クランブル・クッキーズ(Crumbl Cookies:以下、クランブル)は、ちょうど4年でユタ州の質素なクッキーショップからデジタル統合されたチェーン店に成長し、TikTokとAppleのアプリストアの両方を席巻している。
クランブル・クッキーズ(Crumbl Cookies:以下、クランブル)は、ちょうど4年でユタ州の質素なクッキーショップからデジタル統合されたチェーン店に成長し、TikTokとAppleのApp Storeの両方を席巻している。
2017年、クランブルはユタ州ローガンに1軒の店舗をオープンし、チョコレートチップクッキーのみを販売しはじめた。以来、フランチャイズモデルを採用する小売企業として30州220店舗まで拡大(2021年中にさらに50店舗をオープンする予定)。クッキーのフレーバーも4年間で140種類を超え、メニューを定期的に変えるようになった。
アップアニー(App Annie)によれば、クランブルのアプリは1日当たりのダウンロード数でフード/ドリンク部門の上位にランクインしており、ファストフードチェーン最大手のサブウェイ(Subway)、食料品配達のスター企業インスタカート(Instacart)と競っている。同ブランド成功の鍵はどこにあるか。それは、フレーバーをローテーションさせるモデル、ソーシャルメディアへの精通、そして、あらゆるタッチポイントにおけるデジタル統合への取り組みである。
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クッキーのハイプサイクル
クランブルは食品飲料業界の伝統的なモデルではなく、スニーカーブランドの戦略に倣い、限定クッキーをローテーションすることでハイプサイクルを作り出している。毎週日曜日、キーライムパイからレッドベルベットまで、翌週の新フレーバーを4つ発表する。そして、人気度にかかわらず1週間で販売を終了し、翌週、また4つの新しいフレーバーを販売するといった具合だ。
同社のCOOで共同創業者のソーヤー・ヘムズリー氏は「トレーニング、品質保証、調達など、週替わりのメニューには間違いなく運営上の課題がある。しかし、我々は顧客のためにそれを克服しようと考えている」と話す。「毎週新しいメニューを提供することで、顧客からフィードバックを得ることができる。そして、内容の良し悪しにかかわらず、ソーシャルメディアは彼らがフィードバックを伝えるためのプラットフォームになる」。
このモデルのおかげで、毎週すべてのフレーバーを試すファンも現れ、クランブルは4種類すべてが入ったボックスの割引販売もスタートしている。
インフルエンサーやファンが自ら拡散
ソーシャルメディアインフルエンサーのケルシー・フレイム氏は「4つのフレーバーに限定して、それをローテーションするというのは、素晴らしいマーケティング戦術だ。消費者をワクワクさせることができる」と話す。「一つひとつのクッキーが特別に感じられるため、消費者はなくなる前に急いで買わなければという気持ちになる」。
フレイム氏は、自身のTikTokアカウント@thehungryfoodieで、友人と車内ですべてのクッキーを味見するレビュー動画を公開。再生回数は100万回を超え、20万2000の「いいね(当時)」を獲得している。またフレイム氏と同様、何千人ものインフルエンサーがTikTokにこうしたレビュー動画を投稿しており、#crumblが付いた動画は合わせて1億5500万回再生されているという。さらに、クランブルに特化したアカウントを持つTikTokインフルエンサーもいる。もっとも人気があるアカウントは@Crazy4crumblと@crazycrumblcousinsで、毎週レビューを投稿したり、ケータリングしたクッキーでパーティーを開いたりしている。
そして何よりも特筆すべきは、クランブルはこうしたインフルエンサーに報酬を支払っているわけではないということだ。クランブルのPR担当者アニー・ティビッツ氏は、インフルエンサーとのコラボレーションには「まったく投資していない」と述べている。
Reddit(レディット)でも、ファンたちが膨大な時間を費やし、フレーバーリストをまとめたり、次のフレーバーを予想したりしている。一方インスタグラムでも、そのビジュアルの良さから多くの注目を集めている。
「まさにインスタグラム向きだ」とフレイム氏は話す。「彼らは、Z世代の関心を考慮されている」。
ブランドによる、ソーシャルメディアでの成功事例の多くはユーザーによる拡散でオーガニックに生まれたものだ。しかしクランブルは、自身のアカウントも活用し、関心を拡大させている。たとえば同社は、毎週日曜日になるとインスタグラム、TikTok、Twitterで新メニューを発表する。最新の発表を例に挙げると、TikTokで15万3000、インスタグラムで8万の「いいね」を集めている(当時)。TikTokのフォロワー数は120万人を超え、同業他社を大きく引き離し、ナイキ(Nike)のようなブランドに近づいている。同社のフォロワー数は現時点で約150万人だ。
デジタルファーストな考え方
クランブルのソーシャルメディア戦略は、eコマースへの投資と同時進行している。同社は2018年にモバイルアプリをリリースし、この1年間で25回もアップデートを行っている。たとえば、2020年6月にはカーブサイドピックアップとアイスクリームのデリバリー、9月にはロイヤルティプログラムとそれに付随する機能を追加。常連客が大量のポイントを獲得できるようになった。そして11月にはケータリングサービスを開始し、パンデミック後に向けて豊富な種類のクッキーをまとめて注文できるよう、準備を整えた。また同社は、ホリデーシーズン直前には、デジタルギフトカードを発売したり、2021年に入ってからは、レストランが再開されているにもかかわらず、デリバリーへの関心が依然として高いため、配達状況の追跡機能をアプリに追加した。
アプリ分析企業センサータワー(SensorTower)のアナリスト、ステファニー・チャン氏によれば、クランブルのアプリダウンロード数はパンデミック中に増加し、「5月は本当に急増した。4月は13万6000インストールだったが、前月比121%増の30万1000インストールにも及んでいる」。
「クッキーのスタンドアロンアプリを持つという戦略はかなりユニークだと思う。同社にもっとも近い競合相手は、2014年6月にアプリをリリースしたインソムニア・クッキーズ(Insomnia Cookies)だろう」とチャン氏は話す。「インソムニアも昨年のパンデミック中にインストール数が増えたが、今年はクランブルのような急増は見られていない」。
「非日常性」をいかに醸成するか
PwC米国法人で、消費財部門のリーダーを務めるサムラート・シャルマ氏によれば、一般的に食品や飲料ブランドは、ほかの業界に比べてデジタル統合が大きく遅れているという。
「食品や飲料業界のeコマースへの投資は、化粧品やペット、パーソナルケアといった他業界よりはるかに少ない」。PwCとストラテジー(Strategy)による分析では、2020年5月の時点で、オンラインで加工食品を購入しているのは米国の世帯のわずか11%、飲料も13%にすぎなかった。
しかし食品や飲料の領域でも、クランブルのような「専門的で贅沢な食品」を提供するブランドおいては、デジタル統合と独自流通を用いた取り組みが反響を得ていると、インサイトを提供するRMSのシニアマネージャーとして消費財の分析に携わるピーター・カディガン氏は述べる。
「大手消費財メーカーのほとんどは、何らかのD2Cモデルを立ち上げているが、クランブルのように、それがビジネスの大きな部分を占めているわけではない」とカディガン氏は続ける。「というのもこうした企業は、高い付加価値がある商品を展開したり、そう思わせるようなコミュニケーションを実施できていない。本来D2Cモデルは『非日常的』な購買に適しているにも関わらずだ」。今後、カディガン氏が指摘するようなポイントはさらに重要になってくるだろう。
また、前述したシャルマ氏は以下のように述べる。「結局ブランドがやるべきは、顧客がいる場所に赴いて彼らと接点を持つか。そしてどうブランド体験を伝えるかに尽きる」。
[原文:How Crumbl Cookies took over TikTok]
MAILE MCCANN(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)