コレクションは、発売後数分で売り切れる人気ぶりに。成功の余韻に浸る間もなく、ワンハンドレッドシーヴスは次のM&Aにも同様の成果を期待して検討をはじめている。「ハイグラウンドの買収は、当社の事業拡大の方向性を示す実例だ」とロビンソン氏はいう。「シリーズCのラウンドで調達した資金のかなりの部分を、今後のM&Aと、新規事業立ち上げにつぎ込む予定だ」。
ワンハンドレッドシーヴスだけではない
ゲームとeスポーツ分野におけるM&Aはここ数年、ゆっくりとではあるが着実に件数が増えてきた。吸収合併や買収は、eスポーツ企業にとっては有利に働く場合が多い。なかには、従来のスポーツチーム運営にならった単なるeスポーツチームから、他社との統合により、ワンストップショップ(one stop shop:特定の分野において、あらゆる商品を取り揃える販売形態)的な、総合イベント制作会社やブランドスタジオへと成長を遂げた企業もある。
たとえば、最近エンスージアスト・ゲーミング(Enthusiast Gaming:以下エンスージアスト)やレクト・グローバル(ReKTGlobal)といった古参の企業も、「eスポーツ界のバークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)」の座を狙う動きを見せている。つまり、eスポーツチームのオーナーであると同時に、さまざまな事業会社を有する持株会社を目指しているのだ。「あくまで私の個人的な意見だが、我々がM&Aに積極的になればなるほど、投資家の活動も盛んになるようだ」と、レクト・グローバルの最高クリエイティブ責任者、ケヴィン・ノック氏は語る。「これまで当社が買収したのは、浮き沈みの激しい業界にあって高い収益力を誇る優良企業だから、なおさらだ」。
一方、ワンハンドレッドシーヴスはいまのところ、持株会社体制へ移行する計画はないようだ。とはいえ、M&Aによる事業拡大に食指を動かすeスポーツ企業は同社だけではない。フェイズ・クラン(FaZe Clan)が2021年10月に上場を果たした直後、同社CEOのリー・トリンク氏は米DIGIDAYの取材に応え、調達した資金を企業買収に充てる意向を明らかにした。「当社はこれまで、アパレルと非アパレルの両方の分野で成功をおさめてきたが、さらに勢いをつけていきたい。eスポーツ分野での買収も視野に入れている」とトリンク氏は述べた。
買収先選びの基準は、理念の共通性
ワンハンドレッドシーヴスのM&A戦略はまだ発展途上だ。実際、名だたるeスポーツ組織のルミノシティ・ゲーミング(Luminosity Gaming)を所有するエンスージアストの活動と比べると、進捗著しいとはいえない。しかし、「理念の面で共通項の多い会社に的を絞って、買収先を探すというワンハンドレッドシーヴスの方針は賢明だと思う」と、エンスージアストのエイドリアン・モンゴメリーCEOは評価する。「M&Aに不可欠なのは、当事者双方が掲げる理念の親和性で、その条件に合った企業を迎え入れるべきだ。我々は、相手企業が所有する個々の事業や資産の総和より、当社と合併した場合の企業価値が大きくなるかどうかを、買収の判断材料としている」。
そんな取引の一例としてモンゴメリー氏が挙げたのは、エンスージアストが2021年9月に3500万ドル(約38億5000万円)を投じて買収した、人気オンラインゲームサイトを運営する、アディクティング・ゲームズ(Addicting Games)だ。「買収後、2カ月も経たないうちに変化がみられた」とモンゴメリー氏は述べている。「ソーダポッピン(Sodapoppin)やエックスキューシー(xQc)など、ルミノシティ・ゲーミングのクリエイターたちが、アディクティング・ゲームズの『リトルビッグスネーク(Little Big Snake)』をプレイしている様子を、Twitch(ツイッチ)で配信しはじめた」。
この買収の効果は、数字にも表れている。2021年第3四半期、エンスージアストは過去最高の売上4330万ドル(約47億7000万円)を計上し、有料会員数は合計20万7000人に達した。これは、アディクティング・ゲームズの収益性の高い加入者サービスが大きく寄与したためだとモンゴメリー氏は説明する。
俊敏性と存在感を維持するために
eスポーツ企業が、収益源の多様化と出資者の満足度向上を目指すなか、テーマ特化型であれ、バークシャー・ハサウェイ型であれ、M&Aは今後も各社の事業計画の一環として推進されるだろう。若く、そして移り気な消費者が牽引するゲームの世界で勝負するeスポーツ大手にとって、新たな事業会社の買収は、理念の整合性が取れているかぎり、組織の俊敏性と存在感を維持する一助となるはずだ。
「ワンハンドレッドシーヴスは何を追求するか、しないかについて明確な意思を持っている」とロビンソン氏はいう。「その意思にもとづいて、ハードウェア事業の可能性と、ハイグラウンドのチームに対する確信を得た。我々が買収を決断した根拠はそこにある」。
[原文:How esports org 100 Thieves will boost its M&A strategy with $60M in Series C funding]
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)