2020年は、多くの大手ブランドがに TikTok デビューを飾った年となった。その多くは、新型コロナウイルスのパンデミック中にTikTokのユーザー数がほぼ2倍になったことを受け動き出した。
2020年は、多くの大手ブランドがにTikTokデビューを飾った年となった。
たとえばエルフ(Elf)は、TikTokでリアリティコンテスト番組をスタートした。チポトレ(Chipotle)も、複数のインフルエンサーとパートナーシップを組み、スーパーボウルのコマーシャルブレーク中に、プラットフォーム上で食品宅配の広告を出している。ダンキン(Dunkin’)は、TikTokのトップスター、チャーリー・ダミリオ氏がスポンサーとなり制作した飲料、ザ・チャーリー(The Charli)を発売した。
こうした投資の多くは、新型コロナウイルスのパンデミック中にTikTokのユーザー数がほぼ2倍になったことを受けての動きだ。そして、2020年は各ブランドが、Z世代のハブとしてではなく、むしろ独自のクセやリズムを持つ独特なエコシステムとして、TikTokを理解しはじめた1年だった。
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インスタグラム(Instagram)やFacebookと比べると、TikTokは広告事業ではまだ後れを取っており、2020年6月にマーケター向けプラットフォームのTikTok For Businessをローンチしたばかりだ。だが、TikTokでの口コミで評判となり、店頭から製品が消えたオーシャンスプレー(Ocean Spray)のような成功例は、TikTokでの良い位置での広告表示がブランドにとって信じがたいほど魅力のあるものになり得ることを証明した。多くの企業は、ブランデッドキャンペーンを通じてオーディエンスにアプローチし、TikTok自体の独特な個性を真似ようとしている。こうした状況を受け、TikTokは、インスタグラムやFacebookと同スケールの広告ハブになろうとしている。同社が先頃行ったショッパブル広告やショッパブルライブストリームの実験は、それを示すサインだ。
理解に時間がかかった理由
適切な動画があれば、どんなユーザーでもどんなブランドでも、一夜にしてバイラルな名声を得ることができるということに、ブランドはようやく気付いた。そこでブランドたちは2020年、ついに独自のブランドソングを作り、自己をパロディー化し、場合によっては従業員に投稿を促すことでTikTokを効果的に使う方法を学んだ。
ブランドがTikTokを理解するのに時間がかかった理由のひとつに、TikTokがブランド側にインフルエンサーの管理を放棄するよう勧めている点にあると、ガートナー(Gartner)のデジタルマーケティングアナリスト、クレア・タシン氏は話す。TikTok上のコンテンツが拡散する仕組みの根底には「再生産」がある。たとえばアプリのデュエット機能は、他ユーザーの動画を引用し、分割表示で投稿できるようにするものだ。これは、非常に緻密に作り込んだキャンペーンさえ、ユーザーの気まぐれに手が加えられることを意味する。
また同氏は「いまでもブランド企業の多くは、コンテンツ内で起こること、TikTokのダンスチャレンジで起こることをコントロールできないという感覚を抱いている。ただ、TikTokの本質に触れられれば、理解が深まるのではないか」と語る。
エルフのブランドソング
TikTokはほかのソーシャルメディアとは異なる。洗練されていないし、足跡機能もない。ほとんどのコンテンツは、アルゴリズムによって選ばれた動画が表示されるレコメンドタブを通じて視聴されるため、フォロワー数はそれほど重要視されない。ブランドたちは徐々に、こうしたTikTokの機能を理解するようになってきた。
コスメ企業のエルフは、状況を変えた初のブランドかもしれない。エルフは2019年10月、独自のダンスチャレンジと『アイズ・リップス・フェイス(Eyes Lips Face)』と呼ばれるブランドソングを公開。この取り組みは、同社に先見の明があったことを示している。また、これはブランドがプラットフォーム向けに独自の音楽を作ったはじめてのことだったと、TikTokサイドも2019年12月に認めている。そして2020年初頭には、ブランドソングはTikTokをマーケティングに活用する上で欠かせない要素となった。
エルフのブランドソングを手がけたのは、クリエイティブエージェンシーのムーバーズ+シェイカーズ(Movers+Shakers)。同社はこの取り組み以来、AmazonやNYX、DSWのためブランドソングも制作してきた。キャンペーンの多くはプリセットのチャレンジやダンスを伴うもので、上手く機能したものはひとり歩きし、ブランド側が想定していなかったコンテクストでブランドソングが投入されることもあった。
インスタグラムとは違う場所
ムーバーズ+シェイカーズの共同創業者、エバン・ホロウィッツ氏は、「コントロールの欠如は、このタイプのキャンペーンに慣れていない企業にとって、とても恐ろしいことだ」と語る。これは、マーケターがキャンペーンの脚本やテーマを設定するテレビCMとはかなり異なる。TikTokでは、「一般大衆に向かって、自分のCMを作ってくれと頼んでいるようなものだ」とホロウィッツ氏はいう。これは、ブランドにとっての最大の恐怖の源である一方、TikTokの魅力でもある。「一般の人々に自分のCMを作ってもらうなど、普通、正気とはいえないだろう」と、ホロウィッツ氏は話す。
ホロウィッツ氏によると、ムーバーズ+シェイカーズではそれぞれの曲をゼロから書き上げ、各企業に合わせて15秒の「サビ」を作る。作曲する際、ムーバーズ+シェイカーズは、典型的なジングルというよりも、スポティファイ(Spotify)のプレイリストに追加したくなるような、ブランドを想起させる曲を作ることを目指して、1秒毎にコンテに起こしていくという。「我々は、この15秒を可能な限りキャッチーに、耳に残るものにしたいと考えている」と、ホロウィッツ氏は語る。
タシン氏によると、ブランドは少しずつ、TikTokが「動画がたくさん挙げられているインスタグラム」、つまり「洗練され、キュレーションされることを望まないプラットフォーム」ではないことを理解しつつあるという。その代わりTikTokでは、不遜と荒唐無稽が流行ることが多い。
エリートTikTok(Elite TikTok)と呼ばれるTikTok上で見られるサブカルチャーは、その例だ。これは、ユーザーがバーリントン・コート・ファクトリー(Burlington Coat Factory)やイン・エヌ・アウト(In N Out)、H&Mのような大企業を装い、皮肉ったパロディーだ。
TikTokに適したブランド
TikTokで大きな人気を博したブランドは、主に美容とファッションの分野から出てきている。2020年にもっとも成功したブランドについて、TikTokが独自にまとめたものによると、NYX、ロレアル(L’Oreal)、アルド(Aldo)のほかに、エピック(Epic)やEAゲームズ(EA Games)などのゲーム企業によるブランドチャレンジが、結果を残しているという。
美容やファッションに関連するコンテンツは、視覚情報が重要になるという意味でTikTokには適している。しかし一方、TikTokは常識に捕らわれない、ユニークなブランドの後押しもしている。医薬品ブランドのムシネックス(Mucinex)は、TikTokで大ヒットを飛ばし、マスコットキャラクターをスターにした。実際、同社が2020年3月に展開したキャンペーン、#BeatTheZombieFunkは、10億回以上のビューを生み出している。同社の取り組みが上手くいった理由は、自社を冗談めかしていることにあるとタシン氏はいう。風邪薬をバカげた見た目のマスコットに仕立て、自社のキャンペーンに活用したのだ。
ウォルマート(Walmart)も、この1年でTikTok活用に挑戦した最大のブランドのひとつだ。同社は#WalmartHolidayShuffleのような、独自のブランドソングを持っており、企業としてはじめてTikTok上で直接ショッピングができるライブストリームをテストしている。さらにウォルマートは、従業員に仕事中にTikTokに投稿することを奨励し、報奨金を与えていた。これは、ダンキンなどのブランド企業が従業員を小規模インフルエンサーに変えようとしている例と同じアプローチだ。
ウェンディーズ(Wendy’s)のハンバーガーの作り方や、シャーウィン・ウイリアムズ(Sherwin Williams)のペンキの混ぜ方などを、従業員が紹介する動画が口コミで拡散したのを受け、ブランドたちはこうしたアプローチに注目しはじめる一方、規制しようとするブランドもいる。
まだ黎明期のチャンスが残っている
輝かしい1年を過ごしたTikTokだが、成長の余地はまだたくさんある。マーケターたちは以前、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)に対して、TikTokへの広告出稿は「Facebookとインスタグラムの3倍のコンバージョン率」をもたらすことができるが、その要因を探るためのデータを正確に追跡するのはまだ難しいと語った。一方インスタグラムは、広告プラットフォームとして活況を呈しており、マーケターにより正確なデータを提供できる。しかし、TikTokのショッパブル広告の実験は、TikTokがこれに取り組んでいることを示唆している。
TikTokには、まだ黎明期のチャンスが残っている。ホロウィッツ氏によると、今年、ブランドがこれほど活発になった大きな理由は、TikTokの成長に伴い、プラットフォーム上のコミュニティが急速に拡大していることにあるという。「マーケターのあいだにはまだ、TikTokがZ世代向けのものであり、歌って踊っているだけだという誤解がある」と、ホロウィッツ氏は語った。
[原文: How brands finally figured out TikTok]
MICHAEL WATERS(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:村上莞)