eスポーツ企業は、ファンのエンゲージメントや関心を失うことなく、ライブストリームの視聴者にブランドパートナーを紹介するために、アダプティブなオーバーレイ広告サービスに投資している。重要なのは、いかにeスポーツファンが求める熱のこもったゲームプレイを妨げることなく、配信業者のストリームに広告を組み込むという点だ。
eスポーツ企業は、ファンのエンゲージメントや関心を失うことなく、ライブストリームのオーディエンスにブランドパートナーを紹介するために、アダプティブな(適応性の高い)オーバーレイ広告サービスに投資している。
プレロール広告とミッドロール広告は、Twitch(ツイッチ)の視聴体験につきものの要素だ。Twitchのストリームを見にいくと、動画の一端が流れたあと、15秒のプレロール広告を見せられることがよくある。ストリーマーは、トイレ休憩やエキサイティングな場面の合間にミッドロール広告を流そうとするが、オーディエンスがコンテンツに完全に没入する妨げになりかねない。アドブロッカーを使っても、このような広告を完全に防ぐことはできず、もっともポピュラーなオプションは、プレロールやミッドロール広告が流れるあいだ、Twitchのフィードを真っ暗で無音の画面に置き換えるだけというものだ。
「プレロール広告はかっこいいが効果はない」
ジョーダン・シャーマン氏はeスポーツ組織のジェンジー(Gen.G)でCROを務めていた当時、プレロール広告やミッドロール広告のフラストレーションを身をもって体験した。「ゲームは長くかかるものだ。自然な休憩もハーフタイムもない。だから、何かをストリーミングしているときにコマーシャルが入ると、ちょっとイライラしてしまうことがある」とシャーマン氏はいう。
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この「イライラ」を緩和するために、シャーマン氏は、ピクチャーインピクチャー方式のアドテクサービスを提供するトランスミット(Transmit)と提携し、ガソリンスタンドブランドのコノコ(Conoco)がスポンサーを務める大学のeスポーツイベントを配信した。トランスミットのピクチャーインピクチャーサービスにより、ジェンジーは2日間の「ライバルイベント」を、一度もミッドロール広告を挟むことなく配信することができ、オーディエンスはときおり画面端のボックスにコノコの広告が挿入されても気にならなかった。なおシャーマン氏は現在、eスポーツおよびゲーム企業のイモータルズ・ゲーミング・クラブ(Immortals Gaming Club)でプレジデント兼CCOを務める。
実際、eスポーツファンがブランドの関与を警戒しているという考えは、あまり当たっていない。ブランドがスムーズに視聴体験に組み込まれれば、オーディエンスはむしろそれを、自分が見ているイベントやeスポーツの正当性が認められたと受け止める。Twitchのブランド・パートナーシップ・スタジオ(Brand Partnership Studio)の責任者アダム・ハリス氏は、「ゲーム業界がブランドに否定的だというのは、ちょっとした誤解だった」と述べている。「むしろ評価の証として、常に歓迎していた」。
シャーマン氏は、コノコのアクティベーションに対するオーディエンスのエンゲージメントに好感触を得て、トランスミットのサービスをイモータルズの動画やストリーミングコンテンツにも適用しようとしている。「ピクチャーインピクチャーのような広告を使って、『マインクラフト(Minecraft)』のようなゲームのなかでアクティベーションを行うと、オーディエンスの反応が非常にいい」とシャーマン氏はいう。「ただプレロール広告を流してブランド名を入れただけでは、かっこいいけれど何の効果も得られなかっただろう」。
適切なタイミングに適切な広告を
トランスミットのサービスは、単にピクチャーインピクチャー方式の動画プレイヤーに広告を挿入するだけではない。「我々は、画面上で何が起こっているかを常に正確に把握しており、広告を表示するための最適なタイミングを見つけることができる」と、トランスミットのCOOを務めるリカルド・ブエソ氏は話す。eスポーツの配信では、「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」のチーム戦や「ロケットリーグ(Rocket League)」のゴール場面など、各ゲームタイトルにおける特徴的な「重要な瞬間」にフラグを立て、そこに関連する広告を表示するという。
eスポーツ企業にアダプティブなオーバーレイ広告のサービスを提供しているのはトランスミットだけではない。動画広告のアドテクを手がけるカタパルトX(CatapultX)は、ESLやESTVなどのeスポーツリーグや配信業者と提携し、同社が「オンストリーム」と呼ぶ広告を、それらのコンテンツに組み込んでいる。トランスミットのピクチャーインピクチャーサービスと同様に、カタパルトXは人工知能を使って動画コンテンツの画面と音をモニタリングし、関連する広告を適切なタイミングで表示する。
トランスミットと異なるのは、静止画像やバナー広告をオーバーレイ表示するため、おそらくピクチャーインピクチャー動画よりも邪魔になりにくいところだ。「ペプシ(Pepsi)という単語が出てきたら、ペプシの広告を出すことができる」と、カタパルトXのCEO、ザック・ローゼンバーグ氏は話す。「したがって、管理の手間がかからないだけでなく、追跡可能なインプレッションであり、それがしかるべきタイミングに、しかるべきフォーマットで提供される。エコシステム全体をひとつにまとめるようなものだ」。
広告でオーディエンスの「熱」を妨げない
トランスミットが採用するピクチャーインピクチャーの動画広告と、カタパルトXが提供する静止画像のオーバーレイ広告には大きな違いがあるが、どちらのサービスも、eスポーツファンが求める熱のこもったゲームプレイを妨げることなく、配信業者のストリームに広告を組み込むことができる。彼らとジェンジーやESLといった大手eスポーツ企業とのパートナーシップの成功は、eスポーツのオーディエンスが、プレロールやミッドロール広告からよりシームレスな広告体験に移行する準備ができていることを示している。
「ゲーム内で行われていることや話されていることと、広告の内容を結びつけることは、とてもエキサイティングなことだ」とシャーマン氏はいう。「なぜなら、突然、自分がその体験を作り出しているようになるわけで、それ自体がゲームの一部のように感じられるからだ」。
[原文:How esports companies are keeping fans engaged with adaptive, overlaid ads]
ALEXANDER LEE(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島翔平)