ロサンゼルスのセレブを追いかけている人々にとって、エレウォン・ホール(Erewhon Haul)はインスタグラムで毎週のように目にする名前だ。ハイエンド向けである同社は、この10年間において、トレンディな高級食料品で知られるようになった。そして、若い消費者や、健康とウェルネス分野のインフルエンサーを引きつけた。
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ロサンゼルスのセレブを追いかけている人々にとって、エレウォン・ホール(Erewhon Haul)はインスタグラムで毎週のように目にする名前だ。
エレウォンマーケット(Erewhon Market)は日本からの移民である久司アベリーヌ氏と久司道夫氏によって1966年にボストンで創設された。最初の店舗は長く続かなかったが、そのあとで最初のオーナーは西部に向かい、ロサンゼルス地域に店舗を展開した。同社の現在のイテレーション(短期間で反復しながら行われる開発サイクル)は、2011年にトニー・アントシ氏とジョーゼフィン・アントシ氏の夫婦がエレウォンを買収したときからはじまったものだ。
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ハイエンド向けである同社は、この10年間において、トレンディな高級食料品で知られるようになった。同社の商品には1瓶14ドル(約1600円)のビーフ・ダンデライオン・エキナセア・ボーンブロスや、20ドル(約2320円)のカルトココナッツのビーガンヨーグルトなどがある。また同社は過去数年間にわたり、若い消費者のファンベースや、グウィネス・パルトロー氏、エマ・チェンバレン氏、カーダシアン&ジェンナー家などの健康とウェルネス分野のインフルエンサーを引きつけた。エレウォンは2019年にストライプスグループ(Stripes Group)から資金を受けたあとで急速に拡大した。ストライプスグループは、現在はエレウォンの少数株を保有している。エレウォンは現在7つの拠点を保有しており、2020年にはシルバーレイクに、2021年11月にはパサデナボーダーズに店舗を開設している。
将来性のあるCPGブランドかどうか
エレウォンはブランドにとっても注目に値する。展開をはじめたばかりのブランドにとって、エレウォンのソーシャルメディア上で多くのインプレッションが見込まれる定期ポストに自社商品が掲載される可能性があることは魅力のひとつだ。実際、創業後すぐにエレウォンの棚に並びたいと考えるブランドは増えている。エレウォンの顧客は高収入であることからも売上の伸びが見込まれる。フォーブス(Forbes)は2019年に、エレウォンが1平方フィート(約0.093平方メートル)の売場面積ごとに2500ドル(約29万円)を売り上げたと報告している。これは平均的な食料品店の4倍を超える金額だ。
エレウォンのブランド開発担当バイスプレジデントであるビトー・アントシ氏は、次のように米モダンリテールに語っている。「当社は若い消費者にカルト的な人気があるが、これは健康改善に対する関心の高まりを純粋に反映しているものだ。当社は最高品質の商品を最初に市場に届けるため、各種のチャネルを通してCPG(消費財)のトレンドを常に注視している」。
アントシ氏は、同社がソーシャルメディア時代に獲得したインフルエンサーのフォロワー数にかかわらず、カルト的なステータスはエレウォンのベンダー選択に大きな影響を与えていないと語っている。同氏は、「我々は何よりも優先して原料を調べる。本物の食品が我々のアイデンティティの中核であり、我々が届けようと努力している商品でもある」。その前提において、アントシ氏は同社のバイヤーが「もっとも将来性のあるCPGブランド」に常に注目していると語っている。
ブランドからひっきりなしに問い合わせを受ける影響力のある小売業者として、アントシ氏は同社が商品の必須条件として厳格なリストが存在すると語っている。もっとも重視しているものは原料だ。同社の調査チームがベンダーを調べ、遺伝子組み換え不使用やUSDAオーガニックステータスなど特定の栄養上の認定をチェックする。また同社は、加工食品は加工や添加物が最小限のものを優先している。たとえば、精製糖が最小限しか加えられていない、または添加なしのCPG商品が優先される。
2番目に重要な基準はパッケージで、3番目は流通となる。「そして、感触(feel)も重要だ」とアントシ氏は述べている。すなわち、エレウォンの認定チームは「ブランドから良い感触を受ける必要がある」と同氏は述べる。同氏は次のように締めくくっている。「これは多くの場合、言葉にすることが難しいものだ。しかし、エレウォンを利用しているなら、何を意味しているか理解できるだろう」。
ブランドの先導者
この感触こそ、新しい飲食品ブランドの創設者たちが、自社商品をエレウォンのバイヤーに紹介するときに伝えようとしているものだ。
飲料品ブランドのスウォーン(Swoon)の共同創設者であるジェニファー・ロス氏は、エレウォンは同社の小売における指針となっていたと述べている。ロス氏は、小規模なCPGブランドである同社にとって、ホールフーズ(Whole Foods)やスプラウツ(Sprouts)のような大手小売業者と最初から提携することは、キャパシティの観点から困難であると語っている。「エレウォンなら、少量の在庫を文字どおりFedExで送ることができる」と同氏は述べている。
スウォーンは、モンクフルーツ(注釈:スーパーフルーツとして注目を集めるウリ科の果物)をベースとするシロップの販売を2019年にエレウォンで開始し、西海岸で最大の事業者のひとつに急成長した。スウォーンが2020年8月に缶入りレモネードとアイスティーを発売したとき、これらの商品を扱う実店舗はニューヨーク市の小売業者とエレウォンだけだった。
最高峰の小売業者に認められたということ
エレウォンのハロー効果は、ブランディングを行う多くの会社にとって実際に存在するものだ。D2CおよびCPGブランドのコンサルタントであるケンダル・ディキーソン氏は、新興企業がエレウォンで販売できるようになるには何年もかかる場合があると語っている。「そして、そこが最初の拠点なら、以後の卸売販売の路線を切り拓くことができる」と同氏は述べている。
また、同氏は次のようにも述べている。「常に新しいトレンドを探し求めている者にとって、エレウォンは聖地だ。エレウォンで販売されているということは、健康食品において最高峰の小売業者に認められたということを意味する」。
ディキーソン氏は、以前のクライアントであり、2020年6月にエレウォンで販売を開始した水分補給飲料ブランドのバーコード(Barcode)について言及している。「当社は、この商品を購入したインフルエンサーからのオーガニックの問い合わせが増加し、何回も売切れになるのを見てきた」と同氏は述べている。
創業時から目標はエレウォンでの陳列
キャンディーブランドのビヘイブ(Behave)の創設者でCEOを務めるメイッサ・シェハタ氏は、同ブランドが2020年8月に創業したとき「目標とする小売業者のリストの先頭にエレウォンを置いていた」と語っている。
ビヘイブは自社独自のD2Cサイトで販売を開始し、昨年夏にエレウォンおよびフォックストロット(Foxtrot)とパートナーシップを開始するまで、ほかの食料品店での販売は行わなかった。「接触してきた店舗すべてに卸売の門戸を開くことはしなかった」とシェハタ氏は述べている。同社のチームは大手の食料品小売業者に参入する前に、ビヘイブのオンラインでのプレゼンスを成長させることを望んでいたと語っており、エレウォンのようなインフルエンサーの集まる場での販売によりその足がかりとなったとしている。
同ブランドが最初にエレウォンと接触したのは、バイヤーがソーシャルメディアでビヘイブの商品を見てサンプル請求をしてきたことがきっかけだった。これにより、ビヘイブをベンダーとして迎え入れるための話し合いが開始された。「そこから当社は、厳重なことで有名なエレウォンの調査プロセスを開始することになった」とシェハタ氏は言う。エレウォンはビヘイブの材料についてのスペックシートを要求し、ビヘイブの材料のソーシングを調査したと言及している。
「はじめて食料品店に出品するとき、当社には一般的な業界ベンチマーク以外の基準は存在しなかった」とシェハタ氏は述べている。同ブランドは、業績がもっとも悪い店舗でも週に1つ、もっとも業績のよい店舗ではSKUごとに週に6~7ケースを売上げている。しかし、それでも小売の環境においては業績を上げることができた。商品がキャンディであるため、チェックアウトの列の近くに配置することで、ビヘイブはエレウォンで販売を開始した初週には売上目標を達成したと同氏は語る。また同氏は、ビヘイブがエレウォンの店舗の多くで目標の売上を超えていると続けた。
コロナウイルスの流行のあいだに最初の1年を迎えた若いブランドからすると、「これは過負荷とならずに供給できる、適切な規模の食料品店チェーンだ」と同氏は述べている。
よりカスタマイズされた卸売の関係
創設者たちは、エレウォンのベンダーであることのもうひとつの特典は、パーソナライズされた配慮だと語る。
スリーウィッシュズシリアル(Three Wishes Cereal)の共同創設者であるマーガレット・ウィッシングラッド氏が2019年後半にエレウォンのバイヤーチームに接触したとき、「彼らはシリアルが適切な商品と考えていなかった」と同氏は述べている。スリーウィッシュズは最終的に、同ブランドの創設者たちが個人的にサンプルを届けたあとでエレウォンでの販売を勝ち取り、同社は現在スリーウィッシュズでもっとも高い業績を挙げている小売業者のひとつになった。
現在では、スリーウィッシュズの6つのフレイバーがすべて、エレウォンの拠点で販売されている。そして、フットプリントは小さいが、そのソーシャルリーチから、自社の西海岸での操業に十分な速度が生み出されたと、ウィッシングラッド氏は語っている。「我々は常にほかのバイヤーが新しいものを見つけるためにエレウォンの店内通路を歩いているという話を耳にする」。
「また、バイヤーはブランドと非常に密接に業務を行い、当社はその過程でアントシ家との関係を深めた」とウィッシングラッド氏は述べている。この状況から、新興企業は小規模なビジネスに「大手小売業者のリーチを活かして」取り組める利点があると、同氏は語っている。
またエレウォンは、ブランドに代わって各種のマーケティングキャンペーンを企画し、それにより新興企業はより実績のあるベンダーとも競合が可能だと、ロス氏は語っている。これらのイニシアチブはケアーズ(CARES)と呼ばれるエレウォンのベンダープログラムの一部で、ブランドに対して店内でのデモ、電子メール、循環的マーケティングの支援を行う。
このプログラムの拡張部分の一部はコロナウイルスのあいだにも役立ったと、ロス氏は語っている。店舗内でのサンプリングが減少したとき、スウォーンはエレウォンのバレットブランド(Valet Brands)プログラムに参加できたため、車を駐車させている顧客を選んでサンプルを手渡すことができた。
見えないマーケティングの機会
健康食品を見つけるためのハブとしてのエレウォンの立ち位置は、各ブランドにとって無料のプロモーション源となってきた。
スウォーンのロス氏は、インフルエンサーによるスウォーンの商品について言及したオーガニックポストによる影響を目撃したと述べた。インスタグラムとTikTokでそれぞれ1500万人と1060万人近いフォロワーを持つインフルエンサーのエマ・チェンバレン氏が、エレウォンで購入したスウォーンのピンク色のレモネードについて投稿したことで「ドミノ効果が発生した」とロス氏は述べている。チェンバレン氏の投稿の直後にスウォーンのエレウォンでの売上が増加しただけでなく、同ブランドのウェブサイトでのトラフィックも増加した。ただし、ロス氏は具体的な売上の数値を明らかにしていない。またスウォーンは、買い物客からのソーシャルメディアへの投稿も増加したことを確認している。
ビヘイブのエレウォンでの売上について、シェハタ氏は「ほかのバイヤーやブランドインフルエンサーのあいだにトリクルダウン理論が成立する」と述べている。同氏は、同ブランドがエレウォンで販売された最初の週に、オーガニックな顧客やインフルエンサーによる投稿が急増したと語っている。
同社がエレウォンで販売を行っていることは、より多くのブランドとのパートナーシップを固めるためにも役立った。シェハタ氏は、エースホテル(Ace Hotel)やノイエハウス(NeueHouse)からの代表者がエレウォンで同社のブランドを目にし、接触してきたと語っている。数カ月前にエレウォンで販売を開始してから、同社はスプラウツでも今月販売を開始した。
シェハタ氏は次のように述べている。「当社が多くの注目を集めたのは、エレウォンだけが原因ではない。しかし同社との提携以後、バイヤーとの対話では常に『エレウォン』と言う印籠の存在を感じるようになった」。
[原文:How Erewhon Market became the coveted stamp of approval for CPG startups]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:猿渡さとみ)