チポトレは7月25日、20万ドル(約2630万円)相当の仮想通貨が当たる新しいオンラインゲームを発表した。仮想通貨をゲーム化したり、配ったりしているブランドは、チポトレだけではない。こうした取り組みは、仮想通貨トレンドに乗り遅れたわけではなく、ロイヤルティ向上戦略においての有用性の高さを示している。
暗号資産(仮想通貨)の価格より長持ちしないのは、もはやアボカドくらいかもしれないという状況だが、米メキシカンファストフードのチポトレ(Chipotle)はそれでもなお、人々に「buy the dip(直訳すれば「ディップを買え」だが、押し目[相場の一時的な下落]を買えの意味もあり)」の手段を提供しようとしている。
チポトレは7月25日、20万ドル(約2630万円)相当の仮想通貨が当たる新しいオンラインゲーム「Buy The Dip(バイ・ザ・ディップ)」を発表した。仮想通貨市場で続く下落局面に引っかけたようなネーミングだ。米国時間7月31日までプレイ可能なこのゲームでは、ビットコイン(Bitcoin)、イーサリアム(Ethereum)、ソラナ(Solana)、アバランチ(Avalanche)、ドージコイン(Dogecoin)などの仮想通貨のほか、ワカモレやケソなど、本物のディップを賞品として獲得できるチャンスがある(チポトレは2021年にも、「Burritos or Bitcoin[ブリトー・オア・ビットコイン]」というゲームを通じて10万ドル[約1320万円]を配った。同ゲームは、コードを解読すると、ビットコインかブリトーが当たるという内容だった)。
仮想通貨をゲーム化したり、配ったりしているブランドは、チポトレだけではない。バーガーキング(Burger King)は2021年にロビンフッド(Robinhood)と提携し、同バーガーチェーンのアプリ内で5ドル(約660円)を使った人に、ビットコイン、イーサリアム、ドージコインをプレゼントした。また、NFLのスター選手アーロン・ロジャース氏が、キャッシュアップ(Cash App)を通じて100万ドル(約1億3200万円)相当のビットコインを配った例もある。また、FTXやブロックファイ(BlockFi)のような仮想通貨を取り扱う業者では、仮想通貨のプレゼントが人々に口座を開設させる戦術として用いられており、偽のプレゼント企画は詐欺の手口にもなっている。
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ゲーム人気をいかに活用するか
ふざけたネーミングの「Buy The Dip」だが、チポトレはこれ以外にも、様々な形式のゲームを通じたマーケティングを試みる戦略をとっている。オンラインプラットフォームのロブロックス(Roblox)内でも、いくつかの体験を提供しており、2021年秋には、仮想のコスチュームやアイテムが登場する仮想のハロウィン迷路、そして2022年には、仮想のブリトーを巻いた人に、現実世界で無料のブリトーを計10万個プレゼントする仮想店舗を展開している。
チポトレの最高マーケティング責任者、クリス・ブラント氏によると、これらのゲームは予想を超える人気を博しているという。前回の仮想通貨プレゼントでは、約400万人のユニークビジターが2600万回プレイし、ロブロックスのゲームでは、約700万人が数千万回プレイした。「我々は、Z世代以降の若い世代や、テクノロジーやデジタルになじんでいる人々のファンダムを確実に固めたいと考えている」とブラント氏は述べている。
ロブロックスやオンラインゲームと並んで、チポトレはここ数年、eスポーツにも実験の手を伸ばしている。2020年には、100シーブス(100 Thieves)のCEO、マット“ネイドショット”ハーグ氏やTwitch(ツイッチ)ストリーマーの“ブルックAB”氏とコンテンツやメニューでパートナーシップを組むなど、人気組織との連携を開始した。
チポトレは、モバイルデバイスで遊ぶソリティアからフォートナイト(Fortnite)まで、長年にわたって進化してきたゲームの人気に目をつけた。「ゲームは誰もが遊んでいる」とブラント氏はいう。
チポトレのゲームを通じた取り組み
- 仮想通貨とディップが当たる「Buy the Dip」(「Burritos or Bitcoin」に続くゲーム)、ロブロックスのハロウィン迷路、ブリトーを巻く仮想店舗、100シーブスのCEOやTwitchストリーマーなどとのeスポーツ体験。
- 効果:ゲームに数百万人のユニークビジターが訪れ、チポトレのロイヤルティプログラム(現在2900万人強)の新規会員を獲得。
持続的な関係を構築するプロモーション
ゲームはチポトレにとって、大規模なロイヤルティプログラムに加入する顧客を集める手段にもなっており(ゲームをプレイするにはロイヤルティプログラムへの登録が必要)、ブラント氏によると加入者は現在2900万人を数えるという。ロイヤルティプログラムのファーストパーティーデータを通じて、チポトレはメッセージやオファーをパーソナライズすることができ、また、サードパーティデータが有効でなくなりつつある現在、消費者に直接リーチするのに役立つ。
ブラント氏によると、ここ数年のメディア価格の高騰は「驚くほど」で、そのため同社は以前購入していた高額なテレビ広告を避け、代わりに様々なプラットフォーム上の安価なチャネルを選択するようになったという。ただし、その具体的な金額は明らかにしなかった。
チポトレの年次報告書によると、同社は2021年に、広告、マーケティング、プロモーションに計2億2210万ドル(約292億3700万円)を費やしており、2019年の1億6880万ドル(約222億2000万円)から増加、2020年の2億2220万ドル(約292億5000万円)とほぼ同額となっている(これには商品プレゼントのコストも含む)。なおメディアレーダー(MediaRadar)によると、デジタル、印刷、全国テレビを合わせた2021年の総広告費は1億ドル(約1億3200万円)未満だった。
コンステレーション・リサーチ(Constellation Research)のバイスプレジデント兼アナリスト、リズ・ミラー氏によると、仮想通貨プレゼントは、すでにその価値を見いだしているか、「仮想通貨に興味がある」顧客からの注目を集めることが多い。しかし、仮想通貨やNFT(非代替性トークン)の「俗受け」する部分に焦点を当てたプロモーションは、期待外れに終わる可能性があるとミラー氏は話す。
「思いつきのプロモーションが、持続的な関係を生み出すことは少ない」とミラー氏はいう。「ブランドがここで直面する真のリスクは、これらの安全なデジタル通貨が今後定着し、来るべきメタバース経済における商取引のバックボーンとなることだ。今このようなプロモーションで消費者の信頼を失うことがあれば、来るべき没入型共有体験の世界で、その信頼を取り戻せないおそれがある」
仮想通貨が秘めている価値とは
チポトレでは、仮想通貨をプレゼントするだけでなく、支払いにも利用できるようにした。6月に、デジタル決済プラットフォームのフレクサ(Flexa)と提携し、仮想通貨で商品が買えるようになった。ほかにも、スターバックス(Starbucks)、グッチ(Gucci)、ホーム・デポ(Home Depot)、マイクロソフト(Microsoft)などの大手ブランドが、様々なパートナーを通じて、仮想通貨による支払いを受け付けている。
製品やサービスを購入する方法としてはまだニッチだが、5月に米国の成人2000人を対象に行われた調査では、仮想通貨を所有していない人のうち、今後1年間に購入する可能性が「低い」と答えた人が59%だったのに対し、「高い」と答えた人は41%に上った。
仮想通貨に慣れ親しむ人は増えつつあるが、マーケティングツールとして機能するかどうかは他の要因に左右されるとの見方もある。モーニング・コンサルト(Morning Consult)のメディア&エンターテインメント担当アナリスト、ケビン・トラン氏は、「消費者から、ブランドが手っ取り早く注目を集めたくて仮想通貨を戦略に組み込んだと思われないため、こうしたキャンペーンは、金融サービスやゲームなど、消費者が仮想通貨を連想しやすい企業に最も適しているかもしれない」と述べている。
この分野には一部で懸念があるにもかかわらず、チポトレは「Burritos or Bitcoin」キャンペーンで仮想通貨コミュニティを取り込むことに成功した。「たとえ市場が乱高下しようと、なお我々が仮想通貨を話題にしているということは、かなりの大成功といえる」とブラント氏は話す。「ネズミ講のようなものだと思っている人も確かにいるが、仮想通貨の有用性は高く、依然として多くの関心を集めていることは明らかだ」
[原文:How Chipotle is using crypto and gaming as gateways to loyalty]
Marty Swant(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島翔平)