エクスペリエンシャルマーケティングの拠点として知られるSXSWだが、今回は当初からバーチャルで開催されることが決まっていた。2021年のSXSWは、米現地時間の3月16日から20日まで、完全オンラインで開催された。実際に、バーチャルなSXSWの演出はブランドによってさまざまだ。
昨年3月、新型コロナウイルス感染症の世界的流行という過酷な現実が誰の目にも明らかとなるや、テキサス州オースティンで開かれる超大型イベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」は中止に追い込まれ、参加を予定していたマーケターやエクスペリエンシャルエージェンシーは、企画の変更や調整に奔走した。一部は緊急時の予備プランに差し替えられたが、体験型のイベントのなかには、急遽、全面中止を余儀なくされた企画もあった。
しかし今年は、まったく事情が異なる。エクスペリエンシャルマーケティングの拠点として知られるSXSWだが、今回は当初からバーチャルで開催されることが決まっていた。2021年のSXSWは、米現地時間の3月16日から20日まで、完全オンラインで開催された。
そういうわけで、イベント主催者、スポンサー企業、マーケターの誰もが、必要な情報と時間を十分に確保したうえで、各種イベントの企画、ブランドプロモーションとカンファレンスの統合、オンライン広告の出稿などを準備することができた。
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「どういう付加価値を付けるか」
また、バーチャル開催におけるスポンサー企業との連携について、SXSWの特別企画を統括するブラッド・スパイス氏はこう述べている。「主催者の立場で言えば、もっとも重要なのは、スポンサー企業がバーチャルイベントにどういう付加価値を付けるかということだ。それにはいろいろな方法がある」。
実際に、バーチャルなSXSWの演出はブランドによってさまざまだ。たとえば、CNNやウィスコンシンチーズ(Wisconsin Cheese)などは、バーチャル企画の内容に合わせて、地元の業者が扱う菓子やチーズの詰め合わせを、SXSWの登録参加者に事前郵送している。
一方、HBOは派手な演出で知られるSXSWの常連だが、今年はバーチャルの特性を活かして、「HBOマックスオービット(HBO Max Orbit)」というデジタル体験を用意した。同社の動画配信サービスであるHBO Maxのコンテンツを素材として、イベント参加者が人気のキャラクターやシーンで遊べる企画となっている。さらに、TikTokなどは、パネル形式のコンテンツでオーディエンスの注目を集めたいという。
映画やドラマに関するゲーム
HBO Maxを運営するワーナーメディアのD2C部門で、ブランドマーケティングを担当するシニアバイスプレジデントのジェイソン・マルデリッグ氏は、「我々の年間のマーケティング計画において、[SXSWは]重要な位置を占めている」と語る。同社では、例年、人目を引く没入型の対面イベントを派手に展開するという。近年のSXSWでは、『ウエストワールド(Westworld)』や『ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)』をテーマとして、オーディエンスを作品の世界観に引き込む演出を用いている。
「今年、SXSWの協賛を決めた理由は、このフェスティバルにオンラインで参加する人々が普通にたどる行程をたどりながら、彼らにリーチしたいと考えたからだ。ブースを購入して、単発のイベントを実施するのではなく、当該のセクション全体のスポンサーになる必要があった」。
さらにリアル感を出す演出として、HBOマックスオービットという人の表情や身振りに反応するデジタルゲームも用意している。プレイヤーの動きに応じて、映画やドラマのキャラクターまたはシーンが表示され、クイズが出題される仕組みという。
チーズのバーチャル試食会
バーチャルゲームのような高度な技術力を用いることなく、没入型エクスペリエンスの提供をめざすブランドもある。たとえば、ウィスコンシンチーズは、パーソナライズしたチーズの詰め合わせを2021個、文字通り1トン近く用意して、3月第3週、SXSWの参加者に郵送した。コメディアンのニック・オファーマンがホストを務めるチーズのバーチャル試食会で、参加者にも郵送したチーズをいっしょに試食してもらうという趣向だ。
ウィスコンシンチーズの最高マーケティング責任者(CMO)を務めるスザンヌ・ファニング氏は、「みんなでわいわい集まって、パーティを楽しむ感覚をリアルに演出したかった」と述べている。今年のイベントにも、リアルで開催された前年までのSXSWと同額の予算を投じた。インタラクティブなチーズの試食会の開催を通じて、ありきたりのバーチャル施策とは一線を画するブランドアクティベーションをめざすという。
昨今、バーチャルイベントは珍しくもなくなった。それでもSXSWに戻ってきた理由を、ファニング氏はこう説明する。「バーチャルイベントはいくらでもあるが、SXSWは特別だ。このイベントで起こることに、世界が注目している」。
[原文:How brands are rethinking a virtual SXSW this year, from mailed cheese to immersive online games]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)