ブランド、特にベンチャーに支援されたブランドは、いくつかの指標によって生死を分ける。なかでも顧客生涯価値(Customer lifetime value)と顧客維持率(retention rate)は、自社が売上高の5倍、10倍の価値を持つ企業であることを投資家に証明するうえで、特に重要だ。
ブランド、特にベンチャーに支援されたブランドは、いくつかの指標によって生死を分ける。なかでも顧客生涯価値(Customer lifetime value)と顧客維持率(retention rate)は、自社が売上高の5倍、10倍の価値を持つ企業であることを投資家に証明するうえで、特に重要だ。
しかし、こういった数値をなるべく良く見せようとして、ブランドのなかには数値計算における「工夫」を行うところがある。顧客のなかでも、もっとも価値の高いグループを選んでメトリックスを計算する、といった手法だ。
米DIGIDAYの兄弟サイト、モダン・リテール(Modern Retail)では、マーケティング専門家たちに調査を行い、実際よりも良い内容に見せるために、ブランドたちがメトリックスに対して行っている手法のうち、もっとも頻繁に見られる戦術を尋ねた。
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顧客生涯価値(CLTV)
顧客生涯価値は顧客の現在のではなく、将来の消費活動の予測であるため、たったひとつの正しい計算方法が存在するわけではない。「一般的に言えるのは、まず会社はなるべく大きな価値を報告したいということだ」と、2018年にナイキ(Nike)によって買収されたデータ分析企業ゾディアック(Zodiac)の共同ファウンダーであるダン・マカーシー氏は言う。マカーシー氏はエモリー大学のマーケティング教授でもある。
基本的に、顧客生涯価値はひとりの顧客が一生において、あるブランドに対していくら消費するかを計算しようとするものだ。この計算のなかで考慮される要素には、一度の注文における平均的な価値、一年において典型的な顧客がどれだけ頻繁に購入をするか、そして商品やサービスを顧客に提供するのにかかるコスト、などがある。提供しているサービスがサブスクリプション形式であれば、顧客が一般的にどれだけの長さを、サブスクリプション契約するかを考慮する必要がある。
そのため、企業に顧客生涯価値をどうやって計算しているかを尋ねると、その回答は極めて長いものになることがある。コネクテッド・フィットネス・サブスクリプションを提供するペロトン(Peloton)の場合、株式上場の際に提出されたS-1書類によると、月額39ドル(約4240円)のサブスクリプション料を新規サブスクライバーの数で掛け、彼らの平均月間解約率をもとに「推測される」生涯サブスクリプション月の数でさらに掛ける。
次に、ペロトンはその数を、サブスクリプション貢献マージンで掛ける。サブスクリプション貢献マージンとは、サブスクリプションによって生み出された利益をサブスクリプション収益で割ることによって導き出されたものだ。
この計算だと、ペロトンによると、新規のサブスクライバーひとりにつき、平均で顧客生涯価値は2017年で3433ドル(約37万円)、2018年で4015ドル(約43万円)、2019年で3593ドル(約39万円)になる。
顧客生涯価値を実際よりも高く見せるためにブランドたちが行う方法のうち、マカーシー氏がもっとも頻繁に目にするのはひとりの顧客から得られる合計の売上を計算するだけ、というものだ。この顧客獲得にかかったコスト、割引などのディスカウント、そしてプロダクトを顧客に届けるのにかかったコスト、などを含まない、というわけだ。某サブスクリプション・ブランドの成長部門バイスプレジデントのひとりは、とある企業が顧客生涯価値を計算するにあたり、プロダクト製造にかかった物質的なコストだけを計算に含み、配送料は含まない、という状況を見たことがある、と語った。
「顧客生涯価値は本来なら、どれだけの利益を生むことができるか、価値をどれだけ得ることができるか、を伝えるものだ。そのためセールスの数字だけを使って報告すると、顧客の価値を極めて過大に表してしまう」と、マカーシー氏は言う。その結果、多くの投資家たちはブランドの顧客生涯価値における顧客獲得コストの割合を知りたがる。
ほかの企業では、実際よりも高い割合の顧客がプロダクトを購入し続けるという前提になっていたり、顧客がプロダクトを利用する長さを過大に見積もったりする。
顧客維持(Retention)
顧客維持の計算に関して、もっとも大きな問題は、ブランドが選ぶ顧客グループだ。ブランドが最初に獲得する顧客がもっともブランドに対する信頼が高い、ロイヤルな顧客だ、とマーケターたちは言う。そのため最初の1年に獲得した顧客と5年目に獲得した顧客では、顧客維持率は異なるかもしれないのだ。
「解約率は線形であることは珍しい」と、サブスクリプション式のスキンケア・ブランドであるキューロロジー(Curology)でビジネス成長ツール部門の責任者であるアレック・バレットーウィルスドン氏は言う。そのうえで、1年目のサブスクリプション企業は「最初のひと月の解約率が10%で、次の3カ月が6%で、次の8カ月が5%」ということもあり得る、と説明する。
1年を通じて季節ごとのタイミングやサブスクリプションの流れも顧客維持を計算するときに考慮されるべきだと、彼は言う。たとえば、多くのキャンセルはサブスクリプション料請求の知らせの直後に起きる。
たとえばペロトンの場合、S-1のなかで顧客維持率はシンプルな方法で計算した、と述べている。四半期におけるキャンセル数のうち、再登録の数を引き、それを各月ごとの新規サブスクライバー数の平均値で割り、それを三カ月で割る、というものだ。
しかし、この計算で見えてこないのは、2018年6月以前はペロトンが提供していたサブスクリプションプランは12カ月、24カ月、36カ月であった、ということだ。現在行われている月ごとの契約は当時行われていなかった。
そのため、2018年6月以前に契約した顧客のなかには、サブスクリプションを維持している理由はキャンセルしたくないからではなく、すでに12カ月、24カ月、もしくは36カ月分の支払いを済ませてしまったからだ、という可能性がある。
2018年6月以前にどれだけの数の顧客がどのプランに登録したか、ペロトンは詳しい数は書いていない。ペロトンが最終的にひと月ごとの契約プランのみに移行したことを考慮すると、どちらにしてもほとんどの顧客はこの種のサブスクリプションを購入していた可能性は高いだろう。しかしこのプランなしでは、どの顧客がキャンセルのリスクを抱えているかを判別するのはより難しくなる。
そのため、顧客維持率を理解するもっとも良い方法は、複数の顧客グループを選んで確かめることだと、マカーシー氏は言う。それによって後期のグループで顧客維持率が変わっているかを確認するのだ。
「この種類の情報を提出書類で明かすのは嫌がる企業もいるかもしれないが、長期的には彼ら自身を助けることになる」と、マカーシー氏は言う。
Anna Hensel(原文 / 訳:塚本 紺)