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サッポロビール、おやつカンパニーはなぜ eスポーツ に投資するのか?

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eスポーツは日本でも新たなメディアとしての地位を確保できるのだろうか。

eスポーツへのブランドの関心自体は確実に高まっている。国外ではレッドブル(Red Bull)やナイキ(Nike)、BMWといった巨大ブランドが大規模な投資を継続しておこなっており、リアルスポーツが制限された今年は特に注目が高まった。国内でもプレイヤーやオーディエンスの規模は伸長し続け、マーケティングの文脈でeスポーツが言及されるようになりつつあるが、ブランドサイドではeスポーツをどのように捉えているのだろうか。

DIGIDAY[日本版]は国内の事例として、グローバルで高い人気を誇る「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS(PUBG)」の国内eスポーツリーグ、「PUBG JAPAN SERIES(PJS)」を主催するDMM GAMESと、同リーグにスポンサーとして参加するサッポロビール、おやつカンパニーの3社に取材を実施。eスポーツのメディアとしての特性、ブランドが投資をする価値を問いかけた。そこから見えたのは、成長フェーズの市場が秘める可能性と、中長期的な視点と熱量を持って向き合うブランドの「覚悟」だ。

eスポーツ、ゲームへの熱量はあるか

「eスポーツの特性を踏まえると、ブランドのカテゴリーや組織の構造上、(eスポーツへの投資に)向いているブランド、向いていないブランドははっきりとわかれる」と指摘するのは、DMM GAMESのeスポーツプロジェクト室マーケティングマネージャーである豊後祐紀氏だ。「ブランドのなかには今話題になっている、多くの人が集まっているeスポーツに関われば売上が上がる、と単純に考えているところも少なくない。しかし、eスポーツはブランド認知やブランドスイッチといった目的において強いメディアであり、『スポンサーになれば売れる』というものではない」。

オーディエンスの特性も従来のメディアとは異なると豊後氏は語る。「大前提としてオーディエンスは広告を見に来ているわけではない。ただ、時間をかけて自分たちに寄り添ってくれるスポンサーには共感や愛着を持ち、結果として購入にも至る。ともかくブランドが露出すればいい、といったオーディエンスと向き合わないブランドは効果がないどころか、オーディエンスから嫌われ攻撃されるリスクもある」。

SNSでの反応を見るとPJSのオーディエンスはスポンサーに対して好意的だが、これは主催者側がブランドの見せ方を考慮しているのはもちろん、試合の配信中もYouTubeのコメント機能などを通してオーディエンスとコミュニケーションを取るなど、各ブランドの担当者の熱量によるところも大きい。「スポンサーが自分たちにどれだけ向き合ってくれているか、ということをオーディエンスは敏感に感じ取るし、それが投資の結果にも反映される。当然のことながら、eスポーツやゲームに興味を持っている担当者がいないブランドは投資すべきではないだろう」。

「成長が期待でき、投資コストは低い」

ブランドの向き、不向きも一因ではあると思われるが、国内のeスポーツ市場を見回すとゲームと直接のつながりがあるPCや周辺機器のメーカーを除き、eスポーツに深く関わり投資をおこなっているブランドはあまり見当たらないのはなぜなのか。サッポロビールでPJSをはじめとするeスポーツのマーケティングを担当する福吉敬氏は、「短期的なスパンで投資の成果を求められがちなブランドが多いのではないか」と推測する。

おやつカンパニーの取締役であり、マーケティング本部長を務める髙口裕之氏も「予測が立てづらい不確実な時代に長期的な投資には踏み出しにくい」と話す。「経営の観点からするとeスポーツというモーメントが起きていることは理解できるが、これをどのように扱うべきなのかはまだ判然としておらず、投資に対するリターンが想像できない。しかし、マーケティングの観点では、成長の可能性を秘めた市場であることも事実だ。今投資することで、成長したときにその中核にいるブランドになれるかもしれない。今この瞬間の事実だけで判断をするのか、将来的な成長をイメージして投資するのかでブランドのeスポーツへの関わり方は大きく変わる」。

今でこそPJSにおいてオーディエンスから支持されるブランドとなっている両社だが、当初は経営層を含めた社内からシビアな視線を向けられていたはずだ。その「説得」において、将来の可能性以外にも材料は必要になる。その点で両者が口を揃えて指摘するのは、投資コストの低さだ。

「明確な比較対象があったわけではないが、Jリーグの発足当時がそうであったように、コストはかなり安価だった」と髙口氏は続ける。「同時に、もう数年もすればその金額ではすまないという予測もあり、他経営陣のコンセンサスをとった。マーケティングの予算でそれほど大きくない投資コストを賄う形だったことも、納得感につながったのだろう」。福吉氏も「参入コストが低いという点は重要」だと語る。「安定してから参入したのではむしろハードルが上がってしまう。今だからこそ投資コストが抑えられるという事実は説得力がある」。

現時点での「リターン」は?

中長期的な投資であるとはいえ、現時点でなんらかの成果が得られているのだろうか。評価指標については、リーチ数やソーシャルでのブランドの言及数、Twitterのトレンド入りなどが多いとDMM GAMESの豊後氏は話す。「ブランドの担当者はデジタル領域に属していることが多く、どのようなセグメントにどれだけリーチできたのかといったデータで評価する姿勢を取っている。我々もそれに対し、可能な限りのオーディエンスデータやソーシャル分析結果、グッズ販売から得た購買力データなどを提供している」。

効果を測定するためにはブランド側も自社の購買データや消費者データなどを持ち、分析できる能力が求められる。「ポイントカード利用データや独自に収集しているファーストパーティデータとの掛け合わせで分析をおこない、興味深い効果を挙げているブランドもいると聞いている」と豊後氏も語る。

おやつカンパニーの髙口氏は「オンラインでの評判やオーディエンスの反応など、質の面でのエンゲージメントや消費のパターンなど定性的な効果は見えつつある」としつつ、続ける。「eスポーツというマーケットが顕在化してまだ数年であり、変化の速いデジタルの世界とはいえ、まだ定量的なリターンが出てくるとは期待していない」。

一方、サッポロビールの福吉氏はGoogle Analyticsを利用しある程度の定量的な効果を見出しているという。「PJSの試合が配信されているタイミングではゲームカテゴリーのアフィニティが上昇し、試合がないときには変化がない。つまりeスポーツを通じてサッポロビールへの熱量や興味が上昇し、サイトへの流入も生み出している。ゲームとの接点はeスポーツ以外になく、投資がエンゲージを生んでおり、いずれ回収できる可能性も示していると見なせる」。

PJSでは定期的にオーディエンスに対してアンケートを実施しており、ブランドに対する購入意欲や認識変化を計測していた。「かなりの数のオーディエンスが熱心にブランドを支持するコメントを寄せてくれている。社内では『プロ野球でもこんなデータは出ない』という反応が返ってくるほどだ。投資金額としては高額ではないが、早いフェーズから参入しているからこそ築けた関係だ。これが10〜20年続けば、eスポーツも我々が30年以上継続して協賛している箱根駅伝のような存在になり得る」。

eスポーツのならではの価値

今やデジタルにおけるメディアやチャネルは膨大な数になっており、比較的安価な投資でそれなりの効果が得られるプラットフォームも多数存在する。にも関わらず、あえてeスポーツという存在に投資する意味はどこにあるのだろうか。「コンテンツをユーザーが簡単に切り替えられる現状で、限られた手段しか利用しないのはいい戦略だと思えない。複数同時並行がデジタルの常識であり、FacebookやTwitterなど一部の先行メジャーがすべてではないはずだ」と髙口氏は指摘する。「メジャーとマイナーという考え方はしていない。網羅的に投資し、結果を見てアロケーションを見直せばよく、初手を絞り込む必要はない。だからこそeスポーツもチャレンジできるのならしたほうがいいと言える」。

福吉氏は「eスポーツへの投資はコンテクストマーケティング」だと語る。「試合はアーカイブされることが前提であり、広告の観点から考えてもバナー広告やSNSのような瞬間的な存在と本質的に異なる。eスポーツに投資し配信される試合のなかで人や商品が登場することで、そのコンテンツは繰り返し見られる可能性がある。蓄積されるものはそれだけ価値も上がっていくが、瞬間に消費されるものにはそれがない。ファンの深さや響き方、残り方という意味で、eスポーツにはほかにはない価値がある」。

試合の配信やオーディエンスのコメント、Twitterの投稿などで商品やブランドが言及され、支持されていくという現象自体は小さなことではある。だが、その積み重ねとその先に予想される市場の拡大がeスポーツのマーケティングの意味だろう。髙口氏はリアルスポーツの場で商品が購入され、ファンにブランドが認知されている状況に例える。

「仮にPUBGのオーディエンスの7割が、観戦の傍らに必ず黒ラベルとベビースターを持っているという状況になれば、ひとつの市場が成立したと言える。さらに別のゲームタイトルでも同じ状況になり、その数が増えていけばそれなりの規模を持った市場が、eスポーツというカテゴリー全体のなかに生まれる。その大きな市場のなかで黎明期からオーディエンスとともに歩んだブランドの存在感がどれほどのものになるか。マーケターの感覚として、面白い分野だと考えている」。

Written by 分島 翔平