この5年で、多くの高級ブランドが、Tモール(天猫)をはじめとする中国企業と提携し、大きなビジネスチャンスの広がる中国のファッション市場へと殺到した。これを受けて現在、ブランド各社は中国においてマーケティング活動やショーといった、販売だけを考えるのではなく、文化的に根付かせるような活動を精力的に行っている。
昨年夏、ルイヴィトン(Louis Vuitton)は、男性向けの2021年春夏コレクションにおいて、大手高級ブランドとして非常に早い段階で、バーチャルではないファッションショーの再開に踏み切った。ほかのブランドがパリからバーチャルなショーを配信する一方、同社は上海の黄浦江の川岸から非常にドラマチックで、リアルなショーを開催した。
ルイヴィトンに限らず、これまで欧米で開催されてきた多くのファッションイベントが、2020年に中国で行われた。中国の消費者をターゲットにしたオープンストアやソーシャルメディアアカウントに人員を再配置している高級ブランドは多い。小売においても、LVMHのオンライン販売を担当する24Sなど、中国に力を入れるため既存のプラットフォームを活用する流れが続いている。 また、ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)が七夕に合わせて限定商品を発売したように、中国における伝統行事に合わせてキャンペーンを展開するケースも増えた。
この5年で、数え切れないほど多くの高級ブランドが、Tモール(天猫)をはじめとする中国企業と提携し、大きなビジネスチャンスの広がる中国のファッション市場へと殺到した。 これらのブランドは、以前のように欧米に販売拠点を集中するだけでは不十分という認識が広がり、最近では中国人ユーザーの購買力への期待が高まるばかりである。これを受けて現在、ブランド各社は中国においてマーケティング活動やショーといった、販売だけを考えるのではなく、文化的に根付かせるような活動を精力的に行っている。
Advertisement
中国人の支出は国内市場へ移行
ブランドパフォーマンスエージェンシーのフォワードPMX(ForwardPMX)によれば、コロナ禍以前、中国人はパリやニューヨークといった国外旅行の際に高級ブランド品を購入していた。
だが中国政府が渡航を制限したことに加え、欧米諸国が感染拡大のコントロールに苦戦していることもあり、中国人の支出の大半が国内市場へと移行した。フォワードPMXの中国市場担当マーケットディレクター、ジョーイー・ユー氏は「2020年は、輸入関税が下がり、渡航制限も設けられたため、国内市場へと支出が戻ってきた」と語る。
「国内の高級品市場では、実際に年間売上高が成長を続けている。中国では中流階級が増え続けており、欧米や日本への渡航制限があっても、今後も高級品の購買意欲が落ちることはないだろう。デジタルネイティブ世代の登場と合わせて、高級品市場の成長は今後も続くだろうし、オンライン購入など本質的なデジタル化が進んでいくと考えられる」。
中国人消費者をひきつけるため
現在は、西側諸国がイベントやファッションショー、新規店舗の立ち上げを通じて中国人消費者をひきつけるのは困難な状況にあり、中国人顧客の獲得のために文化面での仕掛けに重点を置いた投資を行うブランドが増えている。Tモールの欧州におけるファッションおよび高級市場ディレクターを務めるクリスティーナ・フォンタナ氏は、2020年に中国以外の50を超える高級ブランドのTモールへの参入に携わった。同氏は、各ブランドは中国の消費者への効果的なマーケティングやリーチに苦戦していると語る。また2020年には、天猫での取引だけでなく、デジタルおよびリアルイベントを通じて中国人ユーザーに直接リーチしたいという需要が高まったという。
「中国の経済活動が本格的に再開してから、多くのブランドが注目するようになっている」とフォンタナ氏は語る。「デジタルイベントや中国の消費者について理解しようと、我々にコンタクトするブランドは多い。ただし、これらの側面を理解するのは、中国人でない限り、実際には非常に難しい。カルティエ(Cartier)やマイケル・コース(Michael Kors)といったブランドが中国でキャンペーンやデジタルのポップアップを展開するのを支援したが、これらのブランドが中国市場に対し苦慮しながらも非常に熱心に取り組んでいる姿が、とても印象深かった」。
2020年10月には、上海ファッションウィークが実際の会場で行われた唯一の大規模ファッションイベントとなった。90以上のブランドが参加し、たとえばガリア・ラハヴ(Galia Lahav)やユマ・ワン(Uma Wang)は中国開催のファッションショー初出展となり、またブラウンズ(Browns)やハロッズ(Harrods)といったブランドはイベントやポップアップを展開した。また、ディオール(Dior)をはじめとする高級ブランドが、中国で人気のオピニオンリーダーと提携するケースが増えている(こういったオピニオンリーダーは、いわば中国におけるインフルエンサーだ。英語では「Key Opinion Leader」と表記されることが多い)。またパクルー(Paklu)やTモールといった企業は、中国限定のキャンペーンを展開した。
文化的に根付くような目論み
今年、大手高級ブランドの業績発表では、中国以外の市場で売上が暴落したという報告が相次いだ。バーバリー(Burberry)が11月に行った発表によれば、中国で2桁成長を達成した一方で、それ以外の重点地域では売上が減少した。こういった売上面で大きな変化があるなかとあっては、文化的に根付くよう目論むのも当然といえる。現在の中国市場の優位性が今後も続くのか、続く場合はどの程度続くのかといった点については不透明だ。
フォワードPMXのAPACおよびロシア担当バイスプレジデントのヤンヤン・フロード氏は、「現在の日本のように、いずれは落ち着くだろう」としつつ、次のように指摘する。「だが中国は市場規模が非常に大きく、各地域の経済レベルが非常にダイナミックに動く。ファッションや高級品への需要は、ほかの多くの市場より長く続く可能性が高い」。
また、中国のファッション需要の拡大は、富裕層がリードしているわけではない。今やファッションのトレンドが中国から始まって、西側へと広まっていくケースが増えている。これは以前にはなかったことだ。7月には、中国のストリートスタイルの動画が英語圏のTikTokを通じて広まるという現象が見られた。中国版のアプリの動画を、米国のユーザーが投稿したことをきっかけに広まったのだ。これにより、米国ユーザーの多くが中国におけるファッションに触れ、中国のインフルエンサーが一晩にして中国国外で人気を博すようになった。たとえばインフルエンサーの@ergoozhang氏は、インスタグラムのフォロワー数が140人から1カ月で7万人以上にまで急増した。現在、中国市場に高い関心を持つ海外ブランド(欧米や日本などの中国国外のブランド)や小売企業が多数存在する。ただし、彼らの中国市場に対する関心は、もはや単に「どれだけ売れるか」だけではなくなりつつある。
[原文:How China’s swift recovery boosted it to fashion capital status]
DANNY PARISI(翻訳:SI Japan、編集:長田真)