ミシュラン星付きレストランのシェフ御用達として知られる、手作り陶器ブランドのジョノパンドルフィ(Jono Pandolfi)は、コロナ禍の影響を受けD2Cモデルを構築。収益全体が大きく伸長している。
飲食店という安定した顧客獲得の場に依存していた卸売業者たちは、目下シフトチェンジに忙しい。
この3月、高級レストランは軒並み休業に追い込まれ、多くの納入業者への発注もキャンセルされてしまった。しかし、納品先をなくしたのは食品卸に限らない。ミシュラン星付きレストランのシェフ御用達として知られる、手作り陶器ブランドのジョノパンドルフィ(Jono Pandolfi)への注文も、この時期、すべて取り消された。
そこで同社は、工房で働く職人の大半を3月に一時解雇。新しいビジネスモデルへの転換に着手した。「すべての作業を中断し、直ちにD2C事業の再構築に集中した」と、同社の経営を担うニック・パンドルフィ氏は語る。ジョノパンドルフィは現在、「家庭でプロ顔負けの料理を作る人々」をターゲットに、1点15ドル(約1500円)から150ドル(約1万5000円)ほどの価格帯で、プレート、ボウル、飲料用食器などを販売することに注力している。
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収益全体が400%近く伸長
2004年の創業以来、ジョノパンドルフィは売上高の75%から80%近くを、フォーシーズンズ(the Four Seasons)、ウォルドーフアストリア(Waldorf Astoria)、ザ・ノーマッド(The NoMad)など、ホスピタリティ業界の大口顧客に依存してきた。残り20%は、消費者への直接販売による売上だ。このビジネスモデルによって、同社は直近の2年間で年率50%の成長を遂げ、生産規模を拡大してきた。さらに、ここ数年は、ダニエル・フム氏やジャンジョルジュ・ヴォンゲリスティン氏ら、著名なシェフとのコラボレーションを通じて、カスタムディナーウェアのカタログ販売を構築してきた。
卸売販売の低迷から8カ月が経つ現在、オンラインでの売上は前年比で3倍に増加し、収益全体も400%近く伸長。また、売上の回復により従業員の職場復帰も可能になったという。実際、ジョノパンドルフィは、5月から段階的に17人の職人を工房に呼び戻し、需要増に対応している。だがこの数カ月同社は、飲食店への納入業者から自己資金で運営するD2Cブランドへの転換を図る、いわば短期集中コースのような日々を過ごしていたという。
コロナ禍の勃発以前、「我々の戦略は、低マージンで飲食店に商品を卸すというものだった」とパンドルフィ氏は述べている。飲食店はマーケティングチャネルとしても機能していた。レストランの客が皿を裏返してブランド名を確かめ、インスタグラムでフォローするという流れが、D2C販売に貢献していたのだ。
新しいツールへの投資
いまも、高級レストランの大半が、営業再開の目処が立たないなか、新しい顧客の開拓には新しいデジタルツールへの投資が不可欠だ。
同社の事業転換は、当時利用していたWebサイト構築のプラットフォーム、スクエアスペース(Squarespace)をショッピファイ(Shopify)に切り替え、受注量の管理を改善することから本格的に始動したという。消費者に直接販売するチャネルに対する好反応は、非常に勇気付けられるものではあったが、B2Bから消費者と直接向き合う事業への転換には、多くの軌道修正が必要であったと、パンドルフィ氏は振り返る。
たとえば、工房側が抱える最大の課題のひとつは、消費者の利便性と環境への配慮から、梱包と出荷の工程を全面的に見直すことだった。「これまで、個人客向けの梱包に気を配ることはあまりなかった」と、パンドルフィ氏は打ち明ける。トラックで輸送するためのパレット積みとは異なり、個々の顧客が購入した陶器を安全に梱包し、全国の家庭に届けなければならない。
D2Cチャネルの構築
D2Cは、ジョノパンドルフィにおいて以前から常に事業の一部ではあったが、それはあくまでも二次的な販路でしかなかった。ほとんどの場合、消費者向けの企画は他ブランドとのコラボレーションが中心で、代表的な例としては、料理好きが集まる料理動画メディア、フード52(Food52)とのコラボコレクションが挙げられる。また、直近では、生活雑貨を扱うD2Cブランドのパラシュート(Parachute)と提携を結び、昨春からコラボ商品を販売しているという。
マーケティングに関していうと、同社はFacebook広告を緩やかなペースで試験的に運用している。というのも、工房の生産能力を考え、急激な需要増を招きかねない有料の広告活動は、抑えなければならないからだ。「我々は、ベンチャーキャピタルの支援を受けるスタートアップではなく、ひとつひとつの商品を手作りしている。拙速に人員を増やすことには消極的だ」。
パンドルフィ氏によると、現在展開している消費者向けの製品ラインは、料理上手の一般人をターゲットに、「イケアのお皿はやめにして、ご家庭の食器をグレードアップしませんか?」というアプローチで売っているという。たとえば新製品の発酵食品用の壺は、ボナペティ(Bon Appétit)誌の元キッチンマネージャー、ブラッド・レオーネ氏とのコラボ企画で、パン作りの愛好家をターゲットにしている。これらインフルエンサーを軸にした取り組みは、主にブランドの知名度を上げるための施策だとパンドルフィ氏は説明している。
ここ数カ月のあいだ、ジョノパンドルフィは卸売での減収を「補って余りある」収入を稼ぎ出し、オンライン販売の売上高は前年比で30%近く増えている。「しかも、マージンが卸売よりはるかに大きい分、儲けも大きい」とパンドルフィ氏は語る。たとえば、小売で48ドル(約5000円)のオードブル用クープ皿の場合、飲食店への卸値は約28.50ドル(約3000円)だ。同氏によると、「まだFacebookやインスタラムで広告投資もしていないため、その差額は純利益になる」という。
家庭用品の好況に便乗する
いまや、ジョノパンドルフィをはじめ、多くのブランドがこぞって家庭にフォーカスしたD2Cチャネルの強化に力を注いでいる。「目下、料理好きな消費者をめぐって、争奪戦が繰り広げられている」と指摘するのは、コンサルティング会社のコンドラートリテール(Kondrat Retail)の創業者、レベッカ・コンドラート氏だ。ここ数カ月、フード52に限らず、ホームデポ(Home Depot)やロウズ(Lowe’s)のような小売企業も含め、誰もがインテリア小物や生活雑貨といった家庭用品の急激な売上増に着目し、関連するコンテンツの作成に全力を傾けている。
ジョノパンドルフィのようなニッチなブランドでさえも、この機に乗じて売上を伸ばそうと躍起だ。「D2Cへの事業転換は、家庭用品およびその隣接業界の好況から、大きなビジネスチャンスをつかみ取ろうという動きの一端だ」とコンドラート氏は語る。同氏いわく、中小企業はそこに多くの顧客の存在を見い出しつつある。「また、卸売では顧客のデータが見えにくいが、消費者に直接向き合うチャネルは、将来的な投資やチャネルミックスを検討するうえで、判断材料となる情報をもたらしてくれるだろう」。
高級陶器ブランドのジョノパンドルフィにとって、このような機会を活かすためには、最新のデジタル技術を取り入れ、新しいタイプの人材を雇用する必要がある。パンドルフィ氏によると、「自分たちの顧客がどこから来るのか突き止める」ため、特定の期間限定でふたりのスタッフを採用。マーケティングディレクターも雇用し、さらに現在、データアナリスト1名を選考中だ。サイトのリニューアルも計画しているという。このような取り組みを通じて、理想的な顧客を見極め、ターゲットの絞り込みを図りたい考えだ。「皿1枚を買った顧客が、なぜひと月後にまた来て商品を買ってくれるのか。その理由を知ることが重要だ」とパンドルフィ氏はいう。
ビジネスの中核は変わらない
多くのレストランが新しい環境への適応を模索するなか、ビジネスチャンスを包含した新たな世界が形成されつつある。それでも、高級レストランがジョノパンドルフィのビジネス領域から外れることはない。「レストランが我々のビジネスモデルの中核であり、主要な納入先であることに変わりはない」と同氏は語る。高級レストランは、少なくとも重要なマーケティングチャネルである。
とはいえ同社は、D2C事業の成長にともない、提携先のレストラン選びは慎重に行うようになるかもしれない。「窯に火を入れられるのは1日1度きりだ」。
[原文:How dinnerware brand Jono Pandolfi captured a new DTC market]
GABRIELA BARKHO(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)