これまでのところ、ファッション業界における暗号通貨に関する会話の中心はNFTだった。しかし、ほかのイノベーションも同業界に与える影響ゆえに注目を集め始めている。なかでももっとも注目すべきは、ファッション業界の新しい機能方法を提示するDAOだろう。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
これまでのところ、ファッション業界における暗号通貨に関する会話の中心はNFTだった。しかし、ほかのイノベーションも同業界に与える影響ゆえに注目を集め始めている。なかでももっとも注目すべきは、ファッション業界の新しい機能方法を提示するDAOだろう。
Advertisement
DAO(分散型自立組織)とは
DAO(分散型自律組織)は、暗号コミュニティから生じた、民主化されたガバナンスを備えたデジタルコミュニティだ。そして、DAOにはファッションを大変革する用途を持つ可能性がある。ファッション業界がインターネットの次の段階であるWeb3にいっそう関与するにつれて、DAOはガバナンスの次の段階を形成し、ゲートキーパーに大きく依存している現在の業界階級を刷新する可能性を持っている。DAOはコミュニティの中で共創したい人たちのグループによって形成され、人々は一丸となって、自分の持つ個々のトークンの価値と共有のDAOの価値を高めたいと考えている。DAOの可能性は相互の意思決定が有益であるほかの分野にまでおよんでいるが、メンバーらは協力して投資を行う。また、DAOも自律的であり、一元化されたガバナンス構造の外部で機能する。DAOはメンバー全員が開発したスマートコントラクトによって管理されている。
インスタグラムやメタ(Meta)のような企業は、コンテンツを制作し続けるために(インスタグラムやメタの)プラットフォームを使っているコンテンツクリエーターにいっそう依存するようになっており、ファッション業界の影響力と権力は変化しつつある。DAOによって可能になった、コミュニティを通じてプラットフォームを民主化して管理するというアイデアは、ファッション分野がそのようなコミュニティのひとつによって管理されることにつながる可能性がある。しかしこのアイデアに対してはまだ反発が存在する。
デジタルファッションに関与するDAO
メーガン・カスパー氏は、デジタルファッションの購入にフォーカスしているDAOであるレッド(Red)DAOのメンバーだ。同グループは、昨年、ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)NFTローンチで多くの作品を購入して、一気に知られることとなった。元帳によると、レッドDAOは現在、口座に約1500万イーサリアム(約4.2兆円)を保有している。カスパー氏はこう述べている。「レッドDAOは、デジタルファッションとビューティにおける機会を予見した、志を同じくする個人や企業のグループによって設立された。会社の定款、ガバナンス、構造は、我々が合法的に組織を形成したときに決定されて、イーサリアムブロックチェーンにプログラムされた」。メンバーはデジタルファッションの収集に対する関心を共有しており、デジタルファッションプラットフォームのディス・アウトフィット・ダズ・ノット・イグジスト(This Outfit Does Not Exist)の創設者のダニエル・ロフタス氏や、データデザイナーのカティヤ・コバレンコ氏が参加している。
レッドDAOは幅広い用途にフォーカスする長期的なコミュニティになることを目指しているとカスパー氏は述べているが、野球チームの購入や、すぐに清算する予定の資産への投資など、単一の目的にもDAOを使用することはできる。しかし、デジタルアイテムの永続的なコレクションを作り上げるために暗号通貨をプールするというアイデアは、DAOが果たすことができる唯一の目的である。現時点では、DAOの多くはインフラストラクチャーに関してはまだ初期段階にある。市場は、DAOを立ち上げるためにもっと多くのツールを受け入れる準備ができている。カスパー氏は、暗号構造についてまだ慎重な姿勢をとる人たちがいることを認めているものの、デジタル化された市場には機会があると考えている。
シンプルなDAOを立ち上げるためのフレームワークであるトリビュートラボ(Tribute Labs)は、レッドDAOの設立を支援した。また、トリビュートラボは、デジタルストリートウェアブランド、RTFKT(アーティファクトと発音)ともネオン(Neon)DAOで協働。RTFKTはメタバースとデジタルファッションの買収を中心にしており、最近ナイキ(Nike)の傘下になった。現在、トリビュートラボは約2000万イーサリアム(約5.6兆円)を管理している。
上にあげたような用途は、勢力均衡が揺れ動く関係にあるクリエイターや組織に対してDAOができることのほんの手始めにすぎない。たとえば、DAO内でのコミュニティの投票は、デジタルインフルエンサー第1号であるリル・ミケーラ(Lil Miquela)というキャラクターがどう進化するかを決めるものであった。現在、リル・ミケーラは、NFTスタートアップのダッパー・コレクティブズ(Dapper Collectives)に所有されている。
DAOとファッション業界の未来
ブロックチェーンに注力しているスイスの非営利団体、NEAR財団(NEAR Foundation)のCEO、マリケ・フラメント氏は、DAOのコミュニティのアプローチにおける機会を指摘している。「大規模なDAOでは機能は異なるかもしれない。全員がそれぞれ役割を担おうとして、あるDAOでは主導権を握っていろいろ提案したい場合もあれば、ほかのDAOでは投票権を持ち投票だけをしたいと思う場合もあるだろう。(DAOで)素晴らしいのは、関与しているDAOに応じて担う役割をほとんどの場合は選べるという点だ。これは、マネージャーや部門の層を経由しなければならない従来の企業構造ではなく、意思決定を行う方法を再分散するものだ」。
ファッションにおけるDAOの機能について、カスパー氏は、ファッション業界の管理方法や意思決定方法が変化していることで明るい未来を見込んでいる。「DAOは、不変性、透明性、分散化などのブロックチェーンテクノロジー機能を使った新しい形態の企業構造だ。DAOは、経済学でいえば企業構造2.0であり、利害関係者の間の透明性なくしては変えることができない定款に対して完全に透明な構造になっている」。
ファッションのサプライチェーン内で透明性を実現することは、業界の内部関係者の間でこの1年間の大きな論点のひとつだった。DAOは、(DAOの)口座全体と利害関係者間の完全な透明性を実現し、暗号空間内で情報が自由に行き来することを可能にする。一業界としてのファッションは依然として暗号空間には慎重であるが、ファッション業界が抱えている問題の多くは透明性の欠如とリソースと機会の管理における締めつけから生じている。そのオペレーションとガバナンスを変革しないことには、ファッション業界がWeb3の成長速度に合わせて対応することはできないだろう。
[原文:How DAOs could change the fashion industry]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)