コロナ禍のさなか、デニムブランド各社はラウンジウェアや快適な着心地をアピールし、売上の大部分をeコマースで上げることで、実店舗の売上減少の一部相殺を図ってきた。だがいま、各社は新しいシルエットや、サステナビリティ(持続可能性)にフォーカスしたコレクションで、消費者の心をつかむ戦略に方向転換しつつある。
米国でコロナ禍に伴う規制が緩和されるなか、デニムブランド各社はデニムをはじめとする「ハードパンツ」への回帰に向けて、準備を進めている。
コロナ禍のさなか、デニムブランド各社はラウンジウェアや快適な着心地をアピールし、売上の大部分をeコマースで上げることで、実店舗の売上減少の一部相殺を図ってきた。しかし、規制も緩やかになり、ブランド各社は新しいシルエットや、サステナビリティにフォーカスしたコレクションで、消費者の心をつかむ戦略に方向転換しつつある。彼らのあいだでは、外出の機会が減った1年を過ごした消費者らが、そろそろ実店舗を訪れ、ワードローブを新調したくなる頃だという期待が広がっている。
コロナ禍で、米国のアパレル業界はレストランやバーよりも大きな痛手を被った。米国の国税調査局によると、2020年3~5月の同業界の売上高は前年同期比で67%減まで落ち込んでいる。アスレジャー系の小売業は好調を維持する傾向も見られるが、なかでもデニムを主力商品とする小売業の低迷が目立つ。たとえばリーバイス(Levi’s)は、2020年第2四半期の業績発表で62%の収益減を明らかにしたほか、ラッキー(Lucky)とジー・スター(G-Star)は7月に破産申請を行った。
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デニムブランド、ペイジ(Paige)の共同創業者であるペイジ・アダムズ・ゲラー氏は、コロナ禍発生時のことを以下のように振り返る。「直ちに売上に影響が出た。創業以来最高の年が、世界とペイジにいきなり休止と恐怖をもたらした」。
2020年の目立った傾向
コロナ禍中、アスレジャー系のブランドが、比較的成功している状況を目の当たりにした多くのブランドは、デニムからフリースやスウェットへの方向転換を推進。規模にかかわらず、アスレジャーラインをはじめて手掛けたり、既存のアスレジャー系商品を積極的に売り出したりするようになった。たとえばリーバイスは、デニムのレッド・タブ(Red Tab:赤タブ)から名前を取った、レッドタブ・スウェット(Red Tab Sweats)を発売。メイドウェル(Madewell)は、メイク・ウィーケンド・ロンガー(Make Weekends Longer:週末を長くしちゃおう)というおどけたネーミングのアスレジャーラインをリリースした。デザイナーブランドですら、かつてのハイファッションジーンズから、カシミアやラウンジウェアへの方向転換を図るケースが見られる。
これら多くのブランドが目指すのは、快適でありながらスタイリッシュで、コロナ禍の(制約がある)ライフスタイルに合わせて着用できる商品の提供だ。ペイジでも、ルーズフィットなデニムの「ウィークエンダー」ラインや、通常のデニムよりも柔らかい生地を使った「トランセンド」ラインのパンツの売れ行きが伸びているという。
また、eコマースに注目が高まった点も、2020年の目立った傾向として挙げられる。「ブランドとして、私たちはすでにeコマース市場でフットプリントを拡大しつつあった。コロナ禍のもとでは、Webサイトとアプリの両方で一層のテコ入れを図り、特に若い消費者から好評を得ることに成功した」と語るのは、リーバイスのブランドプレジデントを務めるジェン・セイ氏だ。同社は2019年末に、デジタル資産への投資拡大戦略の一環として、モバイルアプリをリリースしている。
ニューノーマルの新トレンド
そして、世界が新たな日常を迎えつつあるいま、過酷な1年を経たブランド各社は新たなトレンドを目の当たりにしている。
そのひとつがルーズフィットパンツの盛り上がりだ。ルーズフィットを求める声は高まっており、一部のファッションサイトも冗談交じりに「スキニーデニムは終わった」と宣言している。
ただ、市場調査会社のNPDは、スキニーデニムは従来通り今後もデニム市場において34%という最大のシェアを維持するというデータを示している。NPDのアパレルアナリストを務めるマリア・ルゴロ氏は次のように分析する。「スリム、リラックス、バギーといった多彩なスタイルのデニムが市場でシェアを伸ばしつつある。背景には、マムデニムやボーイフレンドデニムの人気、80~90年代ファッションの復活がある。とはいえ、市場全体で考えればそのシェアはまだ小さい」。
しかしリーバイスでは、スキニーデニム離れの傾向が見えはじめているという。ペイジでも、目下人気があるのはストレートデニムだ。
リーバイスのセイ氏は次のように述べる。「レディースに限定していうと、スキニーデニムはまだ重要な役割を果たしており、売上の約半分を占めている。ただし、約5年前のピーク時の60%以上からはやや下がっている。現在はルーズフィットがもっとも成長著しいシルエットで、男女を問わず人気があり、特にZ世代に好評だ」。
コロナ後の売上拡大要因
なお、リーバイスはサステナビリティにも焦点を当てており、5月中にもミュウミュウ(Miu Miu)とコラボレーションし、新たにアップサイクルデニムを発売する計画だ。セイ氏によれば、リーバイスは2021年「良いものを長く着ることを消費者に促していく」方針だという。その一環として、中古品を安く販売し、商品のリユースを促進するプラットフォーム、リーバイス・セカンドハンド(Levi’s Secondhand)も立ち上げた。
コロナ禍による消費者の体重変化も、コロナ後の売上拡大を後押ししている。消費者が、ワードローブを新たなサイズに合わせて新調するからだ。NPDの最近のブログ投稿でルゴロ氏は、コロナ禍でサイズが変わった女性は40%に上るとしている。
アダムズ・ゲラー氏は、サイズの変化を気にかけ、流行のシルエットにも敏感な消費者が、米国の大都市にあるペイジの全16店舗に戻ってきていると指摘。
「不安に駆られた女性が、『流行遅れだと思われたくない。新しいデニムを買わなくちゃ』とか、『コロナで太ったから、サイズが上のデニムに買い替えなくちゃ』となるのは珍しくない。そうした女性客が実店舗を訪れ、お気に入りのデニムを買い替え、新しいシルエットを買い足している」と同氏は説明した。
「希望は大いにある」
こうしたさまざまな傾向を背景に、デニムブランド各社は、少なくとも2021年は2020年よりましな年になるだろうと期待をかけている。リーバイスは第1四半期の業績発表で、収益および利益見通しを上回ったこと、第4四半期までにはコロナ禍前まで売上が回復する見込みであることを明らかにした。ただし収益については、世界市場で店舗の一時閉鎖が続いていること、観光客の減少が一部の店舗売上に影響を及ぼしていることを理由に、13%減にとどまっているという。
それでも、「希望は大いにある」とアダムズ・ゲラー氏は締めくくった。
[原文:How denim brands are gearing up to win back sweatpants converts]
Maile McCann(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)